需給調整市場、揚水随意契約を考える。日本に揚水発電所は必要か?

· 需給調整市場,蓄電池事業,電力システム改革,火力発電,送電・系統運用

経済産業省の電力・ガス取引監視等委員会は、2026年5月29日に開催した第20回制度設計・監視専門会合において、2026年度における揚水随意契約(揚水随契)について議論を行いました。

系統用蓄電所の事業者から見ると、せっかく需給調整市場での取引で収入を得ようと意気込んでいたところ、揚水の市場取引の外側での随意契約は「不透明」と映るかもしれませんし、発注者である送電会社と、揚水発電所は元々同じ会社だったのだから、本当に公正性は保たれているのかという疑念を持たれるかもしれません。

一方で、本来、揚水発電所を含めた長期間の巨額な投資計画と、大規模な土木工事を要するストレージと、規模の効率性を必要としない即応性の高い蓄電池はその事業や技術的特性は大きく異なるため、送電網の維持には両方とも必要欠くべからずものだという考えもあります。

スペインの送電系統運用者や欧州送電系統運用者ネットワーク(ENTSO-E)は、市場原理で多くの蓄電所の導入を図る一方で、近年の系統計画において送電網増強と揚水発電所を含めた大規模ストレージを一体的に評価する考え方を進めています。つまり揚水発電所は中規模蓄電池と費用対効果を競うのではなく、送電網新規建設と競うという、日本とは異なるコンセプトとなっています。

ENTSO-Eは2026年4月、送電プロジェクト199件と揚水発電所を含むストレージプロジェクト69件を含むTYNDP(Ten-Year Network Development Plan)プロジェクトポートフォリオを公表し、将来の欧州電力システムに必要なインフラを統合的に評価する方針を示しました。

そこで、今回は、日本における揚水発電所と送電網計画との関係を考えてみたいと思います。

論点1 揚水と蓄電池は同じものとして扱うべきか?

近年、日本では系統用蓄電池の導入が急速に進んでいます。しかし、揚水発電と蓄電池を同じ枠組みで議論することには無理があるという考えも成り立ちます。

日本の主要な揚水発電所の多くは1970年代から1990年代にかけて計画されました。当時は高度経済成長とバブル景気を背景に電力需要の大幅な増加が見込まれており、原子力発電所の夜間余剰電力を活用する設備として整備された経緯があります。多くは総括原価方式の時代に計画され、建設から運転開始まで10年以上を要した案件も少なくありません。

その後、日本の最大需要は想定ほど伸びず、原子力発電所の新増設運転開始も計画通りには進みませんでした。一方で当時は想定されていなかった太陽光発電や風力発電の大量導入が進み、揚水発電に求められる役割も大きく変化しています。

原子力の出力変動を吸収するためのストレージと、太陽光や風力の変動に対応するためのストレージでは求められる調整力の性質が異なります。幸運にも既存揚水設備には一定の余裕がありましたが、多くの設備が高経年化の時期を迎えています

今後は大規模改修や延命投資をどう進めるのか、さらには新設揚水を現在の市場制度で実現できるのかが問われています。揚水発電は数十万kWから100万kW級となることが一般的で、投資額も数千億円規模に及びます。蓄電池事業とは事業リスクや投資回収期間が大きく異なり、単独企業やプロジェクトファイナンスだけで負担することは容易ではありません。

論点2 揚水発電と送電網投資・管理を切り離すべきか?

もう一つの論点は発送電分離との関係です。

日本では電力自由化の「目玉」として、2020年に発送電の法的分離が実施されましたが、その制度設計は欧州の自由化モデルを参考にしています。ただし、欧州が本格的な発送電分離を進めた2000年代後半は、現在ほど再生可能エネルギーの導入量が大きくありませんでした

かつて旧一般電気事業者では、揚水発電を含む水力部門と送変電部門は工務部門の中で密接に連携していました。地域によって組織構成は異なるものの、同じ部門や近接した組織で運営され、設備計画、人材育成、技術継承、資金調達などが一体的に行われていました

揚水発電は流れ込み式の一般水力発電所とは異なり、系統運用そのものに深く関わる設備です。そのため送電網や需給運用との連携が不可欠となります。

今回議論となっている揚水関連の随意契約についても、外部から見ると「もともと一体だった設備や組織の延長線上にあるのではないか」という見方が出る可能性があります。系統用蓄電池事業者の立場からは、公平な競争環境が維持されているのかという論点も提起され得ます

さらに発送電分離後はファイアウォール規制が導入され、送配電部門と発電部門の情報共有が制限されています競争政策上は重要な仕組みですが、その一方で揚水発電の運用ノウハウや系統知見の共有が以前より難しくなったとの指摘もあります

欧州はなぜ揚水発電所の新規建設が可能なのか?

上記のように、欧州では発送電分離が行われているにもかかわらず、スペインのAGUAYO IIなど大規模揚水プロジェクトが進んでいます。当協議会では、スペイン現地調査で、この事業を分析しています。

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AGUAYO IIは出力約1,000MW級の可逆式揚水発電所で、再エネ大量導入時代の長時間ストレージとして位置付けられています事業主体は石油大手レプソル系企業であり、旧電力会社ではありません

前述のように、欧州では送電線と揚水発電を別々に計画するのではなく、ENTSO-EのTYNDPの中で送電網、ストレージ、水素インフラを同じ費用便益分析の枠組みで評価しています。

つまり系統制約を解消するため、「送電線を造るべきか」「揚水を造るべきか」「蓄電池を導入すべきか」を社会全体のコスト最小化という観点から比較しています。発電と送電は分離されていても、計画段階では統合的な評価が行われているのです。

日本でも再エネ導入量の増加とともに、揚水発電を単なる発電設備として扱うのではなく、系統インフラの一部として評価する必要性が高まる可能性があります。さらに言えば、系統用蓄電池と送配電の設備投資計画もトレードオフで考えるのが合理的という考えも成り立ちます。

既設揚水の大規模修繕や延命投資、さらには将来的な新設案件を真剣に検討するのであれば、容量市場や需給調整市場だけではなく、長期的なインフラ投資としての制度設計やファイナンスの在り方も議論の対象とすべきかもしれません。

30年前は、揚水発電所の技術は日本の重電が優れた技術を有していました。ですので、揚水発電所の建設は、日本の産業政策としても検討されるべきかもしれません。

欧州で進む統合計画の考え方は、その参考となると考えます。

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