Scope改定で顕在化する蓄電池のタイムマシン効果(後編)― 排出回避係数の増加によるロケーション基準での排出削減

· アワリーマッチング,電池

蓄電池のタイムマシン効果とは何か

後編では、蓄電池のもう一つのタイムマシン効果、すなわちロケーションベース手法における「排出回避係数」の時間移転について整理します。

ロケーションベース手法と時間別排出係数

ロケーションベース手法では、需要家のCO₂排出量は、基本的に「送配電網の排出係数 × 電力消費量」で計算されます。従来は年間平均の排出係数を用いることが一般的でしたが、GHG Protocol Scope2改定では、時間ごとの排出係数を用いる方向が議論されています。

この考え方が導入されると、昼と夜で同じ1kWhを使っても、排出量は異なります。

たとえば、以下のようなケースを考えます。

・昼の送配電網排出係数:0.3 kg-CO₂/kWh・夜の送配電網排出係数:0.6 kg-CO₂/kWh

この場合、排出係数0の再エネ電力が投入されたとき、その時間帯の送配電網排出係数が、その再エネによって回避される排出量の目安になります。すなわち、昼に再エネを投入すれば0.3 kg-CO₂/kWh相当、夜に投入すれば0.6 kg-CO₂/kWh相当の排出を回避できる、という考え方です。

(ただし、厳密には平均排出係数ではなく、限界排出係数を用いるべきだという議論があります。限界排出係数とは、追加的な1kWhの再エネが投入されたときに、実際にどの電源が押し下げられるかを示す係数です。制度設計上は、平均排出係数を使うのか、限界排出係数を使うのかが重要な論点になります。)

排出回避係数とは何か

排出回避係数とは、再生可能エネルギーが送配電網に投入されることで、その時間に本来使われていた火力発電などの排出をどれだけ回避できたかを示す考え方です。

たとえば、ある時間帯に再エネ電力が1kWh追加で供給された場合、その分だけ火力発電の出力が減ると考えられます。このとき回避されたCO₂排出量が、排出回避係数です。

重要なのは、排出回避係数は時間によって異なるという点です。昼間は太陽光発電が多く、すでに送配電網の排出係数が低くなっているため、そこに追加で再エネを投入しても、回避できる火力発電の量は相対的に小さくなります。

一方、夜間は再エネが不足し、火力発電の比率が高まるため、再エネを投入したときに回避できる排出量は大きくなります。つまり、再エネの希少性は夜間の方が高く、その希少性が排出回避係数に表れます。

蓄電池は排出回避係数を時間移転する

ここで、蓄電池の価値が明確になります。蓄電池は、昼間の再エネが余っている時間に充電し、それを夜間に放電することができます。

昼間は、太陽光発電が多く、送配電網の排出係数は低くなっています。つまり、再エネは比較的豊富であり、追加的な再エネの希少性は高くありません。この時間帯の排出回避係数を0.3 kg-CO₂/kWhとします。

一方で夜間は、太陽光発電がなく、火力発電の比率が高くなります。送配電網の排出係数は高く、再エネの希少性も高まります。この時間帯に再エネ電力を供給できれば、回避できる排出量は大きくなります。ここでは排出回避係数を0.6 kg-CO₂/kWhとします。

蓄電池は、再エネが余っている昼の0.3の時間から、再エネが希少な夜の0.6の時間へ、再エネ価値を移転します。これにより、排出回避係数は0.3から0.6へと高まります。

Section image

つまり、

・昼にそのまま再エネを投入した場合:0.3 kg-CO₂/kWhの排出回避
・夜に蓄電池から放電した場合:0.6 kg-CO₂/kWhの排出回避
・増加分:0.6 − 0.3 = 0.3 kg-CO₂/kWh

となります。

これは、蓄電池が単に電気を移動させているのではなく、「再エネの排出回避効果」を、より価値の高い時間帯へ移していることを意味します。

需要家にとっての意味

この効果は、CO₂排出量を報告する需要家にとって重要です。特にオンサイト太陽光と蓄電池を組み合わせる場合、昼間に発電した再エネを蓄電し、夜間に自家消費することで、高排出時間帯の系統電力消費を回避できます。

その結果、需要家は単に電気料金を削減するだけでなく、ロケーションベース手法上の排出量も削減できる可能性があります。

ここでのポイントは、蓄電池が「排出係数の低い電気」を貯めるだけではなく、「排出回避係数の高い時間に再エネ価値を投入する」点です。これにより、同じ1kWhの再エネであっても、昼にそのまま使うより、夜に放電した方が大きな排出削減効果を持つ場合があります。

このように、蓄電池はマーケットベース手法だけでなく、ロケーションベース手法においても、需要家の排出量削減を支援するサービスを可視化できることになります。

Scope改定で顕在化する蓄電池のタイムマシン効果