洋上風力発電におけるゼロプレミアム案件の容量市場・長期脱炭素電源オークション参加解禁

· 再エネ,風力発電,電力システム改革

日本の2050年カーボンニュートラル実現に向けて、洋上風力発電は再生可能エネルギーの主力電源化を牽引する極めて重要な役割を担っています。しかし、洋上風力事業は巨額の初期投資を伴うだけでなく、海域という厳しい自然環境下での建設や、長大なサプライチェーンの構築が必要であり、事業リスクが非常に高いという特徴があります。

そのため、大規模な電源投資を確実に完遂させるためには、将来の収入や費用の変動に対する強靭な事業組成を促進し、事業実施の確実性を制度的に高めていくことが強く求められていました。

本記事では、経済産業省の関連委員会における陸上・洋上風力発電のコスト動向やFIT/FIP制度との関係、第1ラウンド公募における三菱商事コンソーシアムの撤退原因とその影響、今後の公募制度の改定方針を振り返るとともに、最新の「第二十五次中間とりまとめ」で示された容量市場および長期脱炭素電源オークションへの参加条件と、それが風力発電事業者にとってどれほど重要かについて解説します。

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陸上・洋上風力のコスト動向とFIT/FIP制度の議論

再生可能エネルギー政策の基本方針として、FIT/FIP制度は再エネのコストダウンを実現し、最終的には同制度がない状態でも新規の電源投資が進展する「自立化」を目指すことが前提とされています。

現在の状況として、事業用太陽光発電や陸上風力発電についてはコストダウンが進展しており、FIT/FIP制度によらない案件の形成が進みつつあるため、自立化に向けた道筋の検討が加速しています。

一方、洋上風力発電は欧米諸国と比べて我が国では未だ黎明期にあり、産業基盤の構築を通じてコストダウンを目指すべき電源と位置付けられています。しかし足元では、世界的なインフレ等の影響によりコストが上昇しており、事業者団体からのヒアリングによれば、モノパイル案件の平均で資本費(CAPEX)が約90万円/kW、運転維持費(OPEX)が1.23万円/kW/年、これをもとにした発電コストは22.4円/kWhに達すると試算されています。

三菱商事コンソーシアムの撤退原因とその影響

こうした厳しい事業環境の悪化が顕在化したのが、第1ラウンド公募(秋田県2海域、千葉県銚子沖)で選定された三菱商事コンソーシアムの事業撤退です。撤退に至った最大の要因は、公募選定後に生じたインフレ、為替の円安、金利上昇や世界的なサプライチェーンの逼迫、さらに地盤調査結果に基づく設計見直し等の複合的要因により、風車調達費用や洋上・陸上工事費用の全てが公募参加時の見込みから2倍以上に増加したことにあります。
また、当時の公募制度が低価格入札を誘引しやすい評価基準であったため、極めて安価な供給価格で落札していたことも、コスト増加に対するリスク許容度を著しく狭める一因となりました。事業者はFIP制度への移行や価格調整スキームの適用、占用期間の延長といった支援策を前提としても、この大幅なコスト増を賄うだけの長期PPA(電力購入契約)を締結することは困難であると判断し、撤退を余儀なくされました。
この撤退により、合計170万kWの再エネ導入が遅れるだけでなく、生産設備等への投資を開始していた地元関係者やサプライチェーン企業の信頼を損ない、将来の投資が停滞するリスクを生じさせました。

今後のラウンドに向けた公募制度の改定

第1ラウンド撤退の教訓を踏まえ、黎明期にある洋上風力の導入を確実なものとするため、今後の公募制度では抜本的な改定が行われます。具体的には、過度な低価格入札を防ぐため、事業完遂に必要と考えられる水準を前提とした「想定供給価格幅」を新たに設定し、適切な供給価格での入札を促すよう価格点の設計が見直されます。また、風車メーカー等との価格交渉力を確保できるよう、運転開始時期に2年間の予備期間を設けるなどスケジュールの柔軟性が高められます。さらに、多数の事業者に参入機会を与えサプライチェーンを構築するため、**1事業者あたりの落札制限(1GWまで)**が適用されるほか、撤退時には親会社等も含めた参加資格の停止や、取得した地盤データの無償提供を義務付けるなど、事業規律の強化が図られます。

ゼロプレミアム案件の容量市場・長期脱炭素電源オークションへの参加解禁

事業完遂に向けた支援策の目玉として議論されたのが、容量市場および長期脱炭素電源オークションへの参加です。

容量市場は、原則としてあらゆる電源が参加可能ですが、固定価格買取制度(FIT)やフィードインプレミアム(FIP)制度の適用を受ける再生可能エネルギー電源については、厳しい制限が設けられていました。具体的には、国民負担によって固定費の回収を支援するFIT・FIP制度からの収入と、容量市場からの容量確保契約金額という固定費の二重回収を防止するという大原則の観点から、FITやFIPの支援適用期間中は容量市場への参加が認められていませんでした。

しかし、近年実施されている海洋再エネ整備法に基づく公募においては、事業者の競争激化により、電力の売電収入のみで事業が成立すると見込む「ゼロプレミアム水準」での落札が相次いでいます。このゼロプレミアム案件においては、市場に電力を統合するための予測誤差対応等の費用であるバランシングコスト相当分を除いては、国からのFIP交付金は実質的に想定されていません。

したがって、これらゼロプレミアム案件が容量市場に参加して容量収入を得たとしても、実質的な固定費の二重回収という問題は発生しないという制度上の整理が行われました

また、黎明期にある第2・第3ラウンドの事業完遂の確度を高めるため、同様の条件で長期脱炭素電源オークション(第4回入札以降)への参加を認めることも関係審議会で了承されました(次回以降の公募では長期脱炭素電源オークションへの参加は想定しないこととされています)。

この背景を踏まえ、ゼロプレミアム案件に限定する形で、FIP制度の適用期間中であっても容量市場への参加を特例的に認めることとしました。ただし、参加にあたっては公平性を担保するための厳格な条件が課されます。具体的には、容量市場のオークションにおいて落札できた場合のみFIP交付金を辞退し、不落札の場合にはFIP交付金を受け取るといった、結果を見た上での事業者による都合の良い選択(チェリーピッキング)を防ぐ必要があります。

そのため、容量市場への約定結果に関わらず、初めて容量市場へ応札するオークションの参加登録時点(運転開始後に初めて応札する場合は運転開始時)において、FIP制度の全支援期間にわたりバランシングコスト相当分のFIP交付金の受領を完全に放棄することを確定させるという厳格な応札条件が設定されました(第二十五次中間とりまとめ)。

風力発電事業者にとっての重要性

この制度変更は、洋上風力発電事業者にとって極めて重要な意義を持ちます。巨額の初期投資を必要とする洋上風力発電において、世界的なインフレやサプライチェーンの逼迫により建設コストが急騰する中、事業者は収益確保の手段に苦心していました。ゼロプレミアム水準で落札した案件は、市場価格の変動リスクを直接受けるため、強靭な事業組成が困難になる恐れがありました。
今回、バランシングコスト相当分のFIP交付金を手放すことと引き換えに、容量市場や長期脱炭素電源オークションという「長期的な固定収入」を得る道が開かれたことで、事業の資金収支計画の安定性が劇的に改善します。これにより、金融機関からのプロジェクトファイナンスの組成が容易になり、最終投資決定(FID)の確実性が大幅に高まるため、日本の洋上風力産業の命運を握る第2・第3ラウンド事業の完遂を強力に後押しするものとなります。

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