GX-ETS導入で火力発電はどうなるのか?脱炭素化と安定供給の両立を目指す各制度の改革議論を分析する

· 電力

緊迫する中東情勢と火力発電回帰への発言

緊迫する中東情勢を背景に、緊急避難的にでも火力発電所を活用すべきという意見が国内外で出ています。

国内では、電気事業連合会の森会長はエネルギー供給不安を受け「脱炭素への取り組みは一度立ち止まって考えるべきだ」と異例の発言を行いました。

海外でも同様の発言がみられます。インドのエネルギー省高官は欧州のLNG買い占めに対し「自国資源の石炭火力の運用継続以外に選択肢はない」と明言し、ASEANエネルギー大臣会議では「既存石炭火力の延命が最も安価な解決策」との見解が共有されました。

アフリカ連合も「天然ガスは貧困脱却の生命線であり、欧州基準の押し付けは格差を固定化する」と反発しています。

これらを受け、IEAのビロル事務局長も「短期的には化石燃料への投資を容認せざるを得ない危機的状況にある」と安定供給の重要性に言及しました。

こうした国際的なエネルギー危機の切迫と火力発電回帰の潮流の中で、GX-ETSが導入されます。

安定供給と環境規制の両立を図るため、経済産業省の各種委員会ではその緻密な制度設計と対応が議論されています。

そこで、今回はそれらの議論を特に先行する欧州の類似制度との比較で分析してみます。

GX-ETSの背景と制度概要

導入の背景と時系列

日本のGX-ETSは、2050年カーボンニュートラル実現と産業構造のグリーン・トランスフォーメーションを目的として導入が進められています。

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現在の日本は、温暖化対策税などを含めた実効炭素価格が約4,000円/t-CO2にとどまり、IEAが先進国に求める水準を大きく下回っています。地球規模での脱炭素化を実現するためには炭素価格の段階的な引き上げが必要とされており、GX-ETSがその中核的施策として位置付けられています。

制度は段階的に導入される慎重導入型の設計です。2023年度からGXリーグを通じた自主参加型として開始され、2026年度からは排出量が10万トン以上の法人を対象とした義務的な制度へ移行し、排出枠の無償配分と取引市場が開設されます。

さらに2028年度以降は化石燃料の輸入事業者等へ賦課金が導入され、2033年度以降は発電事業者に対して有償オークションが段階的に導入される予定です。

ベンチマーク方式と取引予測

欧州のように一律の総量上限を厳しく課すのではなく、日本の発電部門ではベンチマーク方式による目標設定と排出枠割当が導入されます。

2026年から2028年度までは石炭やLNGといった燃種別の基準だけで評価されますが、2029年度に20%、2030年度には40%へと、段階的に全火力一律の基準の重みが増していく仕組みです。

これにより、効率の低い企業や排出原単位の大きい化石燃料に対して、段階的に排出削減や排出枠購入の圧力が強まるよう設計されています。

三菱総合研究所の試算によると、2040年までの中期的な炭素価格水準として、化石燃料賦課金は数千円程度、有償オークションは数千円から1万円前後になると予測されています。

価格の乱高下を防ぐための上下限価格の設定も議論されており、2026年度から2030年度の参考上限取引価格を約4,300円から4,840円、下限価格を約1,700円から1,900円とする案が検討されています。

欧米との比較および環境価値の扱い

2005年から導入された欧州のETSは、発電部門に対して原則として有償割当へと移行しており、非常に強い排出制約と価格シグナルによって石炭から天然ガス等への燃料転換を強く促しています。

一方、日本では2033年まで有償オークション導入が猶予され、当初は無償配分でスタートします。2028年までは燃種別のベンチマークが100%適用されるため、欧州に比べると急激な退出圧力を和らげるエネルギー安定供給への配慮が色濃く反映されています。

また、削減目標の達成手段として、J-クレジットや二国間クレジットを排出量の10%まで充当することが認められています。

2028年から導入される賦課金は、将来のETSの取引価格を踏まえて水準が決定される仕組みとなっており、企業への二重負担の防止が明記されています。

火力発電維持と新規投資政策とのバランス

容量市場と非効率石炭火力のフェードアウト

GX-ETSによる段階的な排出削減圧力が強まる一方で、日本国内では電力需要の増加や再エネの出力変動を補う調整力として、火力発電が依然として重要な役割を担っています。

経済産業省の審議会等では、安定供給の確保を大前提としつつ、厳しい環境規制と火力電源への投資維持のインセンティブをどのように両立させるかについて議論が行われています。

火力発電の維持において中核となる容量市場では、非効率な石炭火力について必要な発電容量は維持しつつ発電量を減らしていく基本方針が示されています。これに基づき、非効率石炭火力の設備利用率が50%を超えた場合に容量確保契約金額を20%減額する稼働抑制誘導措置が導入されました。

しかし、GX-ETSや化石燃料賦課金の導入によって石炭火力の経済優位性が劣後し、想定以上に退出が加速して必要な供給力が失われるリスクが指摘されました。

その結果、2030年度実需給向けオークションでは現行の措置を維持する方向で整理されています。

さらに、中東情勢の緊迫化に伴うLNG調達の不確実性への緊急対応として、2026年度実需給においては稼働抑制措置を一時凍結するという異例の措置が決定されるなど、GX推進と安定供給の狭間で現実的な軌道修正が図られています。

長期脱炭素電源オークションを通じた火力トランジション支援

新規の火力電源投資についても、将来の脱炭素化を見据えた支援が強化されています。

長期脱炭素電源オークションの第3回入札に向けて、水素やアンモニア混焼、CCS付き火力発電への投資を促すための見直しが議論されました。

インフレや金利上昇による事業環境の悪化を踏まえ、脱炭素火力の上限価格の引き上げが行われました。

さらに、従来は対象外であった水素やアンモニアの燃料費などの可変費の一部についても、固定的な支払部分として支援対象に追加することが決定されています。

これは、GX-ETSによる将来的な負担増を見越しつつ、巨額の初期投資を伴う脱炭素火力への投資回収の予見性を国が制度的に担保する優遇策と言えます。

GX-ETSコストの市場転嫁と制度的矛盾への対応

GX-ETSの本格稼働に伴い、排出枠の購入費用を電力取引市場でどのように扱うかも大きな論点となっています。

ベースロード市場のようにベースロード電源の稼働を義務付ける制度と、火力発電を抑制するGX-ETSとの間に政策的な不整合があるとの指摘がなされています。

また、容量市場の応札価格にGX-ETSコストを織り込むことについても、ベンチマーク水準が未確定な段階では合理的な見積もりが困難であるとして、2025年度オークションでは見送る整理がなされました。制度開始当初は火力発電の脱炭素化のリードタイムを考慮し、燃種別ベンチマークを採用することで急激な事業環境の変化を和らげることが確認されました。

今後は、事業者の努力が及ばない外生的な環境規制コストを、容量市場や卸電力市場、電気料金にどのように柔軟に転嫁できる仕組みを構築するかが、電力システム改革の重要課題として議論が続けられています。

今後の展望

このように経済産業省の各種委員会では、GX-ETSとして厳格なカーボンプライシングを導入する一方で、当面は燃種別ベンチマークによって急激な火力退出ショックを和らげる方向であります。

また、同時に、容量市場や長期脱炭素電源オークションによって火力電源の維持や脱炭素化投資を経済的に支援するという、現実的な軟着陸のシナリオが組み立てられていくものと分析します。

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