欧州委員会、2026〜2030年のEU排出量取引制度におけるベンチマーク改訂案を公表

· 脱炭素

欧州委員会は、2026年5月11日、EU排出量取引制度(EU ETS)の次期対象期間となる2026年から2030年に向けた、新たなベンチマーク値の改訂案を発表しました。この改訂案は、欧州の域内産業に対して無償で配分される温室効果ガスの排出枠(無償割当)の基準を定める重要なステップであり、正式な採択に先立って一般パブリックコンサルテーションおよびEU加盟国との本格的な協議プロセスへと移行します。

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産業界の懸念へ配慮した無償割当枠の維持と法的柔軟性の活用

今回の改訂案が適用された場合でも、対象となる欧州の産業部門は、全体平均として排出量の約75パーセントに相当する枠を引き続き無償で受け取ることができる見通しです。これは、脱炭素化を進める過程で製造コストが急増し、企業の生産拠点が欧州域外へと移転してしまう「カーボンリーケージ(炭素漏出)」を防ぐための措置です。

欧州委員会は、現行のETS指令の枠内で利用可能な法的な柔軟性を最大限に活用し、急激な変革を迫られる産業界の懸念緩和に努めています。このベンチマーク制度は、各部門において「最も炭素効率の高い上位10パーセントの設備」の排出原単位をベースに計算されており、技術進歩による産業全体のクリーンイノベーションを後押しすると同時に、最も環境対策が進んでいる企業に対してインセンティブを与える構造を維持するとしています。

産業電化を促す間接排出の継続カバーと40億ユーロの財務影響

今回の改訂プロセスにおいて特に注目されるのが、産業部門の電化を強力に推し進めるためのアプローチです。新しいベンチマーク設計では、鉄鋼や化学、セメントといったエネルギー多消費産業をはじめとする合計14の製品ベンチマークにおいて、電力使用に伴う「間接排出(インダイレクト・エミッション)」のカバー範囲が継続して維持されます。

この電化推進に配慮した算定アプローチを継続したことにより、設定されるベンチマーク値そのものが高めに維持されることになります。結果として、2026年から2030年の対象期間全体を通じて、欧州産業界に対して約40億ユーロ(日本円で約6,600億円)相当の負担軽減および実質的な財務支援効果をもたらすと試算されています。データは、2024年に加盟国から提出された国家実施措置(NIMs)のプロセスに基づいて詳細に検証されました。

6月末の正式採択に向けた今後のスケジュールと包括見直しの展望

本改訂案は、公表された5月11日より4週間にわたる意見公募(パブリックコンサルテーション)に付され、その後に加盟国で構成される「気候変動委員会」による精査を経て、2026年6月末までに欧州委員会の執行行為(実施令)として正式に採択される予定です。これにより、2026年分の無償割当枠が遅滞なく発行されるための法的確実性が確保され、事業者が抱える炭素市場での流動性リスクが回避されます。

{さらに欧州委員会は、今回のベンチマーク改訂にとどまらず、2026年7月までにEU ETS全体の包括的な近代化見直しを行う計画も進めています。そこでは、特定のセクターにおける補完的なフォールバック(代替)ベンチマークの導入など、産業界の競争力を維持しつつ確実な投資安定性と予測可能性を担保するための追加的な枠組みが幅広く議論される見込みです。

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