【考察】なぜスペインではメガソーラーが受容されるのか?日本との違いは?【第2回】
【考察】なぜスペインではメガソーラーが受容されるのか?日本との違いは?【第2回】
アワリーマッチング推進協議会では、フィールド調査のために、只今スペインを訪れています。
スペインは、EUの中でも特に太陽光発電の導入が進んでいる国の一つです。前回の記事(地理的条件の分析)に引き続き、なぜスペインではメガソーラーが社会に受容されているのかについて、日本の文化・国民性の比較から考えてみたいと思います。
地理条件だけでは説明しきれないスペインの再エネ拡大
前回の記事では、スペインが「高日照」「低土地競合」「需要地・送電網への近接性」という、大規模太陽光発電に適した3条件を満たしていることについて整理しました。
しかし、スペインの再生可能エネルギー導入を現地で見ていると、地理条件だけでは説明しきれない側面も感じられます。
実際には、太陽光や風力をここまで大量導入するには、社会全体としてかなり大きな“不確実性”を受け入れる必要があります。その背景には、スペインという国の国民性や社会的空気感も一定程度影響している可能性があるように思われます。

再エネ大量導入とは「変動」を受け入れること
太陽光や風力は、火力発電や原子力発電とは異なり、自然条件に大きく左右されます。まず、発電量そのものの変動が大きいという特徴があります。
さらに難しいのは、「予測誤差」が避けられないことです。つまり、「どれくらい発電するか」だけでなく、「予測からどれくらい外れるか」という二重のボラティリティを持っています。
そのうえで、既存送電網の上に、太陽光と風力だけで電力需要の大部分を賄う時間帯が出現するほど導入を進めるというのは、ある意味で非常に大胆な取り組みです。
特にスペインでは、時間帯によっては風力と太陽光が電力需要の大部分を占める場面も珍しくなくなっています。これは、単に技術導入というよりも、「変動を受け入れる社会」でなければ成立しにくい構造とも言えます。
「まずやってみる」という空気感
スペインで再エネ拡大を見ていて感じるのは、ある種の「まずやってみる」という空気感です。
もちろん制度設計や技術検討は行われていますが、日本やドイツのように、完全性や整合性を徹底的に詰め切ってから導入するというよりも、「問題があれば後から改善していく」という考え方が比較的強いようにも見えます。
特にラテン系国家に見られるような、大らかさや柔軟性、そして失敗への許容度の高さは、再エネのような不安定性を伴うシステムとの相性が一定程度あるのかもしれません。再エネ大量導入とは、裏を返せば、「想定外が起きる可能性を受け入れる」ということでもあります。
2025年の大停電後も、再エネ拡大の方向性は変わらなかった
象徴的だったのが、2025年のイベリア半島大停電です。
この停電は社会問題化し、政治的議論にも発展しました。再エネ大量導入と系統安定性の関係について、スペイン国内でも大きな議論が起きました。
しかし興味深いのは、その後の社会全体の反応です。もちろん批判や検証は行われましたが、社会全体としては、「だから再エネをやめよう」という方向には大きく振れていません。
むしろ、電圧管理、潮流管理、系統慣性(イナーシャ)、蓄電池、系統増強などの課題を改善しながら、それでも再エネ拡大を進めていくべきだ、という方向性が維持されています。ある意味で、「問題は起きる。しかし、それを改善しながら前に進む」という社会的な姿勢が存在しているようにも見えます。
スペインはFITでも「ファーストペンギン」だった
実は、スペインは再エネ導入政策そのものでも、世界の「ファーストペンギン」の一つでした。再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT)は、まずドイツで1991年の電力買取法、そして2000年のEEG法によって本格導入されました。
特に2000年のドイツEEGでは、太陽光発電に対して20年間固定価格で買い取る制度が導入され、当時としては非常に高額な買取価格が設定されました。初期の住宅用太陽光では、1kWhあたり50ユーロセントを超える水準も存在していました。
その後、スペインも2004年制度、さらに2007年の「RD661/2007」によって、非常に高いFITを導入しました。当時のスペインでは、太陽光に対して1kWhあたり40ユーロセント超という極めて高額な買取価格が設定されていました。
しかもスペインはドイツより日照条件が大幅に良かったため、世界中の投資資金が一気に流入しました。
結果として、2008年前後のスペインでは、世界でも例を見ない速度で太陽光発電が急増します。一方で、その急拡大は副作用も生みました。
世界金融危機、電力料金抑制政策、系統コスト増加などが重なり、いわゆる「タリフデフィシット(電力料金赤字)」問題が深刻化します。その結果、スペイン政府は2010年以降、FIT削減、発電時間制限、新規FIT停止、制度全面見直しなど、かなり急激な政策修正を行いました。しかも象徴的だったのは、既存案件に対する「遡及的(retroactive)」な制度変更まで実施したことです。
これは世界の再エネ政策史の中でも非常に有名な出来事となりました。通常であれば、ここまで大きな制度混乱や投資問題が起きれば、社会全体が再エネそのものへ否定的になっても不思議ではありません。
しかしスペインでは、その後も再エネ導入そのものの方向性は大きく変わりませんでした。一時的な停滞はあったものの、その後スペインは再び欧州有数の再エネ大国へ戻っていきます。
実際、現在では太陽光、風力、蓄電池、水素、送電網増強まで含め、むしろ再エネシステム全体への投資は加速しています。これはある意味で、「まず挑戦する」「失敗したら修正する」「それでも方向性自体は維持する」という、スペイン社会の特徴を象徴しているようにも見えます。
日本はドイツとスペインを参考にFITを導入した
日本でも、その後、ドイツやスペインのFIT制度を参考にしながら、2012年に固定価格買取制度が本格導入されました。特に東日本大震災後のエネルギー政策転換の中で、太陽光発電拡大策としてFITが導入され、初年度の事業用太陽光FIT価格は1kWhあたり42円という非常に高い水準でした。これは当時としては世界的にもかなり高額な水準であり、日本でも急速にメガソーラー投資が拡大する要因となりました。
つまり、ドイツが制度モデルを作り、スペインが大胆に拡大し、日本がその後を追った、という流れが存在していたとも言えます。
日本の「減点主義」とスペインの「加点主義」
私は日本人であることを誇りに思っていますし、日本社会の緻密さや誠実さは世界でも非常に優れた特性だと思います。
一方で、日本では時として、「失敗しないこと」を重視するあまり、事前にリスクを極限まで減らそうとする傾向があるようにも感じます。
日本には「石橋を叩いて渡る」ということわざがありますが、頑丈な石橋ですら慎重に叩いて確認してから渡る、という文化があります。
また、一度失敗すると、その挑戦そのものが長期的に否定的に捉えられてしまうこともあります。いわゆる「減点主義」という言葉で表現されることがあります。
一方で、これはあくまで個人的印象かもしれませんが、スペインではどちらかというと「加点主義」に近い空気感を感じることがあります。まずやってみる。
うまくいけば皆で称賛し、失敗したとしても、それを修正しながら前へ進んでいく。そうした柔軟さや包容力が、再エネのような不安定性を伴うシステムと相性が良い側面もあるのかもしれません。
日本の再エネ導入は今、転換点を迎えている
今、日本では再エネ導入が一つのターニングポイントを迎えているようにも見えます。2011年の福島第一原子力発電所事故以降、日本は急速に再生可能エネルギー導入へ舵を切りました。
その中で、メガソーラーや風力発電が全国各地で急速に建設されました。しかし、その急拡大ゆえに、景観問題、地元住民との摩擦、森林開発、土砂災害リスク、地域コミュニティへの影響など、社会負荷や環境負荷も顕在化しています。
その結果、日本では「再エネ」という言葉自体が、一部でネガティブなイメージを伴うようにもなってきています。
スペインで感じた「包摂しながら前へ進む力」
もちろん、スペインにも課題は数多く存在していますし、ここで述べていることは、ある意味では私自身の偏見も含まれているかもしれません。
ただ、スペインでは、理念を大切にしながら、失敗や課題が起きたとしても、それを社会全体として包摂し、改善しながら前へ進もうとする空気感を感じる場面がありました。そしてその国民性の違いが、再生可能エネルギーとの向き合い方にも、どこか表れているように感じています。

