Scope2ガイダンス改定:ロケーションベース手法(LBM)

· 脱炭素

GHGプロトコルのScope2ガイダンス改定において、最も実務への影響が大きいと見られているのが「ロケーションベース手法(Location-based method:LBM)」の精緻化です。

これまでの「平均値ベース」の算定から、「時間」「場所」を反映した算定へと大きく転換する可能性があり、特に日本のようにスマートメーターが普及している国では、世界でも最も厳格な算定が求められる可能性があります。

本記事では、GHGプロトコルScope2全体の見直し記事の深堀として、ロケーションベース手法(LBM)について、最新の議論状況を踏まえながら、改定の内容、日本特有の論点、そして需要家が取るべき対応について整理します。

1. ロケーションベース手法(LBM)とは何か

ロケーションベース手法(LBM)は、企業が電力を使用する際、その地域の電力網(グリッド)全体の平均的な排出係数(ロケーション係数)を用いて、Scope2排出量を算定する手法です。

例えば、日本全体や特定エリアの平均排出係数を用いることで、簡便に排出量を算定できる点が特徴です。

一方で、この手法では「どの時間帯に電力を使ったか」や「再エネが多い時間に使ったか」といった実態が反映されないという課題がありました。

2. なぜ今、精緻化が求められているのか

従来のLBMは、年間平均値を用いることが多く、以下のような問題が指摘されてきました。

・昼間に再エネが余っていても評価されない
・夜間の火力依存の影響が見えない
・需要家の行動変容につながらない

このため、単なる平均値ではなく、「実際の電力系統の状態」を反映した指標へと見直す必要性が高まっています。

今回の改定では、LBMを「グリッドの炭素強度を管理する指標」と再定義し、より実態に近い形での算定を求める方向となっています。

3. 改定のポイント:時間・場所を反映した算定へ

今回の改定で最も重要なポイントは、「入手可能な中で最も精緻なデータを使用すること」が義務化される可能性がある点です。

これは「shall」という強い表現で示されており、単なる推奨ではなく、実質的な義務となる見込みです。

具体的には以下のような変化が想定されます。

・年間平均 → 時間別(アワリー)
・国平均 → エリア別
・単純係数 → 実態反映係数

これにより、電力の使用タイミングや場所が、直接的に排出量に影響する仕組みに変わります。

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4. 日本における適用可能性とエリア境界の議論

エリア区分の考え方

改定案では、地理的な境界として「運用グリッド(調整エリア)」が重視されています。

日本では、旧一般電気事業者の供給エリアに基づく9エリア(沖縄を除く)や、卸電力市場の入札ゾーンがベースになる可能性が有望と当社では分析しています。

日本は最も厳しい算定対象になる可能性

日本は約8,000万台のスマートメーターが設置されており、時間別の電力データが取得可能です。

そのため、「利用可能な最も精緻なデータを使う」というルールが適用されると、

・時間別(アワリー)
・エリア別

の排出係数を用いた、世界でも最も厳格な算定が求められる可能性があります。

5. 需要家排出係数という新しい評価軸

LBMの精緻化により、「どれだけ電気を使ったか」だけでなく、「いつ使ったか」が重要になります。

例えば、

・昼間中心の企業 → 再エネ比率が高く排出量が低くなる
・夜間中心の企業 → 火力比率が高く排出量が増える

といった差が生まれます。

これらを踏まえ、時間ごとの排出量を合計し、総電力消費量で割ることで、

需要家排出係数

という新たな指標が算出されます。

これは、その企業がどれだけ低炭素な時間帯に電力を使っているかを示す、新しい評価軸となります。

ロケーション係数よりも需要家排出係数が低ければ、その需要家は再エネの有効活用が進んでいる可能性があります。

反対に、需要家排出係数の方が高ければ、再エネを有効に活用できていない可能性があります。

6. 需要家・電力事業者への影響と対応策

LBMは、マーケットベース手法と異なり、

・非化石証書の購入
・PPA契約

といった手段では数値を改善できません。

そのため、実際の電力の使い方を変える必要があります。

需要家の対応

主な対応策は以下の2つです。

1.オンサイト再エネの導入
自社で発電することで、グリッドからの電力使用を減らします。

2.電力消費のタイムシフト
ロケーション排出係数の高い時間帯から低い時間帯へ消費を移します。これにより需要家排出係数を下げることができます。

電力事業者への影響

発電事業者にとっては、低炭素なエリアへの立地が価値を持つようになります。

また小売事業者には、

・時間別ロケーション排出係数の提供
・需要家の使用パターンデータの提供
・タイムシフトを促す料金設計

といった新たな役割が求められます。

7. スケジュールと今後の見通し

LBMの精緻化については、実務負荷の大きさから慎重論もあり、最終形はまだ流動的です。

現時点で想定されるスケジュールは以下の通りです。

・2027年:最終基準の確定
・2030年:本格運用開始

まとめ:LBMは行動変容を促す制度へ

今回の改定により、LBMは単なる計算方法ではなく、

電力の使い方そのものを変える仕組み

へと進化します。

特に日本では、スマートメーターの普及により、この変化が最も早く進む可能性があります。

企業にとっては、単なる証書購入ではなく、

・いつ電気を使うか
・どこで電気を使うか

という戦略が、脱炭素の成否を左右する時代に入ったと言えます。

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