経産省、中長期取引市場検討ワーキンググループ初会合を開催 安定供給と価格安定化に向け議論を開始
経産省、中長期取引市場検討ワーキンググループ初会合を開催 安定供給と価格安定化に向け議論を開始
経済産業省は、2026年6月2日、総合資源エネルギー調査会電力・ガス事業分科会次世代電力・ガス事業基盤構築小委員会の下に設置した「中長期取引市場検討ワーキンググループ」の第1回会合を開催しました。まず事務局が資料を説明し、委員・オブザーバーからは積極的な質問や意見表明がなされました。
このワーキンググループでは、中長期の卸電力取引市場創設に向けた具体的な制度設計の検討を行います。

電力自由化後、スポット市場取引量は総需要の約3割まで拡大した一方、燃料価格高騰時には電気料金の急騰や小売事業者の撤退が相次ぎました。
こうした経験を踏まえ、広く参照可能な中長期価格指標を形成し、発電投資や燃料調達の予見可能性を高めることなどが中長期取引市場の目的として示されました。
このワーキンググループの委員・オブザーバーは以下の通りです。
委員・オブザーバー
【委員】(敬称略)
・安藤至大(日本大学経済学部 教授・座長)
・五十川大也(大阪公立大学経済学部研究科 教授)
・河相早織(長島・大野・常松法律事務所 パートナー弁護士)
・城所幸弘(政策研究大学院大学 教授)
・滝澤紗矢子(東京大学大学院法学政治学研究科 教授)
【オブザーバー】(敬称略)
・石井孝裕(電力・ガス取引監視等委員会事務局 取引制度企画室長)
・各務達也(中部電力ミライズ株式会社 調達・需給本部 本部長)
・川島創(株式会社JERA 国内マーケット戦略・企画部 部長)
・國松亮一(一般社団法人日本卸電力取引所 企画業務部長)
・高木宏彰(関西電力株式会社 執行役員 エネルギー・環境企画室長)
・塚本浩敏(株式会社東京商品取引所 総合業務室 市場企画担当室長)
・中島伸吾(東邦ガス株式会社 電力事業推進部長)
・野澤遼(株式会社enechain 代表取締役社長)
事務局から提示された10の論点
事務局からは、以下の10の論点が示され、委員・オブザーバーにより大枠の質問や意見が示されました。
論点1 取り扱う商品

実需給3年前(N-3)と1年前(N-1)の商品を対象とし、原則1年受渡しの単年商品を設計します。
N-3ではベース商品を中心にミドル商品も検討し、N-1ではミドル商品をメインとしつつベースやピーク商品も検討されます。
販売開始時期や販売期間については、供給計画の策定時期との整合性などが検討されます。
燃料費変動等による事後調整付き商品については、各社の横並び比較を可能にするため、標準的な算定式等の導入が前提とされます。この事後調整については、オブザーバーからその必要性を強調する意見が示されました。
なお、非化石価値は対象外とします。
論点2 価格の考え方
価格は中長期の相対取引と同様に、電源の固定費と可変費を含む形で設定されます。
一律のコスト積み上げ方式ではなく、発電事業者が各自の判断で価格を設定する仕組みを想定しています。
ただし、N-1とN-3の商品で価格設定が異なる可能性も考慮しつつ、具体的に許容されない設定方法等の整理が今後議論される見込みです。
論点3 約定方式
取引機会が多く柔軟なザラバ方式の採用を第一に検討します。
継続的に売買できる市場を目指す一方で、広く参照可能な価格指標形成のために板寄せ取引(シングルプライスまたはマルチプライス)の導入も検討されます。
さらに、部分約定、アイスバーグオーダー(分割発注)、マーケットメーカー導入など、市場流動性向上策も議論の対象となりました。
論点4 供出量を高める方策
市場創設当初は、保有電源の最大出力合計が500万kW以上の発電事業者に対し、販売電力量の原則10%相当の供出を求める方針です。
対象は旧一般電気事業者グループやJERA、電源開発などで、国内供給力の約7割強(72.8%)を占めます。
会社分割による供出逃れを防ぐためのグループ合算ルールや、変動性電源の取り扱い、売れ残った場合の義務達成の考え方が今後の検討課題です。
論点5 市場範囲と市場分断リスク
中長期取引でも、スポット市場を介して地域間連系線を利用したエリア越境取引を認める方針です。
市場分断によるエリア間価格差リスクは原則として買い手負担とされます。
この点については、委員からその趣旨に関する質問がなされました。
全国統一市場か、東西などの複数市場か、9エリア別市場のいずれが適切かの設定に加え、間接送電権を活用したヘッジの可能性や、分断時の清算における基準エリアの設定等の検討がなされるものと見込まれます。
論点6 決済・清算方法
市場参加者の倒産時にも連鎖的な不履行や市場機能停止を招かない仕組みを構築することについての検討がなされる見通しです。
市場運営者と売り手・買い手の間でのリスク分担のあり方を整理し、証拠金や預託金の要否、決済のタイミングやエリア間取引時の具体的な清算機能の設計を、小規模な小売事業者でも参加しやすい形で検討します。
論点7 運営主体
市場運営主体には、公正な価格指標を形成する「信頼性」、全ての参加者に対する「中立性」、システム構築・運用の「安定性」が求められます。
約定情報の随時開示、不正取引監視、組織ガバナンスなどの具備すべき能力の具体化と、運営主体を選定する際の評価基準やプロセスの整理を進める方針です。この点について、委員からその趣旨についての質問がなされました。
論点8 市場参加者
売り手は発電事業者、買い手は供給力確保義務を課される小売電気事業者を基本とします。
しかし、発電事業者が電源差替のために買い入札を行うケースや、小売事業者が確保した商品を転売するための売り入札を行うケースなど、売り手と買い手が逆転する場合の取り扱いや、将来的な参加要件についても検討対象となりました。
論点9 相対取引や他市場との関係
相対取引や既存の他市場との関係整理が今後なされる見通しです。
容量市場との関係では、発電事業者による「固定費の二重取り」を回避するため、売入札価格の調整等について議論されます(長期脱炭素電源オークションの収益還付との関係も含む)。
また、ベースロード市場については、中長期取引市場の創設によって目的・役割を代替できるとし、発展的解消に向けた時期やプロセスの検討が進められます。
電力先物市場との相互補完性についても論点となる見通しです。
論点10 市場監視
上限価格の設定など直接的に価格を規制する監視は市場の性質になじまないため採用されません。
代わりに、相対取引の卸売価格と市場の入札価格が大きく乖離していないかの事後的な確認や、発電事業者の意図的な売り惜しみ・買い占め、協調的行為など市場の公正性を損なう行為を防ぐための監視体制の整備が進められます。
今後の検討の方向性
今回は制度の大枠整理と論点の洗い出しが中心でしたが、第2回以降は商品設計、価格形成、市場監視、清算制度など個別論点の詳細設計へ議論が進む見通しです。
