EU、CBAM本格適用へ移行 GHG排出量の可視化が国際貿易とサプライチェーン戦略を左右

· サステナビリティ,Scope2

欧州委員会は、炭素国境調整メカニズム(CBAM:Carbon Border Adjustment Mechanism)の導入を進めています。CBAMは、鉄鋼、アルミニウム、セメント、肥料、水素、電力など、温室効果ガス(GHG)排出量の多い輸入製品に対して、EU域内企業と同等の炭素コスト負担を求める制度です。

EUは、2030年までに1990年比でGHG排出量を55%削減する「Fit for 55」政策パッケージを推進しています。CBAMはその中核制度の一つとして位置付けられており、EU域内企業だけに炭素コストを課した場合に発生しうる「カーボンリーケージ」を防ぐことが目的です。

カーボンリーケージとは、環境規制が厳しい地域から規制の緩い地域へ生産移転が進み、結果として世界全体の排出削減が進まなくなる現象を指します。EUは、輸入品にも一定の炭素価格を反映させることで、EU域内外の競争条件を公平化し、グローバルな脱炭素化を促進する狙いを示しています。

EU ETSと連動するCBAMの仕組み

CBAMは、EU ETS(EU排出量取引制度)と連動する仕組みとして設計されています。

EU ETSでは、EU域内企業に対しCO2排出量に応じた排出コストが課されていますが、輸入製品は対象外となっていました。そこでCBAMでは、対象輸入品について、製造時に排出されたGHG量を算定し、その量に応じて「CBAM証書」の購入を求める形が採用されています。

炭素排出コストは、EU ETS価格をベースに計算されます。輸入者は、対象製品の製造過程で排出されたCO2量を報告し、その量に応じたCBAM証書を購入・償却する必要があります。

対象製品には、鉄鋼、アルミニウム、セメント、肥料、水素、電力などが含まれています。これらは製造時のエネルギー消費量やCO2排出量が大きい産業であり、EUでは特に重点的な削減対象と位置付けられています。

輸入者には「認可CBAM申告者」としての登録が求められ、排出量報告や証書管理など、詳細な実務対応が必要となります。

2026年から本格適用へ

CBAMは2023年10月1日から移行期間へ入っており、2025年末まで継続されます。この期間中は、対象製品の輸入者に対して排出量報告義務が課される一方、CBAM証書購入義務は発生しません。

EUはこの移行期間を、企業側のデータ整備や報告体制構築、制度運用改善のための準備期間として位置付けています。

2026年1月からは本格適用へ移行し、実際にCBAM証書購入義務が発生する予定です。輸入者は毎年5月末までに、前年度輸入量に応じたCBAM証書を償却する必要があります

適切な報告や償却を怠った場合には、1t-CO2あたり最大100ユーロの罰則が科される可能性があります。

また、欧州委員会は2025年以降、Omnibus packageを通じて制度運用の簡素化も進めています。輸入量が少ない事業者向け閾値設定や、一部軽微加工品の除外、デフォルト値利用柔軟化などが検討されており、実務負荷軽減も図られています。

日本企業への影響と求められる対応

日本企業の中でも、特に鉄鋼、アルミニウム、化学品、電力関連などの産業はCBAMの影響を受ける可能性があります。

EU向け輸出を行う企業では、製品ごとのGHG排出量把握や報告対応が求められます。特に、製品単位の排出量管理やサプライチェーン全体の排出量把握が重要となり、従来以上に詳細なデータ整備が必要となる可能性があります。

また、排出量の少ない製造プロセスへの転換や、再生可能エネルギー利用拡大、低炭素技術投資なども競争力維持の観点から重要になりつつあります。

CBAMは単なる環境規制ではなく、製品価格やサプライチェーン構造、投資判断へ影響する制度として位置付けられています。特に、鉄鋼、自動車、EV電池、データセンターなど電力多消費型産業では、製品製造時の電力由来排出量への注目が高まっています。

GHGプロトコル改定議論との関係

こうした中で注目されているのが、GHG Protocol Scope2改定議論との関係です。

GHG Protocolは、企業の温室効果ガス排出量算定ルールとして世界的に利用されており、多くのESG開示制度や企業目標の基盤となっています。Scope2は、購入電力由来の排出量を扱う枠組みであり、現在は年間平均型の再エネ証書やPPA(電力購入契約)を用いた算定が一般的です。

一方、近年はGoogleやMicrosoft、EnergyTagなどを中心に、「電力消費と再エネ発電を時間単位で一致させるべき」という議論も広がっています。いわゆる「アワリーマッチング(Hourly Matching)」や「24/7 CFE(24時間365日のカーボンフリー電力)」と呼ばれる考え方です。

ただし、これらは現時点で国際標準として確定しているわけではありません。データ整備、系統制約、コスト、地域差など課題も多く、GHG Protocol側でも引き続き議論段階にあるとみられています。

もっとも、仮に将来的にScope2ルールがより時間粒度の細かい方向へ高度化した場合、CBAMにおける製品CO2評価へ一定の影響が及ぶ可能性も考えられます。例えば、「再エネを使っているか」だけでなく、「どの時間帯に、どの地域で発電された電力なのか」といった情報が、一部産業で重視されるシナリオも考えられます。

特に、グリーン鉄、グリーン水素、EV電池、データセンターなど大量の電力を消費する分野では、「電力の量」だけでなく、「電力の質」そのものを評価する方向へ議論が進む可能性もあります

現時点ではアワリーマッチング義務化などが決定しているわけではありませんが、Scope2算定や電力属性管理の高度化が、将来的に国際貿易やサプライチェーン戦略へどのように波及していくのか、今後とも注視が必要です。

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