ENTSO-E、欧州の電力供給信頼度を評価。供給力不足リスクを指摘

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欧州送電系統運用者ネットワーク(ENTSO-E)は、2025年12月、欧州全域の電力供給信頼性を今後10年間にわたり評価した報告書「European Resource Adequacy Assessment 2025(ERAA 2025)」を公表しました。

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本レポートは、現行の電力量取引のみの市場における収益性が、既存の化石燃料火力発電設備を維持するには不十分であり、供給力不足のリスクが深刻化する可能性を指摘しています。

化石燃料火力の経済的存立性の喪失と退出リスク

ERAA 2025の経済的存立性評価(EVA)によれば、今後10年間で相当量の化石燃料火力発電設備が、技術的な耐用年数に達する前に経済的な理由で市場から退出するリスクがあることが示されました。特に、容量メカニズムや政策支援を受けていないガス、石炭、褐炭、石油火力については、電力市場からの収益だけでは維持が困難と予測されています。

短中期的な2028年および2030年度断面では、約6GWから8GWの規模で電源脱落のリスクが顕在化しており、さらに長期的な2033年および2035年度断面においても、調整力として期待される火力発電フリートの退出リスクが継続しています。モデル上では2035年にガス火力や水素発電の拡大可能性が示唆されているものの、これらは投資家の戦略やサプライチェーンの制約、水素インフラの整備状況に大きく依存しており、極めて不確実な状況にあります。

投資家のリスク回避姿勢と供給力への影響

報告書では、投資家のリスク回避(Risk Aversion)の度合いが将来の供給力に甚大な影響を与えることが実証されました。投資戦略の違いのみによって、2035年時点の供給力は最大で21GWもの変動が生じると分析されています。

具体的には、合理的かつリスク回避的な投資家は、発生頻度が低く不確実な「稀に発生するスパイク価格(需給逼迫時の極端な高価格)」を信頼できる収益源とはみなさない傾向があるためです。

経済モデル上では需給逼迫時の高価格による投資回収を想定していますが、実社会の投資判断においてはこうした不確実な収益は割り引かれるか無視されるのが実態です。したがって、稀な価格高騰のみを頼りにした新規投資の促進は、供給力不足を過小評価するリスクを孕んでいるとENTSO-Eは警鐘を鳴らしています。

LOLE指標の悪化と容量市場等の必要性

電力供給の信頼性指標であるLOLE(Loss of Load Expectation:電力不足期待時間)を用いた評価では、欧州の多くの地域で各国の信頼度基準を超過するリスクが確認されました。

特に評価年が将来に進むほどリスクは拡大する傾向にあり、ドイツやポーランド、チェコなどでは顕著なリスクが示されています。例えば、ドイツにおける2035年のLOLEは、シナリオにより24時間から97時間(年平均)に達すると予測されています。

再生可能エネルギーや蓄電池、需要家側応答(DSR)の導入目標は大幅に拡大していますが、再エネの変動性(間欠性)により、退出する火力発電設備や将来の電化に伴う需要増を完全には補いきれません。ENTSO-Eは、エネルギー転換を進めつつ供給信頼性を維持するためには、長期的な容量メカニズムの導入や、国境を越えた送電網整備、柔軟性ソリューションの展開に向けた政策的介入が不可欠であると結論付けています。