ISSB、生物多様性・生態系・生態系サービス(BEES)開示基準の策定に向けた事務局スタッフペーパーを公表

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国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)は16日、同月末にフランクフルトで開催されるボードミーティングに先立ち、生物多様性・生態系・生態系サービス(BEES)に関する新たな基準策定の目的と範囲を整理した事務局スタッフペーパーを公表しました。本ペーパーは、2025年11月に決定された標準設定プロセスへの移行を受け、具体的な開示要求事項の枠組みを示す重要なステップとなります。

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気候に続く次の重点領域としての「自然」~ISSBの標準設定戦略の全体像

今回の文書では、ISSBが今後策定を検討する自然関連基準の目的が、投資家を主たる利用者とする一般目的財務報告において、自然に関連するリスクと機会が企業の将来キャッシュフロー、資本コスト、資金調達能力に与える影響を適切に評価できる情報を提供することにあると整理されています。これは、すでに公表されているIFRS S1およびIFRS S2を基盤としつつ、それらを補完する形で自然特有の論点を扱うという位置づけです。

ISSBは、気候関連情報と同様に、自然関連情報についても単独の環境報告としてではなく、企業価値評価に直結する財務情報として整理することを重視しています。今回のスタッフペーパーは、その考え方を自然分野に拡張する最初のステップといえます。

特定テーマに限定しない包括的スコープ:依存関係と影響から捉える自然関連リスク

基準の対象範囲についてISSBは、特定の自然テーマや産業分野に限定するのではなく、企業活動が自然資本や生態系サービスに対して持つ依存関係と影響の双方から生じる、あらゆる自然関連のリスクと機会を包括的に捉える方針を明確にしました。森林、水、土壌、生物多様性といった個別テーマを縦割りで扱うのではなく、相互に関連する自然要素を横断的に捉える姿勢が示されています。

もっとも、ISSBは影響や依存関係そのものを網羅的に開示させることを目的としていません。これらが企業の財務状況や将来の企業価値にどのような影響を及ぼすのかという、財務的マテリアリティの観点から情報を整理・開示することが中核に据えられています。この点は、影響重視のアプローチをとる他の開示枠組みとの重要な違いといえます。

自然関連情報特有の論点~場所固有性とリスク分類の整理

スタッフペーパーでは、自然関連リスクの特徴として、場所固有性が極めて高い点が指摘されています。生態系の劣化や水資源制約、生物多様性の損失は、企業の立地やサプライチェーンの構造によって影響の現れ方が大きく異なります。そのため、単純な平均値や一律の指標では、投資家にとって有用な情報になりにくいとされています。

今後の議論では、自然関連の物理的リスクや移行リスクをどのように整理し、場所固有性の高い情報をどのレベルで、どのような形で開示させるのかが主要な論点となります。気候関連開示で培われた枠組みを参照しつつも、自然分野特有の課題に対応した設計が求められることになります。

TNFDを中心とした既存枠組みとの関係~相互運用性を意識した基準設計

基準策定にあたっては、自然関連財務情報開示タスクフォースの提言や用語、評価手法が重要な参照点として位置づけられています。特に、自然との関係性を把握するための考え方として提示されているLEAPアプローチは、ISSBの標準設定作業においても概念整理の基礎として活用される想定です。

一方で、グローバル・レポーティング・イニシアティブや欧州サステナビリティ報告基準など、既存のサステナビリティ開示基準との関係についても、相互運用性を意識しながら検討を進める必要性が示されています。これにより、企業にとっての重複開示負担を抑えつつ、グローバルな比較可能性を確保することが狙われています。

COP17を視野に入れた今後のロードマップ~公開草案から最終基準化へ

今後の進め方としては、2026年10月に開催予定の生物多様性条約第17回締約国会議を重要な国際的節目として意識しつつ、自然関連基準の公開草案に向けた検討を進めていく方針が示されています。1月のISSB会合では、自然関連リスクと機会の定義や整理方法、場所固有性の高い情報の開示アプローチなどについて議論が行われる予定です。

これらの議論を踏まえ、公開草案の策定と広範な意見募集を経て、2027年以降の最終基準化に向けた審議が本格化すると見込まれます。気候に続き、自然が国際的な財務報告の枠組みに組み込まれていく過程は、企業のリスク管理や投資判断の在り方に大きな影響を与えることになりそうです。