送配電網時間別排出係数、日本で進むロケーションベース手法改定の条件整備~関西電力送配電の2025年実証を分析

· 電力,脱炭素

GHG Protocol Scope2改定において、時間帯別排出係数やアワリーマッチングが国際的な論点となる中、日本ではすでに、ロケーションベース手法の高度化に必要なデータ基盤が相当程度整備されている可能性があります。

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資源エネルギー庁による系統情報公開の枠組み

その前提となっているのが、資源エネルギー庁による「系統情報の公表の考え方」です。

資源エネルギー庁「系統情報の公表の考え方」

この考え方は、電力システム改革や再生可能エネルギー導入拡大を背景に整理されてきたものです。一般送配電事業者は、各エリアの需給実績を30分単位で公開しており、そこでは電源別・時間帯別の発電実績が示されています。

関西電力送配電が公開している需給実績

関西電力送配電の需給実績ページでは、関西エリアの需給実績が公開されています。ここでは、原子力、地熱、水力、火力LNG、火力石炭、火力石油、火力その他、バイオマス、風力、太陽光、揚水、蓄電池、連系線、エリア需要などが示されており、30分値はkW値を30分平均した値を基に公開されています。

関西エリアの需給実績の公表

関西電力送配電によるCO2排出状況の実証

さらに重要なのは、関西電力送配電が2025年1月29日から2025年3月31日まで、関西エリア全体の系統につながる発電設備からのCO2排出状況、すなわち「系統CO2情報」を見える化する実証を行ったことです。同社は、前日までの30分ごとの系統CO2情報を公表し、CO2排出量の少ない時間帯に電気を使うことでCO2低減に貢献できることを社会に認知してもらえるかを確認すると説明しています。一般送配電事業者が系統CO2情報を公表することは、同社が初の試みとされています。

関西エリアのCO2排出状況の公表(試行)

関西電力送配電プレスリリース

30分単位の排出係数が事実上算定可能な状態

この実証ページでは、前日までの関西エリアのCO2排出量実績およびカーボンフリー発電比率が公表され、CO2排出量が少ない時間帯やカーボンフリー発電比率が高い時間帯を確認し、家電機器の使用やEV充電などを環境負荷の低い時間帯に移す活用イメージも示されています。また、実証ページには2024年3月分から2025年3月分までのCSVデータが掲載されており、実証開始以前の過去実績も含めて確認できる形となっていました。

この事実は、GHGプロトコルスコープ2のロケーションベース手法における時間粒度の向上に向けて、非常に大きな意味を持ちます。

なぜなら、同じ関西電力送配電が、時間帯別の総CO2排出量と、時間帯別・電源別の発電量を公開しているためです。

総CO2排出量を総発電量で割れば、その時間帯における実質的なCO2排出係数を30分単位で算定できます(ただし、必ずしもすべてを正確にできるということではありません)。

つまり、関西エリアでは、期間限定の実証ではあったものの、ロケーションベース手法に用いる時間帯別排出係数を、一般送配電事業者というオーソリティのデータに基づいて、かなり正確に計算できる状態がすでに生じていたことになります。

需要家排出係数でCO2排出の効率性を測る道が開かれた

さらに重要なのは、こうした30分単位の排出係数が整備されることで、各需要家の実態に即したCO2排出量を算定できる可能性が高まったことです。

各時間帯の系統CO2排出係数に対して、各需要家の30分ごとの電力消費量を掛け合わせ、それを年間・月間などで積み上げることで、需要家単位での実質的なCO2排出量を算定することが可能になります。

スマートメータで測定される30分単位の電力消費量データは、当該需要家が合意を前提として、第三者に開示するサービスが既に日本では提供されています。

さらに、その需要家全体のCO2排出量を、需要家全体の総消費電力量で割ることで、「需要家排出係数」を算定することも可能になります。

この需要家排出係数は、単に年間平均係数を機械的に適用するのではなく、その需要家が「どの時間帯に電気を使ったか」を反映した指標となります。つまり、昼間の再エネ余剰時間帯へ需要をシフトした需要家ほど排出係数が低下し、逆に火力依存時間帯に集中して電力を使用した需要家は排出係数が高くなる可能性があります。

これは、自動車における燃費指標のように、需要家のCO2排出効率性を示す重要なKPIとなり得ます。日本では、30分単位の需給実績、電源構成、CO2排出量のデータ基盤が整いつつあり、こうした需要家排出係数の算定まで視野に入る段階に入りつつあると言えるでしょう。

限界排出係数の視座

提示された手法は「平均排出係数」の算出に適しています。一方、需要家が「追加的に」需要を動かした際の評価には、その時動いた電源(主に火力)を特定する「限界排出係数」の議論も国際的には存在します。ただし、ロケーションベースの基本は平均ですので、本稿の論旨を揺るがすものではありません。

日本におけるロケーションベース手法高度化の可能性

しかし、それでも日本では、一般送配電事業者が30分単位で需給・電源構成データを公開しており、関西電力送配電のようにCO2排出量まで試行的に公開する事例も出ています。このことは、日本において、ロケーションベース手法の高度化や時間帯別排出係数の導入に必要な基礎データ環境が、すでに相当程度整っていることを示しています。

もちろん現時点では、揚水発電や蓄電池による「タイムマシン効果」、すなわち異なる時間帯へ再エネ価値を移転する効果の厳密な算定や、エリア間連系線を通じた電力融通におけるCO2排出量の帰属方法など、まだ課題は残されています。

特に、関西エリア以外の電力(中部や中国エリアからの融通)に含まれるCO2をどう評価するかは、全国一律の算定ルール化に向けた最大の論点となり得ます。関西電送の実証が、他エリアへ波及することが、真の「日本版時間別排出係数」の完成には不可欠です。

上記を踏まえたうえで、日本ではすでに30分単位の需給実績、電源構成、CO2排出量までが公開される段階に到達しており、ロケーションベース手法高度化に向けた基礎条件は、着実に整いつつあると言えるでしょう。