関西電力:大阪・関西万博でアワリーマッチング実証を実施
関西電力:大阪・関西万博でアワリーマッチング実証を実施
関西電力株式会社は、2025年4月1日から、大阪・関西万博の会場でアワリーマッチングの実証実験を実施したとのことです。
本稿では、同社プレスリリース記事から、その技術的背景、実施スキーム、およびエネルギー市場における意義について、調査・考察します。
2025年日本国際博覧会(以下、大阪・関西万博)は、その運営において「カーボンニュートラル万博」を掲げていました。その中で、関西電力㈱は、会場内で使用される全ての電力を実質的に再生可能エネルギー等で賄う計画を策定しました。
今回の実証実験の核心は、単なる年間総量でのオフセットではなく、「電力の消費時間帯」と「環境価値の発生時間帯」を30分単位で一致させる(アワリーマッチング)ことにあります。これは、グローバルな潮流である「24/7 CFE(24時間365日カーボンフリーエネルギー)」の実現に向けた、国内最大規模の社会実装試験と位置づけられまると考えます。
公表資料によると、万博会場へは、太陽光発電、水力発電、原子力発電、水素発電を組み合わせた、ゼロカーボンの電力の供給が目指されました。
〇 供給期間 2025年4月1日~2026年3月31日
〇 供給場所 大阪・関西万博会場
- 供給する電力構成 ・非化石証書等を付けたFIT電力
- 再生可能エネルギー由来(非FIT)の電力
- 原子力発電由来の電力
- ゼロエミッション火力発電(水素・アンモニア)由来の電力
〇 契約電力 45,000 kW
〇 予定使用電力量 75,387,335 kWh
テクノロジー:30分同時同量マッチングとブロックチェーン
アワリーマッチングを実現するためには、膨大なデータのリアルタイム処理と、その真正性の証明が不可欠です。本実証では、以下の技術的プロセスが採用されています。

関西電力㈱プレスリリースより
会場内のスマートメーターから取得される30分ごとの「需要データ」と、太陽光発電から得られる30分ごとの「発電実績データ」は、プラットフォーム上に集約されます。
マッチングアルゴリズ
ム
収集されたデータに基づき、特定の時間帯の需要に対して、太陽光発電所から供給された発電量を紐付けます。
ブロックチェーンによるトラッキン
グ
マッチングされた結果は、ブロックチェーン技術を用いて記録されます。これにより、一つの発電実績(環境価値)が二重に計上される「ダブルカウンティング」を防止し、かつ第三者による改ざんを困難にすることで、環境価値の透明性と信頼性を担保していると推定します。
専門的視点から見た課題:ミスマッチの発生と対
応
アワリーマッチングの運用において最も困難なのは、需要と供給の完全な一致です。プレスリリースでも示唆されている通り、現実には「再エネの発電が過剰になる時間帯」と「需要が上回る時間帯」が発生します。
- 余剰時: 太陽光発電が需要を上回る場合、その余剰分は他への供給に回るか、蓄電池への充電が必要となります。
- 不足時: 悪天候や夜間など、特定の再エネが不足する場合、他のゼロカーボン電源(水力・原子力)や、蓄電池からの放電によって「時間単位の100%」を維持します。
本実証では、これらの需給ギャップをどのように最適化し、どの程度の精度でアワリーマッチングが維持できるかを検証することが、研究上の重要な焦点となります。
国際基準(GHGプロトコル)との整合
性
現在、世界的な温室効果ガス(GHG)排出量算定基準である「GHGプロトコル」は、Scope 2ガイダンスの改訂作業を進めています。現行の基準では、年間の総量で相殺する「マーケット基準」が認められていますが、改訂案では「アワリーマッチング(Time-based Matching)」の導入が有力視されています。
関西電力が万博でこの手法を先行実施することは、将来的な規制強化を見据えた実証データの蓄積を意味します。特に、日本の電力市場における「非化石証書」の取引単位が現在「年度単位」であることを踏まえると、本実証のような30分単位のトラッキングは、将来の証書制度改革に向けた重要なリファレンス(参照モデル)となります。
考察:アワリーマッチングがもたらすエネルギー市場の変
容
本実証の結果が示す将来像は、以下の3点に集約されます。
- 蓄能技術の価値向上: 時間単位の需給一致が求められるようになれば、電力系統における蓄電池(LiBやフロー電池等)や水素貯蔵の経済的価値が飛躍的に高まります。
- デマンドレスポンス(DR)の精緻化: 供給側に合わせるだけでなく、消費側が「再エネの多い時間帯に需要をシフトする」インセンティブが強化されます。
- 電源ポートフォリオの再定義: 太陽光一辺倒ではなく、夜間供給が可能なベースロード電源(地熱、バイオマス、原子力等)との組み合わせが、企業評価に直結するようになります。
終わり
に
関西電力による大阪・関西万博でのアワリーマッチング実証は、単なる環境イベントの一環ではなく、次世代の電力取引システムを検証する高度な学術・実務的試みです。ブロックチェーンを活用した高精度なトラッキングは、今後のGHGプロトコル改訂や、企業のESG戦略において標準的な要件となる可能性を秘めています。
万博期間中に得られる膨大な需給データと、マッチング精度の検証結果は、日本が24/7 CFEというグローバルな潮流にどのように適応していくべきかを示す、貴重な指針となると思われます。