スペイン大停電が浮き彫りにした「アワリーマッチング」の新たな役割 ― 脱炭素会計から次世代系統運用へ

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アワリーマッチング推進協議会は、スペインにおいてアワリーマッチングの同国への導入に関する調査を2026年5月7日から12日まで行っております。

この中で、送配電網の系統管理・運用におけるアワリーマッチングの活用可能性について調査・分析を行っています。今回は、その基本コンセプトを解説させていただきます。

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1. 欧州最大級となったスペイン・ポルトガル大停電

2025年4月28日に発生した広域停電

2025年4月28日、スペインとポルトガルで欧州最大級となる広域停電が発生しました。

数秒間のうちに約15GWの電源が系統から脱落し、一時的に需要の約60%が失われたとされています。マドリード、バルセロナ、セビリア、バレンシアなど主要都市では、鉄道、地下鉄、空港、通信設備、交通信号などが停止し、社会インフラ全体に大きな影響を与えました。

事故発生当時、スペインでは再生可能エネルギー比率が極めて高い状態にありました。特に昼間時間帯では、太陽光発電と風力発電が系統電力の大部分を占め、一部時間帯では「グリッド再エネ比率ほぼ100%」に近づく状況も発生していました。

当初は、「再生可能エネルギー大量導入そのもの」が停電原因ではないかという議論も広がりました。しかし、その後の詳細分析では、より構造的な問題が浮かび上がっています。

2. ENTSO-E報告書が示した要因分析

ENTSO-E最終報告書

ENTSO-E(European Network of Transmission System Operators for Electricity)は、2026年3月に最終報告書を公表しました。

出典:

ENTSO-E Final Report on the Grid Incident in Spain and Portugal on 28 April 2025

報告書では、急激な電圧上昇、無効電力制御不足、固定力率運転、同期慣性不足、系統安定度低下、系統分離、連鎖遮断など、複数要因が複合的に発生したことが整理されています。

特に重要視されたのが「Voltage Control(電圧制御)」でした。

ENTSO-Eは、“The issue was not renewable energy itself. The issue was voltage control.” と説明しています。

つまり問題は、再エネそのものではなく、「高再エネ社会における柔軟性・電圧制御・系統安定化能力」にあったという整理です。

再エネが抱える「二重のボラティリティリスク」

背景には、再生可能エネルギー特有の「二重のボラティリティリスク」が存在しています。

第一に、太陽光発電や風力発電は、時間ごとに発電量が大きく変動します。

第二に、発電予測に対して実際の発電量が急激に乖離するリスクがあります。

例えば、急激な雲の流入、日射量低下、風速低下、気象急変などによって、想定していた発電量が短時間で失われる可能性があります。

つまり高再エネ比率社会では、「時間ごとの出力変動」と「予測誤差による急変」という二重の変動リスクが常時存在しているのです。

再エネ比率が低い段階では、火力発電や同期電源がこれらの変動を吸収していました。しかし、再エネ比率が極めて高くなると、これらの変動は直接的に系統運用へ影響を与えるようになります。

今回のスペイン停電は、その課題を現実のものとして示した事故とも言えます。

3. アワリーマッチングが示す「ミクロとマクロを接続する系統運用」

アワリーマッチングは再エネだけに限定されない

現在のGHG Protocol Scope2議論では、「再エネのアワリーマッチング」が中心的に議論されています。

しかし本来、アワリーマッチングの考え方は、再エネだけに限定されるものではありません。

例えば、低炭素火力によるPPA、CCUS付き火力、原子力由来電力、オンサイト再エネ自家消費、蓄電池による時間シフト、EVによる需給調整などにも拡張可能です。

また、蓄電池は単に「余剰再エネを貯める設備」ではありません。

時間単位で見ると、需給変動吸収、周波数調整、電圧安定化、予測誤差吸収などを通じて、アワリーマッチング率そのものを改善する役割を持ちます。

つまり、「どの時間帯に、どの電源が、どれだけ柔軟性を持って供給可能だったのか」を評価する概念として、アワリーマッチングは再エネを超えて、広範な低炭素電源や柔軟性リソースへ拡張できる可能性を持っています。

ミクロの積み上げがマクロ系統運用へつながる

アワリーマッチング(Hourly Matching)は、本来はミクロ的な概念です。

つまり、特定の発電事業者と特定の需要家が、特定地域の中でPPAなど相対契約を結び、「同じ時間帯に発電・消費を一致させる」ことを意味します。

しかし、それを再エネだけでなく、低炭素火力、原子力、蓄電池、EV、需要応答なども含めて時間単位で計算し、それぞれのアワリーマッチング率を積み上げていくと、最終的には系統全体における需給一致率や柔軟性評価へつながっていきます。

つまり、ミクロからマクロへ、そしてマクロからミクロへ、相互に連動する新しい形の系統運用思想とも言えます。

これは従来の中央集権型系統運用とは異なり、部分最適と全体最適を接続する「分散協調型」の考え方に近づいています。

特に重要なのが、「セグメント化」の概念です。

すなわち、大規模系統を単一の巨大システムとして扱うだけではなく、限定された地域単位や需要クラスター単位で、部分集合としての需給運用を行う考え方です。

各地域ごと、各クラスターごとに、再エネ、蓄電池、EV、低炭素火力、需要応答などを組み合わせながら時間単位で需給バランスを最適化し、それを積み上げることで、最終的に系統全体の安定化へつなげていくという発想です。

クラスターマイクログリッドという考え方

この流れの中で重要になるのが、「クラスターマイクログリッド(Cluster Microgrid)」の概念です。

クラスターマイクログリッドとは、巨大な送電系統の中から、地域単位・需要単位・機能単位で部分的な系統をバーチャルに切り出し、それぞれを半独立的に運用しながら、上位系統と連携させる考え方です。

つまり、完全に孤立したマイクログリッドではなく、「広域系統につながりながらも、部分最適運用を行う柔軟な系統クラスター」を形成するという思想です。

この考え方では、アワリーマッチングによって、どの地域で、どの時間帯に、どの電源が、どれだけ需給一致していたのかを時間単位で把握しながら、部分クラスターごとに柔軟性や供給信頼度を高めていきます。

そして、それらのクラスターを上位系統側で統合していくことで、マクロ全体としての需給安定化を実現していくのです。

アワリーマッチングは「次世代系統運用」の補助ツールへ

もっとも、アワリーマッチングだけで、すべての系統運用問題が解決できるわけではありません。

アワリーマッチングは主として30分単位や15分単位程度の時間粒度を前提とする議論であり、周波数制御や1秒以下レベルの瞬時安定度制御などに直接対応するものではありません。

しかし一方で、15分・30分単位で需給状況や柔軟性不足を可視化し、ミクロ単位での需給擦り合わせを積み上げていくことは、結果的に系統運用全体を行いやすくする方向へ寄与する可能性があります。

スペイン大停電以降、欧州では、Deliverability、Dynamic Grid Emissions、Battery Flexibility、Grid Forming Inverter、Demand Responseなどと組み合わせながら、時間帯ごとの需給最適化を図る議論が進んでいます。

つまりアワリーマッチングは、PPAや分散型エネルギーに限らず、将来的には系統安定化、供給信頼度、柔軟性市場などを横断的につなぐことに貢献する可能性を持つ概念として注目され始めています。

スペインで起きた大停電は、その方向性を欧州全体へ強く印象付けた出来事となりました。