SBTi絶対削減手法(ACA)の計算ロジックをアップデート。アワリーマッチング導入も【詳細解説】

· サステナビリティ,アワリーマッチング

SBTi(Science Based Targets initiative)は、企業が最新の気候科学に基づき、パリ協定が求める水準と整合した温室効果ガス排出削減目標を設定・実行するための国際的な枠組みです。

現在、SBTiは企業のネットゼロ目標の基準である「Corporate Net-Zero Standard」の次期バージョン「V2.0」を開発しており、2025年11月に第2次公開協議用のドラフト版を発表しました。このV2.0は、2050年までのネットゼロ達成に向けて、より柔軟かつ実行可能で野心的な枠組みへのアップデートを目指しています。

この大規模な改定を控える中、現行基準(V1.3)の枠組みにおいても重要なアップデートがありました。

これまでの絶対削減手法(ACA)の計算ロジックでは、近年に目標を設定しようとすると非現実的な短期削減率が要求されるという課題が生じていました。この課題を解消し、次期V2.0の手法と方向性を合致させるため、2026年4月にACAの緊急アップデートが実施されました。本記事では、このACAの改定内容から、今後義務化されるV2.0の全体像、そして特に注目されるスコープ2における「アワリーマッチング」の導入までを解説します。

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絶対削減手法(ACA)のアップデートと企業への影響

ACAの主な変更点

2026年4月にアップデートされた絶対削減手法(ACA)では、企業の基準年からネットゼロ達成年までの残り時間に応じて、年間の削減率が動的に計算されるようになりました。

以前の手法で問題となっていた、2020年代後半に目標を設定する場合の急激な削減率の要求が撤廃され、2050年までの期間全体にわたって一貫性をもって削減量が分散されるようになります。また、世界の電力網が2040年までに脱炭素化するという予測に基づき、スコープ2の排出量が2040年までにゼロになるという計算上の前提が組み込まれました。

なお、2050年までにネットゼロを達成するという全体的な野心や、最低年間削減率の下限(4.2%)は変更されていません。

企業への影響

2025年から2030年の目標期間において以前よりも急激な削減が緩和され、企業にとってより実行可能な排出削減軌道となります。

この変更は2026年および2027年に新規で目標を設定する企業や更新する企業に自動的に適用され、SBTiのポータル上のツールに自動反映されるため、企業が新たなデータを用意する必要はありません。

一方で、対策の遅れなどで目標設定が後ずれした企業や過去に排出量を増加させた企業は、残り時間が短くなるため、遅れを取り戻すためのより厳格な削減率が求められます。すでに以前のバージョンでSBTiの認定を受けている既存の目標は、今回の更新の影響を受けず引き続き有効です。

2026年以降に目標設定する企業が注意すべき基準と移行プロセス

2026年以降に目標を設定または更新する企業は、次期基準(V2.0)への移行を見据えたスケジュールとルールに注意する必要があります。企業は2027年12月31日までの間、引き続き現行のV1.3を使用して新しい目標を設定することが可能ですが、2028年1月1日以降はすべての企業に対してV2.0の使用が義務付けられます。

2026年および2027年にV1.3の枠組みで目標を設定する企業であっても、ACAを使用する場合は新しい計算ロジックが自動的に適用されます。これは、今後発行されるV2.0の手法と方向性を合致させるための措置であり、企業がV2.0へスムーズに移行できるように設計されています。

Corporate Net-Zero Standard V2.0の主な更新内容

今後義務化される「Corporate Net-Zero Standard V2.0(ドラフト版)」では、目標の野心レベルを高めつつ、より柔軟な枠組みへの改訂が行われています。

エントリーチェック、初期検証、更新検証という3段階のプロセスが導入され、目標サイクル全体で継続的な改善を促す構造になりました。スコープ1については、技術的な準備状況に基づき資本集約的な資産を段階的に脱炭素化していくためのロードマップ手法である「資産脱炭素化プラン」などが追加され、アプローチが多様化しました。

スコープ3フレームワークは柔軟化され、影響の大きいバリューチェーン排出源に的を絞り、影響が限定的な活動の除外を許容する仕組みになったほか、環境属性証書(EACs)の限定的な使用も導入されています。

さらに、ネットゼロ達成過程で生じ続ける継続的排出に対し自発的に責任を負う企業を評価する制度が導入され、2035年からは大規模企業に対して継続的排出の一部に対する責任(除去等による対応)の義務化が予定されています。

スコープ2要件の厳格化:アワリーマッチングの導入

V2.0における最も大きな変更の一つが、スコープ2(低炭素電力)要件の厳格化です。2040年までに100%低炭素電力に移行することが義務付けられるとともに、究極の目標として「アワリーマッチング(時間単位でのマッチング)」の段階的導入が示されています。

「Corporate Net-Zero Standard V2.0(ドラフト版)」における、アワリーマッチング(時間単位のマッチング)に関する主要な記載部分の英語原文と逐語訳は以下の通りです。アワリーマッチングに関する記載は、主にエグゼクティブサマリーと、セクション3.3の「スコープ2目標(要件 C16.6)」の2箇所にあります。

1. エグゼクティブサマリー(導入の方向性)

記載箇所:文書 SBTi001 CNZS-V2-Second-Consultation-Draft.pdf、セクション EXECUTIVE SUMMARY(エグゼクティブサマリー内、Key elements of the Standard)

英語原文:"...establishes temporal matching as a “north star”, implemented through a phased approach beginning with the largest electricity consumers."

逐語訳:「時間的マッチング(temporal matching=アワリーマッチングと同義)を『北極星(究極の目標)』として確立し、最大の電力消費者から始まる段階的なアプローチを通じて(これを)導入します。」

2. 要件 C16.6(アワリーマッチングの段階的導入の具体ルール)

記載箇所:文書 SBTi001 CNZS-V2-Second-Consultation-Draft.pdf、セクション 3.3 Scope 2 targets (要件 C16.6)

英語原文:C16.6. Phased introduction of hourly matching:
To promote best practices, this criterion will initially apply to a limited number of companies with significant influence. Companies with aggregate annual electricity consumption of ≥10 GWh within a single region of physical deliverability in the target base year shall phase in hourly matching in that region. De minimis sites (annual electricity purchasing <100 MWh) may be excluded. The phase-in shall follow this schedule, which will be kept under review with respect to technology and market developments and GHG Protocol revisions:

a. From 2030: at least [50%]b. From 2035: at least [75%]
c. From 2040: at least [90%]

逐語訳:C16.6. アワリーマッチングの段階的導入:

ベストプラクティスを促進するため、この基準は当初、重大な影響力を持つ限られた数の企業に適用されます。目標基準年において、単一の物理的供給可能地域(region of physical deliverability)内での年間総電力消費量が10 GWh以上(≥10 GWh)である企業は、その地域においてアワリーマッチングを段階的に導入しなければなりません(shall)。

デミニミス(ごくわずかな)拠点(年間電力購入量が100 MWh未満)は、除外される場合があります(may be excluded)。この段階的導入は以下のスケジュールに従うものとし、このスケジュールは技術および市場の発展、ならびにGHGプロトコルの改訂に関連して継続的に見直しの対象とされます:

a. 2030年以降:少なくとも [50%]b. 2035年以降:少なくとも [75%]
c. 2040年以降:少なくとも [90%]

3. その他の関連記載(GHGプロトコル等との連携)

記載箇所:文書 SBTi001 CNZS-V2-Second-Consultation-Draft.pdf、セクション 3.3 Scope 2 targets(Box 2: Ongoing revisions to the Greenhouse Gas Protocol...)

英語原文:"The RE100 initiative and 24/7 Carbon-Free Coalition already specify hourly matching, physical deliverability, and a facility age limit phase-ins, exemptions, and legacy clauses."

逐語訳:「RE100イニシアチブと24/7カーボンフリー連合は、アワリーマッチング、物理的供給可能性、および施設の稼働年数制限の段階的導入、免除、祖父条項(レガシークローズ)をすでに規定しています。

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