Scope2「アワリーマッチング」導入議論はSBTiとISSBにどう影響を与えるのか?
Scope2「アワリーマッチング」導入議論はSBTiとISSBにどう影響を与えるのか?
企業の脱炭素開示において、「GHG Protocol」「SBTi」「ISSB」は、それぞれ異なる役割を担っています。一方で近年は、これらの制度や標準の周辺で、「アワリーマッチング(Hourly Matching)」と呼ばれる、電力使用時間と再エネ発電時間を一致させる考え方への関心が急速に高まっています。
まずGHG Protocolは、温室効果ガス排出量算定の国際的基準です。現在、企業のScope1・2・3算定の世界的な共通ルールとして広く利用されています。特にScope2では、location-based(平均排出係数方式)とmarket-based(証書・契約反映方式)の両方式が採用されています。

現在、GHG ProtocolではScope2改定議論が進められており、hourly matching、deliverability、same grid、residual mixなど、「時間」や「場所」を考慮した算定への関心が高まっています。
特に議論されているのは、「年間ベースで再エネ証書を購入するだけで、本当に低炭素電力を使用したと言えるのか」という点です。例えば夜間に火力電源主体の系統電力を使いながら、昼間の太陽光由来証書を購入して「100% renewable」と主張するケースについて、実態との乖離を問題視する声が増えています。
SBTiは既に“時間一致”へ踏み込み始めている
こうした中で、Science Based Targets initiative(SBTi)は、アワリーマッチングに最も踏み込んでいる組織の一つです。
SBTiは、企業のネットゼロ目標や排出削減目標が「1.5℃整合的か」を評価する国際イニシアティブです。単なる開示ではなく、「実際にどれだけ脱炭素化しているか」を重視している点が特徴です。
2025年に公開されたCorporate Net-Zero Standard改定案では、大規模電力需要家に対し、将来的に時間単位で低炭素電力を一致させる方向性が提案されました。公開草案では、2030年50%、2035年75%、2040年90%という段階的な時間一致比率案も議論されています。
この背景には、AIデータセンターや半導体工場など、24時間大量の電力を消費する産業が拡大していることがあります。年間ベースの再エネ証書だけでは、実際の系統負荷や排出実態を十分に表現できないという認識が広がりつつあります。
ISSBは現時点で明確な導入方針は示していない
一方、IFRS財団傘下のInternational Sustainability Standards Board(ISSB)は、現時点ではアワリーマッチングについて明確な制度導入方針を示していません。
ISSBのIFRS S2では、Scope2についてlocation-based排出量やcontractual instruments(契約手段)に関する情報開示を求めていますが、時間一致までは要求していません。
ただし、ISSBはGHG Protocolへの依存度が高く、今後GHG Protocol側で時間粒度やdeliverabilityなどの概念が正式化された場合、ISSB開示へ波及する可能性はあります。
特にISSBは、「faithful representation(実態忠実性)」や投資家向け透明性を重視しています。このため、「年間RECだけで本当に低炭素と言えるのか」という議論が強まれば、将来的にScope2開示の高度化へつながる可能性もあります。
もっとも、現時点では制度化はまだ初期段階であり、スマートメーター整備、証書制度、国際整合性、データコストなど課題も多く残されています。ただ、GHG Protocol、SBTi、ISSBの議論を総合すると、Scope2が単なる「年間MWh一致」から、「いつ・どこで・本当に低炭素だったのか」を重視する方向へ進む可能性は徐々に高まりつつあると言えそうです。
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