AIに負けないキャリア戦略 ―現場・海外と「人間の都市鉱山」を掘れ

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最近、「AIに仕事を奪われるのではないか」という話をよく耳にします。

実際、生成AIの進化は驚くほど速く、資料作成、情報収集、分析、企画提案といったホワイトカラーの仕事の多くが、すでにAIによって代替され始めています。

アメリカでは若年層を中心に、AIの導入によって10%の仕事が消失したという調査結果も出ています。今後10年、20年、30年という長いスパンで見れば、ホワイトカラーの仕事はほぼ例外なくAIの影響を受けるでしょう

では、これから社会に出る学生や若い人たちは、どのようなキャリアを描けばよいのでしょうか

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まずはAIを使い倒してみる

よく聞く答えは二つあります。一つは「まずAIを使いこなせ」というものです。ChatGPTでも何でもいいから、自分で触ってみること。

もう一つは「AIにはできないコミュニケーション能力を身につけろ」というものです。

どちらも正しいと思います。

しかし私は、その先にもう一つ重要な視点があると思っています。

それは、「AIが集められないデータを集めて脳みそやオフラインで保存する」ということです。

AIは膨大なデータを学習していますが、その多くはインターネット上に存在する文字情報や画像、音声です。

逆に言えば、クラウド上に存在しない情報は苦手です。だからこそ、まずAIを使い倒し、どこまでできるのか、どこから先が苦手なのかを知ることが出発点になります。

AIの外側にある「現場」の価値

AIが苦手な領域の代表例が現場です。例えば工場の独特な匂い、建設現場の緊張感、飲食店のピークタイムの慌ただしさ、地方商店街の空気感、人々の表情や疲労感。こうした五感を通じて得られる情報は、現在のAIには十分取得できません。

だから私は、若いうちにできるだけ現場に出ることを勧めたいと思います

メーカーに入って工場勤務を経験するのもいいでしょう。不動産営業でも、建設現場でも、飲食店でも構いません。

実は私自身、大学時代にマクドナルドでアルバイトをしていました。

毎日ハンバーガーを焼き、ポテトを揚げ、レジに立っていました。当時は単なるアルバイトだと思っていましたが、その経験は何十年経った今でも役に立っています。

組織がどのように動くのか、人はどのようにミスをするのか、現場では何が本当に重要なのか。机上では学べないことを経験できたからです。

AI時代に価値を持つのは、意外にもこうした泥臭い経験なのかもしれません。

海外に出ることは最高のデータ収集である

もう一つ私が強く勧めたいのが海外、とりわけ新興国です。

私は今、仕事でタイを訪れています。

この原稿も、打ち合わせの合間にAIの助けを借りてバンコク郊外のショッピングモールのフードコートで考えています。目の前には家族連れがいて、若者たちがスマートフォンを見ながら食事をしています。

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一見すると日本の郊外にあるイオンのショッピングモールとよく似ています。

しかし、よく観察すると違います。人々の年齢構成、食べ物の種類、服装、会話のテンポ、経済成長に対する期待感。そのすべてが微妙に異なっています。

AIは統計データを教えてくれます。しかし、その国の空気までは教えてくれません。

実際に行った人だけが感じられる情報があります。そして海外に出ると、日本がいかに特殊な国であるかも見えてきます。

高齢化、人口減少、都市集中、成熟市場。日本では当たり前だと思っていることが、世界では当たり前ではありません。

日本の未来を考えるためには、日本だけを見るのではなく、世界の中で日本を見る視点が必要なのです。

他人ができない組み合わせを作る

とはいえ、現場に行くことも海外に行くことも、他の人がやろうと思えばできます。

そこで重要になるのが、「自分だけの職歴組み合わせ」を作ることです。

教育改革で知られる藤原和博氏は、「100分の1を3つ掛け合わせれば100万分の1の人材になれる」と語っています。私はこの考え方が非常に本質的だと思います。

例えば、電力の現場を知っている、海外の現場を知っている、生成AIを使いこなせる。この三つを組み合わせるだけでも、かなり希少な人材になります。

あるいは、介護の現場経験があり、データ分析ができて、東南アジアで働いたことがある人も少ないでしょう。

私の知人は、高専で電気工学を学んだあと、クリーニング屋の受付でほぼワンオペで働き、今ではメディアで活躍しています。

重要なのは、一つの分野でナンバーワンを目指すことではなく、自分だけの組み合わせを作ることです。

「人間の都市鉱山」を掘れ

しかし、「組み合わせ技法とてAIに凌駕されるじゃないか」とおっしゃる方もいるかもしれません。

そこで最後に圧倒的な勝ちパターンテクニックをそっとお知らせします

それは「職場にいるおじさん、おばさんの話を聞け」ということです。

若い人から見ればおじさんやおばさんの話を聞くのは面倒くさいかもしれません。タイパも悪いし、コスパも悪い。話も長いし、説教も始まるかもしれません。

もしかしたら90%あるいは、99%無駄な知識かもしれません。でも1%でもきらりと光る知見が眠っている可能性があります

私はこれを勝手に「人間の都市鉱山」と呼んでいます。

都市鉱山とは、使われなくなった電子機器の中から金やレアメタルを回収する考え方です。同じことが人間にも言えるのではないでしょうか。

50代、60代、70代の人たちの頭の中には、インターネットに載っていない経験が大量に眠っています。

オイルショック、バブル経済、高度成長、金融危機、技術革新、組織改革。

おじさんの脳みそという使い終わったパソコンから金をとりだすのです。

そうした知見の多くは、十分に言語化されてデータ化されてクラウド上でAIの学習に使われることのないまま永遠に消えようとしています

その人たちはは今まさに引退し、そして亡くなってしまえば、そのデータは永久に失われます。どれだけAIが進化しても、存在しないデータを学習することはできません

そんな一見無駄と思えることは、今の若い方々はだれもやろうとしません。だからこそ差別化が可能です。

もちろんどんなおじさん、おばさんでもよいというわけではありません。金が眠ってそうなおじさんを探すのです。そういう人は意外と無口で、あまり存在感はありません

私のいる電力業界では特にこれが言えると思います。これから分散化、デジタル化、再エネ化が急速に進みます。

しかし30年前、40年前のアナログな電力システムを知っている人の話を聞くと、なぜ現在の制度が存在するのか、その背景が見えてきます。

そして過去が見えると、未来も少し見えてきます。現在の点だけを刹那的に生きていてはみえないことが多々あると思います。

ましてやこれからインフレ時代です。歴史は繰り返す。

彼らの知見と最新のデジタル知見をあなたの脳の中でマッシュアップして、保存しておけばこれは大きな武器になります。

AI時代に本当に価値を持つもの

結局のところ、AI時代のキャリア戦略は意外にシンプルです。

  • まずAIを使い倒すこと。次にAIの苦手な領域を探すこと。
  • そして現場や海外、人間関係の中から、AIが持っていないデータを集めること。
  • さらに、それを自分だけの組み合わせとして編集することです。

AIが賢くなればなるほど、人間に求められるのは「AIが知らないことを知っている人」になることです。

かくいう私も廃棄物化するおっさんの領域にありますが、しかし、もし今、私が学生に戻れるとしたら、おそらく生成AIを毎日使いながら、できるだけ現場に足を運び、できるだけ海外を歩き回り、そして週に一度は年上の人の話を聞きに行くと思います。

なぜなら、AIが進化すればするほど、人間の価値はAIが持っていないデータに宿るからです。

クラウドの中にある情報は、いずれ誰でも手に入れられます。しかし、現場で感じた空気、海外で受けた驚き、そして先人たちから受け継いだ経験は、自分で取りに行かなければ手に入りません。

これからの時代に本当に希少になるのは、AIを使える人ではなく、AIを使いながらも、人間にしか集められないデータを持っている人なのではないか

私はそんなことを、タイのショッピングモールのフードコートで考えています。

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