中長期取引市場の意義と方向性について:これまでの議論を整理

· 中長期市場,電力システム改革

中長期取引市場については、主に「次世代電力・ガス事業基盤構築小委員会」およびその下部組織である「電力システム改革の検証を踏まえた制度設計ワーキンググループ(WG)」において議論が進められています。

背景と問題点

現在、電力(kWh)の取引は主にスポット市場(JEPX)で行われており、その取引量は全需要の3割程度に達しています。しかし、スポット市場は価格の変動幅が大きく、客観性の高い電力価格指標として用いることが難しいという問題があります。

このため、小売電気事業者にとっては安定的な電源調達が難しく、発電事業者にとっては事業の予見可能性や投資回収の見通しが立ちにくいという課題が生じています。

さらに、旧一般電気事業者による内外無差別卸売などの相対取引も行われていますが、各社の卸売条件を比較することが困難であり、小売電気事業者にとって調達しにくいとの指摘もあります。

中長期取引市場の意義と方向性

こうした背景から、小売電気事業者が供給力の調達手段やポートフォリオを多様化できるよう、中長期取引市場の整備が議論されています。

中長期取引市場の意義は、「広く参照可能で適正かつ安定的な電力価格指標の形成」と、「供給力確保義務を課された小売電気事業者による中長期での供給力の安定的な調達」にあると整理されています。

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具体的な論点と制度設計の方向性

WGのとりまとめ案等では、以下のような具体的な論点と方向性が示されています

  • 取り扱う商品と価格設定:中長期の相対取引で取り扱われる商品のうち、定型的なものに相当する商品を扱います。
  • 取引年度は実需給の3年前と1年前を基本とし、受渡し期間は原則として単年(1年間)とされます。商品の価格設定については、電源の固定費と可変費をベースに各発電事業者がそれぞれの考え方に基づき設定することが基本とされています。
  • 約定方式:小売電気事業者が自らの供給力確保義務に柔軟に対応できるよう、取引機会が多く制約が少ない「ザラバ方式」の採用を第一に検討を進めることとされています。
  • 市場監視のあり方:上限価格の設定やコストベースでの価格算定根拠の確認といった直接的な価格規制はなじまないと考えられています。一方で、不当な売り入札や協調的行為、支配的事業者による売り惜しみ・買い占めなど、市場の公正性を損なう行為については監視が必要と整理されています。
  • 他市場との関係(容量市場・ベースロード市場)容量市場の応札価格には固定費が含まれているため、中長期取引市場との間で発電事業者による固定費の二重取り(小売事業者による二重払い)が生じる恐れがあり、これを回避する調整が必要とされています。また、ベースロード市場については、中長期取引市場の創設によって目的や役割が代替できると考えられるため、発展的解消する方向で進めることとされています。
  • 決済・清算:市場参加者が倒産した場合にも連鎖的な不履行や市場機能停止を招かず、安定的な取引が継続できるようなクリアリング機能等の仕組みを検討することが求められています。

議論の方向性

この中長期取引市場は、小売電気事業者に対する「量的な供給力確保義務」の議論と表裏一体のものとして進められています。ただし、事業者等からは、「中長期市場が義務履行の受け皿として設計されることで価格形成が歪むのではないか」といった懸念や、「小ロット・低流動性の取引により形成された価格が妥当な指標となるのか」といったアセスメント不足を危惧する声も上がっています。

また、市場参加者の破綻に備えた与信管理やクリアリング機関の設置を強く求める意見も寄せられています。

具体的な制度設計

資源エネルギー庁は3月17日、第10回「電力システム改革の検証を踏まえた制度設計ワーキンググループ」において、小売電気事業者に中長期で電力量(kWh)の確保を求める制度のとりまとめ案を発表しました。

従来の方向性提示から一歩進み、確保義務の履行手段や、需要算定ルールなど、小売の調達戦略や収益構造に直接影響する制度として、実務レベルでの対応を迫る具体的な設計が示されました。

具体的な義務量として、実需給の3年度前(N-3年度)に直近の販売実績を基にした想定需要の5割、1年度前(N-1年度)に7割の供給力(kWh)確保が求められます。ただし、過去の一定期間の販売電力量の平均が5億kWhを下回る小規模事業者は、それぞれ2.5割、5割に軽減されます。本制度は2030年度の供給計画からの運用開始が想定されています。

また、調達の柔軟性を確保するため、需要バランシンググループ(BG)等を通じた複数事業者での共同調達による合算評価が認められました。確保する電源の種別も問われず、FITやFIPを含む再生可能エネルギーでの計上も可能です。

注目の未達時のペナルティについては、運用開始当初は過度な負担を避け、電気事業法に基づく「指導・勧告(及び公表)」を基本とする方針です。

容量拠出金の追加徴収等による経済的ペナルティは、運用状況を見極めつつ引き続き検討されることになりました。

小売電気事業者には、新たな制度に向けた戦略的な調達ポートフォリオの構築が急務となります。

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