パナソニック、米カンザス州EV電池工場フル生産化計画を延期との報道 熾烈化する材料技術競争
パナソニック、米カンザス州EV電池工場フル生産化計画を延期との報道 熾烈化する材料技術競争
パナソニックエナジーが、米国におけるEV電池事業の投資タイミングを慎重に見極める姿勢を強めています。
同社が2025年に公表した統合報告書では、世界的なEV需要の鈍化懸念に加え、米国のインフレ抑制法(IRA)を巡る政策変更リスクや関税動向などを踏まえ、市場環境を見ながら柔軟に投資判断を行う方針を示していました。
そのような中、最近では複数の海外メディアが、パナソニックエナジーが米カンザス州で建設を進めるEV電池工場について、当初想定していた2027年3月までのフル生産化計画を延期する方向で調整していると報じています。

報道によれば、同工場は最終的に年間30GWh規模の生産能力を目指していましたが、主要顧客であるTeslaの販売減速や、世界的なEV需要の伸び鈍化などが影響している可能性があるとされています。
また、米国ではEV購入補助金制度の先行き不透明感も指摘されており、EVメーカー各社が設備投資や生産計画を見直す動きも広がっています。
EV市場は中長期的には成長が期待される一方、足元では価格競争激化や需要減速、政策変更リスクなどが複雑に絡み合っており、電池メーカー各社も投資スピードの調整を迫られている状況です。
「高性能」から「低コスト・安全性」へ競争軸が変化
しかし現在の蓄電池業界で起きている変化は、単なる「EV需要減速」だけでは説明できません。むしろ、電池メーカー各社が、「どの材料系を選択するか」という大きな戦略転換点に入っていることが重要です。
これまでパナソニックは、Tesla向けを中心に、高エネルギー密度型の円筒形リチウムイオン電池で世界市場をリードしてきました。主力はニッケル・コバルト・アルミ(NCA)系であり、長距離EVや高性能車との相性が強みでした。
一方、現在の世界市場では、中国CATLやBYDを中心に、リン酸鉄リチウム(LFP)電池の普及が急速に進んでいます。LFPはエネルギー密度ではNCA系に劣るものの、低コスト・高安全性・長寿命という特徴があり、EVだけでなく系統用蓄電池(BESS)との相性が良いとされています。
さらに最近では、CATLがナトリウムイオン電池ブランド「Naxtra」の量産開始を発表し、福建省寧徳市で年間40GWh規模の新たな生産能力を追加する計画が報じられています。ナトリウムイオン電池は、リチウム資源への依存度を下げられるほか、コスト面や低温性能で優位性が期待されており、特に定置用蓄電池市場で注目されています。
「EV専用」から「定置用兼用」へ
蓄電池メーカー各社にとって、もう一つ重要になっているのが、「EV向けだけで戦うのか」という点です。
近年はAIデータセンター拡大を背景に、系統用蓄電池やデータセンター併設型BESS市場が急速に拡大しています。ソフトバンクも2026年5月、日本国内で次世代蓄電池事業へ参入すると発表しました。大阪府堺市のAIデータセンター開発と並行して、韓国COSMOS LABと連携し、亜鉛ハロゲン電池の量産化を目指す方針です。
この電池は、純水系電解液を用いることで発火リスクを低減できるとされており、「高エネルギー密度」よりも、「安全性」「長寿命」「大型定置用途」を重視した方向性が見て取れます。
つまり現在は、EV専用電池だけでなく、系統用蓄電池、AIデータセンター、住宅用蓄電池など、用途ごとに求められる性能そのものが分化し始めている状況です。
「材料」「用途」「市場」が複雑に絡み合う時代へ
さらに競争を複雑化させているのが、地域戦略です。
トヨタはインドネシアでCATLと提携し、現地ニッケル資源を活用したNMC電池の現地生産に乗り出します。インドネシア政府も、ニッケル製錬から電池製造までを含めた垂直統合型サプライチェーン構築を推進しています。
つまり蓄電池競争は、単なる「技術競争」ではなく、「どの資源を使うか」「どの国で生産するか」「どの市場を狙うか」「どの用途に最適化するか」を含めた総合戦略競争へ移行しています。
パナソニックの投資慎重化報道の背景には、こうした世界的な蓄電池競争の構造変化があるとも言えそうです。今後は各社が、「どの電池化学系を選択するのか」「EVと定置用をどう両立するのか」「AI時代の電力需要へどう対応するのか」といったポジショニングが、これまで以上に問われる局面に入りつつあります。
参考:
Panasonic Energy Integrated Report 2025
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