電気料金が政権を揺るがす。米州知事選にみる「エネルギー政治化」

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インフレとエネルギーコストの増大は、米国の政権を揺るがす最大の選挙の争点の一つとなっています。

2025年11月には、バージニア州とニュージャージー州の知事選挙が行われ、エネルギー政策を巡る激しい攻防が繰り広げました。当社は現地で取材してまいりました。

2025年バージニア州知事選挙:電気料金高騰の責任転嫁が勝敗を分かつ

バージニア州では、共和党現職のヤンキン知事が再選禁止規定により退任することを受け、民主党のアビゲイル・スパンバーガー氏と共和党のウィンサム・アール=シアーズ氏(前副知事)が激突しました。

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選挙戦の構図と電気代の争点化

世界最大のデータセンター集積地であるバージニア州では、AI需要による電力不足と料金高騰が市民の生活を直撃していました。

民主党の攻勢:スパンバーガー氏は、共和党がトランプ前政権と歩調を合わせ、再エネ投資を阻害したことがコスト増を招いたと批判。テレビCMでは、高騰する請求書を手に、共和党のエネルギー政策が生活を破壊していると執拗に訴えました。

共和党の反論:シアーズ氏は、民主党が進めるクリーン経済法による急速な脱炭素化が電力網を不安定にし、コストを押し上げていると主張。急進的な左派の実験が皆さんの財布を空にすると応戦しました。

選挙結果(2025年11月4日投開票)

激戦が予想されましたが、ふたを開けてみるとスパンバーガー氏が歴史的な大差で勝利しました。中間選挙を控えたトランプ政権にとっては大きな打撃となりました。

  • 当選:アビゲイル・スパンバーガー(民主) 1,976,857票 (57.6%)
  • 落選:ウィンサム・アール=シアーズ(共和) 1,449,586票 (42.2%)

ニュージャージー州知事選挙:全米最高レベルの料金への不満が爆発

ニュージャージー州でも、任期満了となるマーフィー知事の後任を巡り、民主党のマイキー・シェリル氏(元下院議員)と、共和党のジャック・チアッタレッリ氏(元州下院議員)が争いました。

争点:インフレ対策と電気代凍結の公約

ニュージャージー州は全米でも特に電気代が高い地域の一つであり、インフレに伴う生活コスト増が大きな争点となりました。

  • 民主党の戦略:シェリル氏は電気料金の一時凍結を検討するという異例の踏み込んだ公約を掲げました。共和党側の再エネ推進が原因という攻撃に対し、逆にトランプ政権による洋上風力への妨害こそが長期的なエネルギーコスト安定化を妨げていると反撃しました。
  • 共和党の主張:2021年の前回選で善戦したチアッタレッリ氏は、民主党の環境規制と増税が州を住めない場所にしていると強調。保守層へのアピールを強めるCMを多用しましたが、中道層の支持をシェリル氏に奪われる形となりました。

選挙結果(2025年11月4日投開票)

結果は、民主党が接戦を制し、3期連続の政権維持に成功しました。

・当選:マイキー・シェリル(民主) 1,896,610票 (56.9%)

・落選:ジャック・チアッタレッリ(共和) 1,417,705票 (42.5%)

意味するところ

米国の選挙戦では、「ヤードサイン」と呼ばれる候補者名の看板が、住宅街の庭先や沿道に無数に並ぶのが象徴的な風景です。

今回のバージニア州やニュージャージー州の選挙でも、こうした看板のそばで「Lower Electric Bills(電気代を下げよう)」といったプラカードを掲げた有権者が集まったり、ポストに電気料金高騰を批判するダイレクトメールが連日届くなど、非常に激しい宣伝活動が行わていました。

また、勝利して知事に就任しても、国際的なエネルギー価格やデータセンターの需要増、送電網の老朽化といった構造的問題は知事の権限だけで解決できるものではなく、実際に料金が下がらなかった場合、有権者の期待は一転して激しい批判に変わるリスクを孕んでいます。

一方、日本においても電気料金は上昇傾向にあります。直近2年間(2024年〜2025年)のだけでも、政府の激変緩和措置(補助金)の終了、再エネ賦課金の上昇、燃料費調整額の変動により、実質的な電気料金は全国平均で約10〜15%程度上昇しています。

もちろん、現時点では米国のような電気代そのものが政権を左右するほどの激しい争点には至っていません。日本の最近の選挙(2025年参院選など)では、むしろ目に見えて価格変動が分かりやすいガソリン代のトリガー条項凍結解除や、所得税・消費税の減税が議論の焦点となっています。

しかし、今後、データセンターの国内誘致加速や送電網の増強コストがさらに転嫁され、電気料金が現在以上に増高した場合、日本でも米国バージニア州のように電気代の責任追及が政治の主戦場となるエネルギー政治化の状況に陥るリスクがないとはいえないでしょう。

生活に直結するインフラコストへの不満は、一度火がつくとこれまでの政策評価をすべて覆すほどの影響力を持ちます。

「課題先進国」である米国の状況を今後も注視していく必要があります。