【深堀り解説】OCCTO、2026年度需要想定を公表
【深堀り解説】OCCTO、2026年度需要想定を公表
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電力広域的運営推進機関(OCCTO)は21日、2026年度から2035年度までの10年間を対象とした電力需要想定を公表しました 。
策定方法
この想定は、過去の電力需要実績と人口、国内総生産(GDP)、鉱工業生産指数(IIP)などの経済指標との相関分析に基づき策定されています 。
また、データセンター(DC)や半導体工場の新増設に伴う大規模需要は「個別計上」として精緻に積み上げられています。こうした新規需要は、通常の経済指標を用いた相関式では捉えきれないため、系統接続プロセスにおける工事費負担金契約の締結状況やプレスリリース等の具体的な進捗に基づき、蓋然性の高い案件のみを個別に加算されています 。
全国の需要推移と経年的な成長予測
全国の最大需要電力(夏季・送電端)は、2025年度の推定実績158,815千kWに対し、2026年度は159,626千kW(+0.5%)と見込まれています 。その後も経済成長や特定需要の増加が人口減少や節電の影響を上回り、2035年度には164,601千kW(2025年度比で年平均+0.4%)まで増加する想定となっています 。
使用端電力量も同様の傾向で、2025年度の803,370百万kWhから、2035年度には846,129百万kWh(年平均+0.5%)へと伸長する見通しです 。用途別では、人口減少や省エネの進展により家庭用需要が年平均0.6%減少する一方で、DCや半導体関連を含む「産業用その他」が年平均1.7%と力強く伸び、全体の需要を牽引する構造となっています 。
前回想定から下振れ
今回の報告では、中長期的な増加傾向は維持されているものの、短中期的な数値が前回(2025年度)想定から下振れています。具体的には、DC関連の最大需要電力において、2033年度までは前回想定を下回る推移となっています 。
その要因は、需要そのものの減退ではなく、事業者の工事延期や遅延、設計変更等に伴う「運転開始時期の後ろ倒し」です 。DC計画の精査の結果、最終的な需要規模に到達する時期が数年単位で遅れていることが判明しました 。ただし、2034年度以降は再び前回想定を上回る予測となっており、長期的にはデジタルインフラへの投資意欲が衰えていないことがデータから示されています 。
供給区域別の特徴
各供給区域における2025年度推定実績から2035年度までの需要電力量(使用端)および最大需要電力の変化と特徴は以下の通りです。
北海道エリア:全国で最も高い成長率(年平均+1.2%)を記録します 。最大需要電力は2025年度の4,221MWから2035年度に4,600MWへ増加します 。次世代半導体製造拠点の稼働やDCの新増設といった「産業用その他」の伸び(年平均+4.5%)が顕著で、人口減少による家庭用需要の減退(年平均▲0.9%)を大きく上回って成長を牽引します 。
東北エリア:半導体関連の個別計上が寄与するものの、人口減少に伴う家庭用需要の減少が激しく、電力量の年平均増減率は▲0.0%と、ほぼ横ばいの推移となります 。最大需要電力は2025年度の12,963MWから2035年度には12,832MWへと微減する見通しです 。
東京エリア:DC需要の集積が継続し、年平均+1.1%という全国平均を上回る高い成長を維持します 。最大需要電力は2025年度の54,529MWから2035年度には58,880MWへと約4.3GW増加し、全国の需要増加分の多くを占めることになります 。
中部エリア:製造業の堅調な動きを背景に、電力量は年平均+0.2%と緩やかな増加を辿ります 。最大需要電力は2025年度の23,471MWから2035年度には23,868MWへと推移する予測です 。産業用需要が下支えする一方、節電・省エネ影響も継続します 。
北陸エリア:家庭用(年平均▲0.6%)や業務用(年平均▲0.5%)の需要減少が産業用の微増を上回り、電力量は年平均▲0.1%の減少傾向となります 。最大需要電力は2025年度の4,679MWから2035年度には4,600MWへと縮小する見通しです 。能登半島地震の影響等も考慮した地域特性が反映されています 。
関西エリア:既設DCの増設や新規計上が寄与し、電力量は年平均+0.5%と安定的に推移します 。最大需要電力は2025年度の26,911MWから2035年度には27,737MWへと増加し、大都市圏としての安定的な産業・業務負荷を維持します 。
中国エリア:特定需要の新規計上により産業用需要が年平均+1.4%と伸びるものの、他部門の減少により全体の電力量は年平均+0.2%の微増に留まります 。最大需要電力は2025年度の10,018MWから2035年度には10,130MWとなる想定です 。
四国エリア:全国で最大の減少率となる年平均▲1.0%を記録します 。人口減少や電化の進展による効率化が他エリア以上に強く影響し、最大需要電力は2025年度の4,636MWから2035年度には4,280MWまで低下する厳しい予測となっています 。
九州エリア:半導体工場の新増設が産業用需要(年平均+1.2%)を押し上げる一方で、住宅用太陽光の自己消費進展なども影響し、全体の電力量成長率は年平均+0.3%に制御されています 。最大電力は2025年度の15,758MWから2035年度には15,960MWへ達します 。
沖縄エリア:人口減少に転じつつも世帯数は増加しており、大型商業施設の新増設や観光客回復を背景に電力量は年平均+0.6%の増加を維持します 。最大需要電力は2025年度の1,629MWから2035年度には1,714MWへと堅調に増加する見通しです 。
米国PJMにおける需要予測の下振れと背景
米国最大の系統運用機関であるPJMインターコネクションも、同じタイミングで長期需要想定を公表していて、2027年の夏季ピーク需要を前年比約4.2GW下方修正しました。
この背景には、データセンター(DC)需要の急激な拡大に対する「リアリティ・チェック」があります。これまではDC事業者からの利用申請をそのまま積み上げていましたが、建設の確約がない投機的なプロジェクトや、送電網への接続待機期間の長期化を考慮し、PJMは予測手法を厳格化しました。
具体的には、DC開発の実現可能性を精緻に精査(Vetting)し、稼働時期の遅延を織り込んだ結果、短中期的な予測が下振れました。これは「需要の消失」ではなく、過熱した期待が現実的な時間軸へと修正されたことを意味しており、エネルギー供給とインフラ整備のタイムラグを考慮したものといえます。
経済社会のパラダイムシフトによる不透明性とボラティリティの増大
現在、電力システムをめぐる環境は、政治・経済・社会の各面で、構造的なパラダイムシフトに直面しており、不透明性とボラティリティがかつてないほど高まっています。
①フィジカルAI化
第一にAI導入の進展です。AIによる電力需要の増加はデータセンターだけではありません。
先日開催されていたCESで見られた米国や中国のAIロボット開発競争は、AIが画面内にとどまらず「フィジカルAI」として物理世界へ浸透する兆しを示しています。工場などの製造現場のみならず、配膳ロボット等の業務用や、介護等の家庭用ロボットなどが爆発的に普及するシナリオもあり得ます。それは、作業の電化であり、電力需要の増大をもたらします。
②移動手段の電動化(EVなど)
第二に、EVなどの移動手段の電動化です。
EV販売台数の伸びは、足元では緩やかですが、今後、非線形に急増する可能性も否定できません。乗用車にとどまらず、業務用でも電動化が進む可能性があります。
③製造拠点の国内回帰
第三に地政学リスクに伴う製造拠点の国内回帰です。資源から廃棄リサイクルまでを内製化する動きは、国内電力需要の強力な増加要因となります。
④デジタルからアナログへの逆シフト
第四に「アナログ回帰」の進展です。三菱重工によるガスタービンや送変電機器(GIS)の増産に見られるように、産業構造がデジタル一辺倒から大規模な重機・プラント製造へと一部でも回帰すれば、経済成長に対する電力需要の弾性値は上昇します。
⑤行き過ぎたグローバル化からの回帰による冗長性
最後に、グローバルサプライチェーンの変容です。効率重視の「ジャスト・イン・タイム」から、備蓄や冗長性を重視する「総花・分散型」への移行は、社会全体のエネルギー効率を低下させ、電力需要を押し上げる要因となります。
不確実な時代におけるシナリオアプローチの重要性
こうした予見可能性の低下とボラティリティの増大を受け、欧米の需要想定では「シナリオアプローチ」が一般的となっていて、想定の前提条件によって上限と下限で20%程度の乖離を許容し、単一の予測に依存しない柔軟な計画を策定しています。日本においても、実は、かつて旧一般電気事業者は複数のシナリオを公表していましたが、自由化後は、コストダウンが優先され、需要想定は一本の線となりました。
電力設備は20年以上の長期スパンで運用されるため、需要が実現しなかった際の座礁資産化リスクと、過小投資による供給不足リスクのジレンマに常にさらされます。現に、今回の「下方修正」で一部報道では、「データセンターへの過剰な期待」を批判する論調もみられます。これでは、需要想定を行う側は委縮してしまいます。結果責任が判明するのは20年後ですから、こうした批判を浴びれば、どうしても先送りをしたいという現状バイアスが働き、大胆な想定を自重する方向に働きがちになります。
デフレが続いた「失われた30年」は需要変動が極めて低く、標準シナリオのみでの投資計画が可能でしたが、現在は動乱の時代です。
徹底的なコスト削減という短期的視点ではなく、不確実性を前提としたリスクとコストの最適化を図る手法の導入を検討する時期に来ているのかもしれません。
標準シナリオのみに依拠した投資計画は、今やそれ自体が日本全体のリスクとなりつつあると言えるでしょう。

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