Scope2ガイダンス改定:残余ミックスの全体像と企業への影響

· 脱炭素

GHGプロトコルのScope2ガイダンス改定において、「残余ミックス(Residual Mix)」の定義と算定方法の見直しは、マーケットベース手法(MBM)の信頼性を左右する重要な論点となっています。

残余ミックスは、企業が特段の契約を行わない場合の排出係数の基礎となるものであり、その精度や定義の違いは、Scope2排出量の結果に直接影響します。本記事では、パブリックコンサルテーションおよび関連資料をもとに、残余ミックスの基本概念、改定の方向性、SSSとの関係、そして企業への影響を整理します。

目次

  1. 残余ミックスとは何か
  2. なぜ残余ミックスの見直しが必要なのか
  3. 改定のポイント:定義の再整理
  4. SSSとの関係と役割分担
  5. 残余ミックスが存在しない場合の新ルール
  6. 需要家・電力事業者への影響
  7. 今後の論点と制度の方向性

1. 残余ミックスとは何か

残余ミックス(Residual Mix)とは、電力市場において契約証書や特定の環境属性が紐づけられていない電力の排出係数を指し、証書(EACなど)として主張された電源および個別契約により帰属が明確な電源を除いた残余の電源構成をもとに算定されるものであり、すなわち誰にも帰属していない電力の排出係数を意味します。

2. なぜ残余ミックスの見直しが必要なのか

従来の残余ミックスには非化石価値の二重計上リスク、定義の曖昧さによる国際比較の困難さ、市場の透明性の不足といった課題が存在しており、特に非化石証書などの普及に伴い、どの電源が既に主張されたのか、何が残余として扱われるのかが不明確となっていました。このためScope2改定では残余ミックスの定義を厳密に再構築する必要性が高まっています。

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3. 改定のポイント:定義の再整理

今回の改定では残余ミックスの定義が明確に再整理され、SSS(標準供給サービス)により配分された電源および任意契約により主張された電源を除外したものが残余ミックスとして扱われる構造となります。すなわち、既にいずれかの主体により主張された電源はすべて除外される仕組みとなり、これにより非化石価値の重複主張の防止および市場全体の整合性確保が図られます。

4. SSSとの関係と役割分担

残余ミックスはSSS(標準供給サービス)と密接に関係し、改定後はSSSがデフォルト電源の価値配分を担い、残余ミックスが未配分電源の排出係数を担うという明確な役割分担が形成されます。特にSSSに含まれる非化石価値は残余とはみなされず、SSSによる配分価値と残余ミックスに含まれる電源が制度上明確に分離される点が重要です。

5. 残余ミックスが存在しない場合の新ルール

今回の改定では残余ミックスが存在しない場合の扱いが大きく変更される可能性があり、従来のグリッド平均値の使用から、化石燃料ベースの排出係数を適用する方向が示されています。この変更はより保守的な算定を通じて過度な低排出評価を防止することを目的としています。

6. 需要家・電力事業者への影響

需要家への影響

残余ミックスの見直しにより、未契約電力の排出係数が上昇する可能性があり、MBMの結果がより厳格化するとともに証書やPPAによる追加調達の重要性が高まります。結果として、特段の対応を行わない場合の排出量は相対的に高く算定される傾向となります。

電力事業者への影響

電力事業者には残余ミックスの算定および開示の高度化、証書とのトラッキング管理の強化、市場全体での整合性確保が求められ、制度的には残余ミックスの透明性そのものが競争力の一要素となる可能性があります。

7. 今後の論点と制度の方向性

今後の主要論点としては国・地域ごとの算定方法の統一、SSSとの完全な整合性、時間単位(アワリー)との接続、日本の非化石証書制度との関係が挙げられ、特にアワリーマッチングとの統合が進展する場合には残余ミックスも単なる平均値ではなく時間別残余ミックスへと進化する可能性があります。

この見直しは非化石価値の帰属整理、市場の透明性向上、Scope2算定の厳格化を実現する基盤的改定であり、今後はSSS(デフォルト配分)、MBM(契約ベース)、残余ミックス(未配分)の三層構造が明確化される中で、「どの電力を使用したか」ではなく「どの環境価値を主張しているか」が厳密に問われる制度へと移行していきます。企業にとっては、残余ミックスに依存しない電力調達戦略の構築が不可欠となります。

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