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卸電力市場(JEPX)
卸電力市場(JEPX)は、発電事業者(売り手)と小売電気事業者(買い手)などが、実際に発電・消費される電力量(kWh)を売買する市場です。現在、日本の総電力需要の約3〜4割がこの市場を通じて取引されており、小売事業者の重要な調達基盤となっています。
取引の時系列としては、主に実需給の「前日」に行われるスポット市場(前日市場)と、需給の変動に対応するため「当日(実需給の直前)」に行われる時間前市場に分かれています。取引は1日を30分ごとのコマに分けた単位で行われ、売り手と買い手の入札価格と量を突き合わせて価格を決めるシングルプライスオークション方式が採用されています。また、市場支配力を持つ大手電力会社には、公正な競争を促すため、余剰電力を燃料費などの限界費用で全量供出する「自主的取組」がガイドライン等で求められています。
JEPXの最大の問題は、価格変動(ボラティリティ)リスクが極めて高い点です。スポット市場は、LNGなどの国際燃料価格の変動や、気象条件による需給バランスの影響を直接受けて価格が乱高下します。実際に2021年度以降の燃料価格高騰局面では市場価格が急騰し、スポット調達に過度に依存していた新電力の撤退や事業停止が相次ぎました。その結果、多くの需要家が意図しない契約解除や最終保障供給への移行を余儀なくされるなどの混乱が生じ、社会的に許容しがたい電気料金の急変を招きました。
こうした事態の再発を防ぐため、資源エネルギー庁の制度検討作業部会等では、以下の見直しを進めています。
- 量的な供給能力確保義務の導入: 小売電気事業者が過度にスポット市場へ依存することを防ぐため、実需給の3年前に想定需要の5割、1年前に7割といったように、段階的に一定割合の供給力を現物等で確保することを義務付ける規律の導入が検討されています。
- 「中長期取引市場」の創設: ボラティリティの高い短期市場とは別に、小売事業者と発電事業者の双方が量・価格面で安定的な調達と投資回収の見通しを立てられるよう、受渡し期間が1年や3年といった中長期の定型商品を扱う新たな市場の創設が進められています。
- 「同時市場」の導入検討:現在は電力(kWh)をJEPXで、調整力(ΔkW)を需給調整市場で別々に調達していますが、これが電源の非効率な運用や価格高騰の一因となっています。これを解決するため、系統制約を考慮しつつ電力と調整力を同時に取引・約定させ、最も経済的な電源運用を可能にする「同時市場」の構築に向けた本格的な検討が行われています。
ベースロード市場
ベースロード市場は、2016年の小売全面自由化以降、新規参入した小売電気事業者(新電力)が、旧一般電気事業者(大手電力会社)と同等の条件で安価な電力にアクセスできるよう、公平な競争環境(イコールフッティング)を整備する目的で創設された卸電力取引市場です。
対象となるのは「ベースロード電源」と呼ばれる、運転コストが低く高効率な発電が可能な電源です。具体的には、石炭火力、一般水力(流れ込み式)、原子力、地熱発電が該当します。これらは初期投資が高額で新規開発が難しく、大手電力会社などがその多くを保有しています。
ベースロード市場では、大手電力会社等に対して、自社が保有するベースロード電源の発電量の一部を適正な価格で市場へ供出することが制度的に義務付けられています。取引が約定すると、原則1年などの一定期間にわたり、前日スポット市場を通じて電気の受け渡しが行われます。その際、スポット市場の価格とベースロード市場の約定価格との間に生じる差額(エリア間値差など)は、事後的に清算される仕組みとなっています。
しかし現在、同市場においていくつかの課題が顕在化しています。
- 値差リスクの増大:スポット市場の価格変動(ボラティリティ)が激しいため、清算価格が約定価格から大きく乖離し、売り手・買い手の双方に多大な値差リスクが生じています。
- 供出量の減少:大手電力会社と新電力との間で直接的な相対契約等による卸売(内外無差別な卸売)が進んだ結果、ベースロード市場への制度的な供出量が減少傾向にあります。
- 電源開発(J-POWER)の供出義務の歪み:J-POWERは、国の「非効率石炭火力の稼働抑制ルール」を遵守しつつ市場への供出義務を果たすため、不足分を自社電源ではなくスポット市場から調達して応札せざるを得ないという不合理な事態が生じていました。
これらの課題に対し、資源エネルギー庁の制度検討作業部会等では以下の見直しが進められています。
- ルール等の見直し:J-POWERの供出義務量について、稼働抑制ルールと整合するように一定量を控除する見直しが行われました。
- 過大な値差リスクの軽減:値差の補填や徴収を行う際の閾値を調整するなどの制度改善が図られています。
- 市場の発展的解消:最大の改正方針として、現在国が新たに創設を進めている「中長期取引市場」によって、ベースロード市場の目的や役割が代替できると見込まれています。そのため、ベースロード市場自体を今後「発展的に解消(終了)」する方向で、具体的な時期やプロセスの詳細な検討が進められています。
電力先物市場
電力先物市場は、将来の特定の期間における電力の価格をあらかじめ取り決めて売買する市場です。実際の電気(現物・kWh)の受け渡しや調達を伴わない「金融商品」として取引され、金融決済(差金決済)を中心とする市場であることが特徴です。
日本国内には、日本取引所グループ(JPX)傘下の東京商品取引所(TOCOM)と、欧州エネルギー取引所(EEX)の2つの市場が併存しています。先物取引は、「現物の調達(電気の受け渡し)を伴わない金融商品」であり「金融決済」であるのがJEPXとの大きな相違点です
先物市場には、主に以下のような参加者が存在します。
- 小売電気事業者:日本卸電力取引所(JEPX)のスポット市場等における価格変動(ボラティリティ)リスクや季節変動リスクを回避(ヘッジ)し、調達コストを安定させる目的で参加します。
- 投機的な参加者(トレーダー等):価格の変動を利用して利益を得ることを目的とするプレイヤーです。先物市場は実需を伴わない取引が可能であるため、発電事業者や小売事業者以外にも多数のプレイヤーが参加しています。
一方、資源エネルギー庁は「中長期取引市場」と呼ばれる、現物(kWh)の受け渡しを伴う取引市場の創設を進めています。中長期取引市場の目的は、小売電気事業者が将来必要な「供給力(現物)」を量・価格ともに安定的に確保すること、および発電事業者が電源投資や長期的な燃料調達を行うための「予見可能性」を向上させることです。先物市場が「現物を伴わない金融(価格ヘッジ)の場」であるのに対し、中長期取引市場は「実際に電気を供給・受領するための現物確保の場」である点が決定的に異なります。
なぜ先物市場ではその機能を果たせないのか:エネ庁は小売電気事業者に対し、将来の需要に対する「量的な供給力確保義務(実需給の3年前に5割、1年前に7割などの現物確保)」を課すことを検討しています。この義務の履行手段として先物取引を認めた場合、以下の理由から政策目的が果たせないと懸念されています。
- 先物市場は投機的参加者も多く、売り手が必ずしも発電事業者とは限らないため、実需(実際の発電)を伴わない取引が生る。
- 小売事業者が金融商品である先物の購入だけで「供給力を確保した」とみなされて義務を逃れられると、発電事業者と長期的な現物の相対契約を結ぶ動機(インセンティブ)が削がれてしまいます。その結果、発電事業者が新規の電源投資を行ったり、長期間のLNG燃料契約を締結したりするための予見性が確保されなくなり、日本全体の安定供給(現物の確保)が脅かされる恐れがある。
現在、エネ庁の委員会等ではにおける先物市場取引について、量的な供給力確保は「現物での確保」を目的としない一方で、現物取引と組み合わされることで、需要家に供給する電気の価格を安定させる効果があることも事実と整理しています。そのため、先物取引を一律に排除するのではなく、政策目的に整合している取引(現物調達と適切に紐付いている等)であればどのように取り扱うかについて、中長期取引市場や先物市場の取引状況を確認しながら引き続き詳細を検討していく方針となっています。また、先物取引の多くが外国法に基づく取引所(EEX等)で行われているという実態も踏まえた対応を検討していくとしています。
需給調整市場
調整力とは、電力の需要(消費)と供給(発電)を常に一致させ、系統の周波数を維持するために、一般送配電事業者が用いる「柔軟に出力を増減できる能力」のことです。この調整力を広域的かつ効率的に調達するため、売り手である発電事業者やアグリゲーターと、買い手である一般送配電事業者が取引を行う場が「需給調整市場」です。
需給調整市場での取引は、指令に応じるために待機する対価である「ΔkW(デルタキロワット)」と、実際の出力増減の対価である「kWh」の2つの価値で行われます。応答時間の速さ等に応じて「一次」から「三次②」までの5つの商品区分があり、現状は三次②が実需給の「前日」、それ以外の商品が「週間(1週間分をまとめて)」の時系列で取引され、ΔkW価格の安い順に落札される仕組みです。
各種の課題に対処するため、2026年度に向けて主に以下の改正が進められています。
全商品の前日取引化と30分細分化:週間取引であった全商品を「前日取引」へ移行し、30分コマ単位に変更することで事業者の応札リスクを低減させ、応札量を増やします。
- 募集量の適正化(削減):コスト高騰を防ぐため、一次・二次①の市場募集量を現行の3σ(シグマ)相当から1σ相当へと削減し、不足分は市場外の余力活用契約などで補完する運用にします。
- 上限価格の引き下げ:一次・二次①等の上限価格を現行の19.51円/ΔkW・30分から15円へ引き下げ、競争状況の改善が見られない場合は段階的に7.21円まで引き下げる方針です。
- 「同時市場」の創設検討:中長期的には、電力(kWh)と調整力(ΔkW)の取り合いや非効率を防ぐため、両者を同時に最適化して約定させる新たな「同時市場」の構築が進められています。
容量市場
容量市場は、実際に発電された電力量(kWh)ではなく、将来発電することができる能力(kW:供給力)を取引する市場です。
発電事業者等に支払われる容量確保契約金額によって、適切なタイミングでの電源投資を促し、日本全体で将来必要となる供給力を効率的かつ確実に確保することや、卸電力市場価格の安定化などを目的として2020年度に創設されました。原則としてすべての電源の容量(kW)あたりの価値を等しく評価する仕組みであり、火力、水力(揚水)、原子力、再生可能エネルギー、発動指令電源(デマンドレスポンス)など幅広い電源が対象となります。
現在のシステムでは、実需給の4年前にメインオークションを開催して供給力を確保します。約定価格は原則として、すべての落札電源に単一の価格が適用される「シングルプライス方式」が採用されています。オークションで用いられる需要曲線は、新規電源建設の正味の固定費用である「Net CONE」を指標価格とし、その1.5倍を上限価格として設定されています。
しかし、近年、物価高騰や電源の老朽化等に伴う維持管理費用の増加により、現行の指標価格(Net CONE)を超過する価格で応札する電源が急増しています。その結果、上限価格を超過して不落札となる電源が相次ぎ、直近の2024年度メインオークションでは、北海道、東北、東京、九州の4エリアで目標とする供給信頼度が未達成となるなど、電力の安定供給確保において大きな課題が顕在化しました。
この問題に対応するため、資源エネルギー庁の制度検討作業部会等において、以下の改正が進められています。
- 第一に、指標価格(Net CONE)と上限価格の大幅な引き上げです。最新の発電コスト検証のデータを反映し、指標価格を現行から2倍強となる2万円/kW水準へと引き上げる見込みであり、それに伴い上限価格も引き上げられます。これにより、これまで不落札となっていた電源なども確保できる可能性が高まります。
- 第二に、価格引き上げに伴って小売電気事業者が負担する「容量拠出金」が急増することを防ぐための「約定方式の変更(影響緩和措置)」の導入です。全電源に同一価格を適用するシングルプライス領域に上限を設定し、指標価格以上の領域をマルチプライス方式(応札価格での約定)にしたり、2段階のシングルプライス領域を設けたりする案が検討されています。
- 第三に、厳気象対応や補修計画の実態を反映し、目標調達量(需要曲線)の算定ルールの見直し(月評価の細分化や年間計画停止可能量の見直しなど)が行われ、より実態に即した供給力を確保できるよう改正が進められています。
長期脱炭素電源オークション
長期脱炭素電源オークションは、脱炭素電源の新規投資を促進するため2023年度から開始された入札制度です。実需給の4年前に単年度の供給力を確保する「容量市場」だけでは、巨額の初期投資を伴う新設電源の投資回収の予見性を確保することが困難でした。そのため、本オークションでは落札電源に対して原則20年間にわたり固定費水準の容量収入を保証し、投資を後押しする仕組みとなっています。
出力10万kW以上の脱炭素電源の新設・リプレース案件が対象です。具体的には、水素・アンモニアの混焼・専焼、蓄電池、揚水発電、原子力、バイオマス発電などが含まれており、直近の募集からは長期エネルギー貯蔵システム(LDES)も追加されました。
現在のシステムと課題電源種混合で入札を実施し、落札すれば長期の固定費回収が見込める一方、運用中に卸電力市場などで得た「他市場収益の9割」を国に還付することが求められます。
しかし、この「9割還付ルール」に対しては、発電事業者から「創意工夫による収益確保のインセンティブが削がれる」と指摘されています。実際、初回の入札では蓄電池や揚水以外の案件が少なく、政策が意図したほど新設投資を強く後押しできていない現状があります。さらに、昨今のインフレ(建設費や金利の上昇)によるコスト増も投資判断を難しくする要因となっています。
改正しようとしていること(見直しの方向性)これらの課題を受け、資源エネルギー庁の制度検討作業部会等では、第4回入札に向けて以下の見直しが議論されています。
- 上限価格(閾値)の見直し: インフレ等の影響を踏まえ、応札価格の上限を引き上げる検討。
- 事業者のニーズを踏まえた改良: 単なる固定費支援にとどまらず、事業者が創意工夫によって収益を確保しやすくなるような新たなセーフティネットの仕組みの構築など、投資を促す機能の強化。
- ルールの精緻化: 水素・アンモニアやCCS(二酸化炭素回収・貯留)案件に対する事前審査のあり方や、価格競争のあり方、落札後の市場退出ルールの整備など。
非化石価値取引
「非化石価値」とは、再生可能エネルギーや原子力など、化石燃料を使わない電源が持つ、CO2を排出しない「ゼロエミ価値」やエネルギー自給率向上に資する環境価値のことです。この価値を抽出して取引可能にしたものが「非化石証書」であり、発電所の所在地や電源種別などの情報が付与された「トラッキング付非化石証書」は、国際的イニシアチブであるRE100などにも活用できます。
類似の仕組みとして、民間機関が再エネの環境価値を認証する「グリーン電力証書」や、省エネ等による温室効果ガスの排出削減・吸収量を国が認証する「J-クレジット」があります。これらに対し非化石証書は、電気の環境価値に特化した国の制度です。また「GX-ETS」は2026年度から本格稼働する排出量取引制度で、CO2の排出量そのものに応じて排出枠の調達や保有を義務付ける制度であり、環境価値を購入して再エネ化を主張する非化石証書とは目的や仕組みが異なります。
非化石証書の取引には、FIT電源由来の「FIT証書」を扱う「再エネ価値取引市場」と、非FIT電源由来の「非FIT証書」を扱う「高度化法義務達成市場」があります。オークションは年4回実施され、再エネ価値取引市場では小売電気事業者のほか需要家や仲介事業者も参加し、マルチプライス方式で購入します。一方、高度化法義務達成市場は主に小売電気事業者が参加し、シングルプライス方式で取引されますが、非FIT証書の大半は発電事業者と小売・需要家との間の相対取引で売買されています。
非化石価値取引を巡っては様々な課題があります。FIT証書のオークションでは供給量が需要を大きく上回り、約定価格が下限価格(0.4円/kWh)に張り付いています。需要家が安価に証書を調達できるため、発電事業者との間で長期の再エネ調達契約(PPA)を結ぶ意欲が削がれている点が問題視されています。また、非FIT証書も下限価格(0.6円/kWh)近辺での約定が多く、近年の物価高騰を踏まえると、再エネ電源の維持・拡大へのインセンティブとして実質的な価値が目減りしています。
これを受け資源エネルギー庁は、FIT証書の下限価格の引き上げや上限価格の是非を再検討しています。同時に、非FIT証書の下限価格を2028年度には0.8円/kWhへ引き上げる方針を示すなど、再エネ価値の適正な価格形成と投資促進に向けた制度改正を進めています。
GX-ETS
GX-ETSは、2050年のカーボンニュートラル実現と経済成長の両立を目指す「成長志向型カーボンプライシング構想」の中核となる排出量取引制度です。2023年度から「GXリーグ」において自主参加型の試行が始まっており、2026年度からは改正GX推進法に基づき本格稼働します。さらに2033年度からは、発電部門を対象に排出枠の有償オークションが段階的に導入される予定です。
2026年度からの本格稼働では、CO2の直接排出量が過去3カ年度平均で10万トン以上の大規模な事業者を対象とし、参加を義務化するとしています。対象企業は、脱炭素に向けた移行計画の策定・提出が求められます。毎年度、第三者機関の確認を受けた排出実績を国に報告し、その実績と同量の「排出枠」を翌年度の1月31日までに保有する義務を負います。万が一、保有枠が不足して義務不履行となった場合は、上限価格の1.1倍のペナルティ支払いが課されます。
排出枠の無償割当てには、過去の排出実績を基準に徐々に枠を減らす「グランドファザリング方式」や、同業種内の優れた排出原単位を基準とする「ベンチマーク方式」が用いられます。企業は、GX推進機構が開設する排出枠取引市場を通じて、余剰枠を売却したり、不足枠を購入したりして排出量の過不足を調整します。また、市場の極端な価格変動を防ぐため、排出枠にはあらかじめ上限価格と下限価格が設定されます。
今後の大きな課題は、既存のエネルギー制度との重複やコスト負担の整理です。特に電力業界においては、非化石電源の導入を促す「高度化法(非化石証書制度)」との二重規制が懸念されています。
発電事業者が負担したGX-ETSのコストが卸電力価格へ転嫁された場合、小売電気事業者は高度化法に基づく非化石証書の購入コストと合わせて負担が増大し、最終的に需要家への二重負担につながる恐れが指摘されています。そのため、制度間の整合性確保や、発生したコストを電気料金へ適切かつ柔軟に転嫁するためのルール整備が急務となっています。
電力 News
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