石炭か再エネか?不毛な二項対立ではなく、排出回避係数とアワリーマッチングで定量的な比較分析で科学的な議論を
石炭か再エネか?不毛な二項対立ではなく、排出回避係数とアワリーマッチングで定量的な比較分析で科学的な議論を
おはようございます。今日は6月1日月曜日。当協議会では本日もタイ・バンコクにて、アワリーマッチングの普及促進に向けた関係者との事業開発コンサルテーションを行っていきます。

日本でも報道されていますが、タイでは、日本以上に中東危機による石油・LNGの供給不安が人々の生活に深刻な影響を及ぼしてます。月曜の朝なのに、通りを走る自家用車やバイクの交通量は、以前に比べて明らかに減少しています。
こうした状況の中で、当地でも、LNG・石油依存を減らすため、一刻も早く再生可能エネルギー100%へ移行すべきだという議論と、中東依存度の低い石炭火力を活用すべきだという議論が並行して存在しています。
再エネか石炭かという二項対立を超えて
しかし、この議論を「再エネか石炭か」という二者択一で捉えることは不毛ですし、どこにもたどりつきません。
まず第一に、残念ながら現時点では、再エネがどの時間でもどの地域でも安定的かつ安価で導入可能ではないという現状認識を広く共有する必要があります。
次に、再エネを十分に活用(新規も含めて)したうえで、原子力や大型水力を活用し、安全保障上どうしても足らざる部分は火力発電を使うというロジックについてコンセンサスを醸成する必要があります。
そのうえで、第三に、
- CO2排出量の増減量の定量化、
- 新規電源も含めた長期的な固定費と変動費の定量化、
- 各電源種毎のサプライチェーンの脆弱性などの供給リスクの定量化、
という3つのKPIを定量化して、これを1つの方程式に変数として落とし込んででシミュレーションして、相矛盾する3つの変数の最適ミックスを探っていくという科学的・論理的アプローチが求められているといえるのではないでしょうか?
タイでも日本でも、残念ながら現時点では再生可能エネルギーだけで全時間帯・全地域の需要を直ちに賄うことは容易ではありません。一方で、供給不安を理由に化石燃料への依存を固定化すれば、長期的な脱炭素や財政負担や電気料金増嵩の問題を残すことになります。
一方で気を付けたいのが、スペインや英国では既に再エネ100%グリッドを時間によっては達成していて、揚水発電所や蓄電池の新規導入によって全時間非化石電源100%も直ぐにではないけれども、10~20年スパンで見れば現実味を帯びているという事実です。
欧州がグリーン製品に対する輸入規制を強化したり、国際標準化を図っているなかで、日本で化石燃料発電が未来永劫にわたり固定化すると輸出産業やサプライチェーン上にある企業が深刻な打撃を被るリスクがあります。
一方で、再エネとストレージや送電網をその費用を考えずに大量導入し、これと並行してやはり巨額の費用をかけて化石電源を予備的に建設するといった余裕は日本にはありません。
従って、必要なのは「再エネか石炭か?」という感覚的な議論ではなく、時間単位・地域単位で電源構成を検証する定量的なモデルです。
CO2排出量、セキュリティ、費用を1つの方程式の中で統合させ、これから10-20年にわたりどの電源がどの時間帯にどれだけ必要なのかを数字で把握しなければ、最適な電源構成は見えてきません。
実はそれはロケットサイエンスではなく、AIやスーパーコンピューターなどの力を借りなくても、エクセルスプレッドシートのマクロで十分に可能な世界です。
30分単位・20年スパンで検証可能なシミュレーション
例えば東京電力管内の電源構成について、30分単位の48コマを365日、20年というコマで考えてみましょう。そのコマ数は35万400です。
縦行にそのコマを置いて、横列に電源種とその排出係数を置きます。ストレージ列も置きます。せいぜい200列です。
別シートで、新規・既存電源の固定費・変動費を置いておきます。また電源種・あるいは発電所ごとにサプライチェーンリスクを定量化した指標を置きます。
エクセルでもいくつかのシートに分割すれば簡単に格納できます。高校数学2次方程式の範囲内でモデル式が完成します。
そのうえで、各時間帯の需要量、太陽光・風力・水力などの再エネ出力、火力・原子力の稼働条件、固定費、変動費、燃料価格、CO2排出係数、燃料調達の信頼性などを入力し、複数のシナリオを比較します。
その結果として、再エネ比率を高めた場合、石炭を一定程度維持した場合、LNGを主体とした場合など、それぞれのケースにおけるコスト、排出量、供給安定性を比較することができます。
アワリーマッチングが示す需要と供給の実態
ここでアワリーマッチングは非常に有効な分析手法になります。
まずマーケット基準では、再生可能エネルギーがどの時間帯に、どの需要家群とどれだけ一致しているかを把握できます。環境価値を高く評価し、WTP(支払い意思)の高い需要家がどの時間帯の再エネを購入できるのか、余剰分や不足分がどの程度発生するのかを見れば、残余需要として必要となる火力発電の量も明確になります。
つまり、再エネを単に年間発電量で評価するのではなく、「いつ発電し、いつ消費されたのか」という時間情報を加えることで、現実の電力システムに近い評価が可能になります。
ロケーション基準での分析
もう一つ重要なのが、ロケーション基準での分析です。
石炭、LNG、石油にはそれぞれ固有の排出係数がありますが、一方で電力系統全体の平均排出係数は時間帯によって大きく変化します。
昼間に太陽光が大量に発電している時間帯と、夜間に火力依存度が高まる時間帯では、同じ発電所の追加稼働が持つ意味も変わります。
アワリーマッチングによる需要との一致率分析と、時間帯別グリッド排出係数を組み合わせることで、実際にどれだけのCO2削減が実現できるのかをより精緻に評価できます。
排出回避係数という新しい視点
さらに重要なのが「相対回避係数」という考え方です。
例えば、ある高効率火力発電所の排出係数が0.45kg-CO2/kWhであり、ある時間帯のグリッド平均排出係数が0.60kg-CO2/kWhであれば、その電源を限界的に投入することで系統全体の平均排出係数を引き下げる可能性があります。
一方で、太陽光が大量に発電している時間帯にグリッド平均排出係数が0.30kg-CO2/kWhまで低下している場合、同じ発電所を稼働させれば全体の排出量は増加してしまいます。
つまり発電所の排出係数が高くても、地域や時間によっては、(グリッド排出係数が高い場合)むしろ送配電網全体の排出量を下げることができるし、逆に排出係数が低いか0であったとしても、グリッド排出係数が十分に低い時(例えばスペインでは再エネほぼ100%の状況が現出)には限界的な効用が低いということです。
場合によっては、夜の高効率火力の方が、昼の再エネよりも限界効用が高くなることももありえます。
つまり、グリッドの排出量が0ではないし変動するという現実を踏まえれば、発電所固有の排出係数だけを見ているのではなく、時間帯・地域ごとのグリッド係数との相対有意性を見ることが重要であるということです。
この考え方は、石炭、LNG、石油、原子力、再エネのすべてに適用できます。
コスト・脱炭素・エネルギー安全保障の同時最適化
こうした分析を進めることで、石炭火力やLNG火力についても単純な善悪論ではなく、稼働時間、固定費、変動費、燃料調達リスク、CO2排出量を組み合わせて評価できます。
新設設備であればCAPEXやIRRを含めた20年単位、あるいは40年単位の投資判断も可能です。
既設設備についても、延命した場合と廃止した場合のコストや排出量を比較できます。
そのうえでどうしても必要ならば化石電源や揚水発電所新設や国営化を議論の俎上にのせてもよいでしょう。
科学的な議論のための共通モデルを
中東情勢の不安定化は、東南アジアにとって大きなリスクである一方、電力システムをより精緻に見直す契機にもなります。
アワリーマッチングと時間帯別排出係数を組み合わせたシミュレーションを行えば、再エネ拡大、火力の最小限活用、蓄電池や需要側調整の役割を具体的に議論できます。
「LNGが不安だから石炭へ戻る」「再エネ100%で直ちに解決する」といった単純な議論ではなく、時間、地域、需要家、電源ごとのデータに基づく分析が求められます。
タイ、日本、そして東南アジア全体において、アワリーマッチングと時間帯別排出係数を活用した科学的・定量的な電源構成モデルの構築に早急に着手し、その結果を政策議論の共通基盤として活用していくことが重要ではないでしょうか。
まず日本で先んじてモデルを確立して、低炭素電源、電源計画・系統計画ノウハウとパッケージで新興国に展開する。中東危機に即効性はないけれど、途上国の将来を救うことも可能です。
これからの議論にあたっては、是非こうした科学的な手法を用いていただければと考えます。
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