IEA「エネルギーとAI」報告書:データセンター電力需要には80%の再エネアワリーマッチングを推奨
IEA「エネルギーとAI」報告書:データセンター電力需要には80%の再エネアワリーマッチングを推奨
はじめに
国際エネルギー機関(IEA)は、2025年に「エネルギーとAI」と題したレポートを発刊しました。

近年、AIの急速な進展により、世界各地でデータセンターの建設が相次いでいます。生成AIや大規模言語モデルの学習・推論は、従来のITサービスとは比較にならないほどの計算資源と電力を必要とします。その結果、データセンターは経済成長を支える中核インフラである一方、電力需給や脱炭素の観点からは新たな課題の震源地にもなりつつあります。
こうした問題意識により発刊されたのが上記レポートですが、IEAの分析によれば、世界全体のデータセンターによる電力消費量は、2024年時点で約415TWh、世界の電力需要の約1.5%を占めているということです。

さらに2030年には約945TWhに達し、わずか6年間で2倍以上に増加する見通しです。


世界のトップ10所在地は、米国各都市に加えて、北京・上海・シンガポール・ダブリン・ロンドンとなっています。

米国では、「データ需要地」に近く、比較的立地コストの低い北バージニアに集中しています。アトランタ、シカゴ、デモイン、オマハ、ダラスと中部ゾーンがこれに続きます。
意外にも、西部(山間部)は少なく、サンホセ(シリコンバレー)、フェニックス、ソルトレークシティーがある程度です。やはり需要はあっても立地コストが割高なことが影響しているのかもしれません。

送電統合コスト
一方、送電網との統合も課題です。IEA調べでは日本での系統接続までのリードタイムは5年以上、イギリスやオランダはそれ以上となっています。

系統混雑コストも、米国・英国・ドイツ・オランダで増加傾向にあります。


電源をどう確保するか
電源の話に戻ります。
この急増する電力需要を、どのように持続可能な形で満たすのか。その答えの一つとして、IEAは再生可能エネルギー発電との80%が費用効率性が高いと分析を出しています。
そこで、この報告書の内容に即して、アワリーマッチングの必要性を説明させていただきます。
年間マッチングからアワリーマッチングへのパラダイムシフト
現在、国内外の先進企業の多くはRE100など「再生可能エネルギー100%」を掲げています。しかし、その多くは「年間ボリュームマッチング」と呼ばれる手法に基づいています。これは、1年間の電力消費量と同じ量の再生可能エネルギーを、証書やPPAを通じて調達すれば達成とみなす考え方です。
一方で、この方法には構造的な課題があります。太陽光や風力は天候や時間帯によって出力が大きく変動しますが、データセンターは24時間365日、ほぼ一定の電力を消費し続けます。
そのため、年間で見れば再エネ100%であっても、実際の時間帯別では化石燃料由来の電力に依存している時間が相当程度存在します。この「時間的ミスマッチ」は、排出削減の実効性という観点から無視できない問題です。
こうした課題を背景に、GoogleやMicrosoftは、消費する電力をその時間帯ごとに、同一地域内の低排出電源で一致させる「時間別マッチング(アワリーマッチング)」へと舵を切っています。これは単なる会計上の整合性ではなく、実際の電力系統における排出削減効果を最大化しようとする試みです。
以下のIEAレポート図2.2は、世界の主要なデータセンター運営者による再エネ電力調達の状況を概括しています。
約2割程度が年間ベースでの再エネ100%を、その中でGoogle・Microsoftは共に2030年までのアワリーマッチング100%を目指しています。

アジア地域の企業は概して低い再エネ比率ですが、これからは再エネ利用の量と質でオペレーターの選別が進む可能性があります。
図2.20は、IEAの予測するデータセンター需要に対する新興国も含めた世界の電源構成です。2030年前後までは、主流は石炭とLNGですが、その後は再エネが主流化すると見込んでいます。

データセンター電源調達における各電源の特性
時間別マッチングを実現するためには、電源ごとの特性を理解し、適切なポートフォリオを構築する必要があります。IEAの分析によると、電源ごとに建設期間、コスト、炭素強度には大きな違いがあります。
太陽光や風力は、建設期間が1〜4年と比較的短く、データセンターの建設期間と平仄が合います。

しかし、出力が自然条件に左右される「変動性再エネ(VRE)」であるため、単独では24時間安定供給を担うことができません。
一方、原子力、地熱、水力といった調整可能電源は、昼夜を問わず安定した電力を供給できますが、新設には5〜15年という長いリードタイムが必要です。データセンター需要が急増する短期的な局面において、これらの電源だけで対応することは現実的ではありません。
このため、短中期的な解として、再生可能エネルギーに蓄電池を組み合わせたハイブリッド型の電源構成が提起されています。
蓄電池を活用することで、再エネの変動性を緩和し、需要に近い形で電力を供給することが可能にとなります。
ハイブリッド化による需要のフラット化
報告書に示された図2.17では、米国バージニア州を例に、太陽光、風力、蓄電池を組み合わせることで、データセンターの平坦な需要、いわゆるベースロードをどの程度補完できるかが示されています。

太陽光のみの場合、発電は日中に限定され、夜間は完全に系統電力に依存することになります。風力のみの場合、太陽光よりは出力が分散されますが、それでも時間帯による変動は避けられず、不足分は系統から調達する必要があります。
これに対し、太陽光と蓄電池を組み合わせると、日中の余剰電力を蓄電池に充電し、夕方や夜間の需要を一部カバーできます。さらに、太陽光、風力、蓄電池を組み合わせた場合、各電源の特性が補完し合い、最も効果的にベースロード需要を満たすことができます。その結果、系統電力への依存を最小限に抑えることが可能になります。
アワリーマッチングの経済性とCO2削減効果
図2.18では、米国におけるさまざまな調達ポートフォリオについて、平均コストとCO2排出強度の関係が示されています。ここで注目すべき点は、「80%程度の時間別マッチング」を実現するポートフォリオが、従来の年間ボリュームマッチングと同等、場合によってはそれ以下のコストで実現可能である点です。

蓄電池を伴わない年間マッチングでは、再エネが不足する時間帯に価格変動の大きい系統電力へ依存せざるを得ず、結果としてコストが上昇する可能性があります。
一方、適度な蓄電池容量を組み込んだアワリーマッチングでは、価格変動リスクを抑制しながら、排出削減効果を高めることができると、本レポートは見通しています。

ただし、マッチング率を99%以上に引き上げようとすると、必要な設備容量や蓄電池規模が急激に増加し、コストが跳ね上がることも示されています。つまり、経済性と脱炭素効果のバランスを見極めた「現実的なマッチング率」を設定することが重要だといえます。
日本への示唆
この議論は、日本にとっても極めて示唆に富んでいます。日本でも、AI活用の拡大とともにデータセンター需要が増加しており、既に、系統制約や再エネ立地制約が深刻な問題となってきています。単純な再エネ量の積み増しだけでは対応が難しい状況にあります。
アワリーマッチングを導入して、各地域の実情に合ったマッチング率を設定して最適化を図るコンセプトは、日本で指向されている3E+Sの理念にも合致します。日本においても、再生可能エネルギーと蓄電池、さらには需要側制御を組み合わせることで、限られた系統容量を有効に活用するるべきだと考えます。
また、電力の使われる時間帯に着目することで、昼間の太陽光余剰や夜間の逼迫といった課題への対処も、より立体的に議論できるようになります。
今後、データセンターを含む大口需要の急増が見通される中で、年間マッチングにとどまらず、時間軸を意識した調達戦略へと進化できるかどうかが、脱炭素と競争力を両立する鍵になると考えられます。
結び
AIの進化に伴う電力需要の爆発的な増加は、単なる発電量の拡大では解決できない、新たな課題を私たちに突きつけています。
アワリーマッチングは、初期投資こそ増えるものの、長期的には電力価格の不確実性を抑え、真に排出削減につながる調達手法であると私たちは考えています。
再生可能エネルギーと蓄電池を組み合わせたベースロード利用は、もはや理論上の理想ではなく、現実的かつ経済合理的な選択肢になりつつあります。日本においても、この潮流をどのように取り込み、制度や市場設計に反映していくのかが、これからの重要な論点になる思われます。