洋上風力発電開発は今後どうなるのか?エネ庁委員会での議論のまとめと今後の見通しについて
洋上風力発電開発は今後どうなるのか?エネ庁委員会での議論のまとめと今後の見通しについて
洋上風力発電の現状と政府の方針
政府は2050年のカーボンニュートラル実現とエネルギー安定供給の両立に向けて、洋上風力発電を再生可能エネルギー主力電源化の切り札と位置付けています。
第7次エネルギー基本計画等において、2030年までに10GW、2040年までに浮体式を含む30から45GWの案件形成を目指すという野心的な目標を掲げています。
しかしながら日本の洋上風力は未だ黎明期にあり、エネルギー安全保障やコスト低減に不可欠な国内サプライチェーンの構築や人材育成などの産業基盤確立はまだ緒に就いたばかりというのが現状の認識です。
そこで、今回は、まずはエネ庁の委員会での洋上風力を巡る議論の内容を振り返り、その後に、現状の報道ベースでの民間企業や国内外業界のを概括してみます。

三菱商事コンソーシアムの撤退理由と地盤調査の実態
まず、日本の洋上風力政策に大きな衝撃を与えたのが、第1ラウンド公募で選定されていた三菱商事コンソーシアムによる3海域での開発中止の発表です。
これはエネ庁委員会でも大きく取り上げられました。
同社の撤退の最大の理由は公募選定後の急激な事業環境の悪化による採算性確保の困難にあります。ウクライナ危機等に端を発する世界的なインフレ、為替の円安、金利上昇に加え、世界的なサプライチェーンの逼迫が発生しました。
これらに加え、地盤調査の結果が事業撤退の大きな要因となりました。
公募参加にあたり、同コンソーシアムは政府から提供されたデータに加え、独自に追加の音波探査、ボーリング調査、海底面調査を実施し、相応の裕度を持った事業計画を策定していました。しかし、公募前は一部のデータに基づき一定の前提条件を置いて臨まざるを得ず、公募選定後に海域全体の全数ボーリングが可能となったことで状況が一変しました。
全数ボーリングの結果を基に設計基準評価、全体荷重評価、風車設計評価、支持構造物設計評価を行って詳細設計を固め、ウインドファーム認証に臨んだ結果、海底の地形や地層が想定以上に複雑な構造をしていることが判明しました。これにより風車基礎の一部設計変更や施工方法の見直しを余儀なくされ、認証取得までの期間や工期の長期化が生じました。これが洋上工事費用を含む事業費全体が公募時の見積もりから2倍以上に膨らむ一因となりました。
コスト増を補うためFITからFIP制度への移行や価格調整スキームの導入などが議論されましたが、大幅なコスト増を賄うだけの高額な価格水準で長期の電力購入契約を締結できる需要家を確保することは困難であり事業継続を断念せざるを得ませんでした。
世界的にもインフレ等の影響は深刻であり洋上風力業界全体が苦戦を強いられています。
事業完遂と新たな公募制度に向けた対策
第1ラウンドの撤退はサプライチェーンへの投資が遅れる致命的な事態を招きかねないため、政府は既存案件の事業完遂に向けた救済措置と新たな公募制度の構築という対策を打ち出しています。
既存案件に対しては、プレミアムが実質発生しないゼロプレミアム案件に限り、バランシングコスト相当のFIP交付金の受け取りを放棄することを条件に、例外的に長期脱炭素電源オークションへの参加を認める方針が示されました。また事業継続のためにやむを得ない場合は風車メーカー等の計画変更を柔軟に認める仕組みを整備します。
次回公募のタイミングと実施方法および変更点の見通し
今年度に公募を予定している対象海域は、秋田県八峰町および能代市沖、秋田県男鹿市および潟上市および秋田市沖、新潟県村上市および胎内市沖、長崎県西海市江島沖の4区域となっています。
次回公募の実施方法としては、政府や自治体の主導的な関与により効率的な案件形成を実現する仕組みであるセントラル方式の一環として、独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構が基本設計に関するサイト調査を実施することを基本とします。
これにより、国から提供されるデータ数が増えるとともに、複数の事業者が同一海域で重複した調査を実施する非効率の解消が見込まれます。
新たな公募制度における変更点の見通しとして、低価格入札が撤退を誘発した反省から、事業実現性評価においてサプライチェーン形成を評価する観点を取り入れ、電力安定供給に関する項目の配点を20点から25点に増加させます。
一方で、国内サプライチェーンの構築が十分でなく風車等の設計や調達に時間を要する現状を考慮し、迅速性評価の配点は20点から10点に変更されます。スケジュールが年単位で遅延する計画変更にも柔軟に対応できるよう、通常の工程で想定される運転開始時期に2年間の予備期間を設ける対応が取られます。
さらに、過度な低価格入札を防ぐため新たに想定供給価格幅を設定し、供給価格上限額での入札に対しても一定の価格点を与えます。また、1社あたりの落札上限を1GWに設定し、撤退時のペナルティとして親会社や別子会社も参加資格停止の対象に含め、撤退事業者が保有する地盤等のデータを再公募時に無償提供する規定も設けるなど、事業規律の強化が図られる見通しです。
関係委員会における有識者の議論
これらの対応策について関係委員会では白熱した議論が交わされました。
次世代電力ネットワーク小委員会において桑原委員は、第1ラウンドで撤退が生じ難しさが浮き彫りになったとし、育てていくには相当の覚悟と支援が必要であり、ラウンド2およびラウンド3を確実に完遂させることが将来の日本の産業基盤構築の前提を築くと危機感を強く表明しました。
洋上風力促進ワーキンググループにおいて長期脱炭素電源オークションの特例適用について国内サプライチェーン構築につながると歓迎する声が上がる一方、国民負担を許容して支援する方針はより広いステークホルダーで議論すべきといった慎重論も出されました。
次世代電力ネットワーク小委員会において松本委員は、FIP電源に容量市場を認めないことは違和感があると指摘し、荒山委員は合理的な選択となり得たのかを制度の側から検証し改善につなげることが重要と評価しました。
長山委員は、長期脱炭素電源オークションの活用を例外措置として理解しつつも事業者が実際に利用できる形になっていなければ意味がないと実効性に懸念を示しました。
小野委員は、想定供給価格幅の設定が事実上の下限価格となり競争を抑制しコスト低減のインセンティブを弱める恐れがないかと制度のバランスについて指摘しました。
事務局の平課長は、固定費の二重回収防止の観点からゼロプレミアム案件でバランシングコストを放棄した場合に限り特例を認め、次回以降の公募の予見性を守るため第2および第3ラウンドのみに例外的に適用すると政府としての線引きを説明しました。
政府の今後の方針
今後政府としては、洋上風力発電を再生可能エネルギー拡大の主軸と位置づけつつも、予測困難な事業環境の急変に柔軟に対応できる制度設計の精緻化が求められます。
単に価格競争を促すだけでなく、中長期的な安定供給と地域共生を担保できる責任ある事業者を適正に評価する仕組みの定着が急務となります。
また、コスト低減と産業競争力強化に向けて、国内サプライチェーンへの投資支援をさらに拡充するとともに、金融機関や保険業界と連携したリスク分散スキームの構築など、事業者の過度なリスクを緩和しつつ着実な案件形成を後押しする官民一体のプロジェクト伴走型支援が強化されていくと考えられます。
政府は、2040年までに30~45GWの案件形成を目指しており、そのうち15GW以上を浮体式で賄う目標を掲げています。15~20MW級の大型風車を採用した場合、1,000基規模の建設が必要となりますが、日本特有の台風や地震、複雑な海底地形といった課題が立ちはだかっています。今回の連携では、限られた港湾インフラや作業船を最大限に活用し、安全かつ迅速な施工システムを構築するとしています。
JERAの「継続方針」。日本の洋上風力は「価格競争」から転換局面へ
こうした中で、最近の報道を概括してみます。ロイターが報じるところでは、JERAは秋田県男鹿・潟上・秋田市沖の315MW案件や、青森県日本海南側の615MW案件について、引き続き開発を進める方針を示しているということです。
現在の報道では、「三菱撤退」と「JERA継続」が対比的に語られることが多く、日本の洋上風力市場が大きな分岐点に入ったことを象徴する構図となっています。
もっとも、報道においてもJERA側も決して楽観的な姿勢ではなく、世界的インフレや円安、金利上昇、施工船不足、風車価格上昇などにより、事業環境が厳しさを増している点を認めているとされています。
その上で、LNG長期契約による収益安定化、再エネと火力を組み合わせたポートフォリオ運営、海外洋上風力案件での経験、欧州大手との連携などを通じ、総合エネルギー事業者としてリスク耐性を高めながら対応を進めていくことも報道されています。
一方、最近の業界メディアの一部では、「日本の純粋な価格競争の時代は終わった」という論調も目立ち始めています。
今後の制度設計では、単なる価格の安さだけではなく、EPC遂行能力、調達力、長期運営能力、国内サプライチェーン形成、実現可能性といった観点が重視される方向に変わりつつあります。
これは欧州でも近年進んでいる流れであり、日本もまた「最安値競争」から、「実際に完遂できる事業者」を評価する市場へと転換し始めているように見えます。
上記のとおり、政府としても、洋上風力を単なる再エネ導入政策ではなく、GX産業政策やエネルギー安全保障、港湾・重工業サプライチェーン再構築とも結びつけながら支援を強化する方向です。
今後の洋上風力開発の動向について引き続き注視してまいりたいと思います。
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