分散型エネルギー推進戦略ワーキンググループ 、DERの最適活用とトータルコスト抑制に向けて議論
分散型エネルギー推進戦略ワーキンググループ 、DERの最適活用とトータルコスト抑制に向けて議論
経済産業省は、総合資源エネルギー調査会の下に新たに「分散型エネルギー推進戦略ワーキンググループ(WG)」を設置し、再生可能エネルギーの主力電源化と電力システムの安定化に向けた議論を本格化させました。
そこで、本記事では、前半で、第1回から第3回までのWGでの議論の内容を振り返ります。この議論を踏まえたうえで、後半では、低圧リソースアグリゲーションビジネスの主流化に向けた今後の課題と展望を考えてみたいと思います。
分散型エネルギー推進戦略ワーキンググループ(WG)の議論
1. 現状認識と問題意識
日本のエネルギーシステムは現在、「5D」(人口減少、脱炭素化、分散化、制度改革、デジタル化)と呼ばれる大きな構造変化に直面しています。第7次エネルギー基本計画において再生可能エネルギーの主力電源化が掲げられる中、天候等による出力変動を補うための「フレキシビリティ(調整力)」の確保が急務となっています。
一方で、再エネの導入拡大や系統増強に伴う「トータル費用の抑制」も極めて重要な政策課題です。この課題を解決する鍵として、蓄電池やディマンドリスポンス(DR)などの分散型エネルギーリソース(DER)の活用が期待されています。
本WGでは、DERを「需要側リソース(DR、家庭用・業務産業用蓄電池など)」と「供給側リソース(系統用蓄電池、再エネ併設蓄電池など)」に分け、それぞれの個別課題(DRの実績把握・リテラシー向上、蓄電池の価格競争や接続ルールの見直し等)を整理するとともに、サイバーセキュリティの確保や、電力システム全体の社会コスト最適化の観点から「どのようなリソース配分が最適か」という総合的な検討が行われました。

2. 委員およびオブザーバーの構成
本WGは、需要側と供給側のリソースを横断的に議論するため、3つの小委員会(省エネルギー小委員会、再生可能エネルギー大量導入・次世代電力ネットワーク小委員会、次世代電力・ガス事業基盤構築小委員会)の下部に位置付けられました。
【座長】(敬称略)
- 林 泰弘(早稲田大学大学院 先進理工学研究科 教授)
【委員】(敬称略)
- 飯岡 大輔(中部大学 工学部 教授)
- 岩船 由美子(東京大学 生産技術研究所 教授)
- 江崎 浩(東京大学大学院 情報理工学系研究科 教授)
- 熊田 亜紀子(東京大学大学院 工学系研究科 教授)
- 杉本 崇(株式会社国際協力銀行 企画部門 調査部 ユニット長)
- 竹内 純子(NPO法人 国際環境経済研究所 理事・主席研究員)
- 爲近 英恵(名古屋市立大学大学院 経済学研究科 准教授)
- 原 亮一(北海道大学大学院 情報科学研究院 准教授)
【主なオブザーバー】(敬称略)
- エネルギーリソースアグリゲーション事業協会(川口代表理事)
- 送配電網協議会(牛尾部長)
- 電子情報技術産業協会(安納代表)
- 電池工業会(蜷川部長)
- 日本電機工業会(松澤委員長)
- 電気安全環境研究所(増田部長)
- 電力中央研究所(高橋副研究参事)
- エナジープールジャパン(市村代表取締役社長)
- NEDO(小笠原主査)
- 電気事業連合会(畠山副部長)
- 電力広域的運営推進機関(今井部長)
- 製品評価技術基盤機構(伊藤所長)
- ENEOS Power(横関事業部長)
- スマートレジリエンスネットワーク(東谷事務局長代理)
など、多岐にわたる業界団体・実務者が参加しています。
3. 各委員・オブザーバーの具体的な発言と論点
会議では、2040年を見据えたDERの導入見通しの分析結果や、それを踏まえた施策の方向性(DRの実績把握、リテラシー醸成、系統用蓄電池の支援要件見直し等)について、各委員から専門的かつ多角的な意見が交わされました。
サイバーセキュリティと経済安全保障の重要性
江崎委員は、サイバーセキュリティについて極めて強い危機感を示しました。数百万単位の機器がネットワークに接続される時代において、マルウェア感染等による「同時制御リスク」が系統崩壊を招く恐れがあると警告。
機器のセキュリティ認証(JC-STAR)について、現状の「★1(自己認証)」では不十分であり、重要インフラに相当するリソースには「★2以上」の厳格な基準を早期に導入すべきだと主張しました。
また、安価な海外製蓄電池に依存する現状に対し、経済安全保障の観点からの議論の必要性も強く訴えました。
全体最適とコスト低減の両立
竹内委員は、蓄電池は発電所ではなく「倉庫」であると指摘し、時間的・場所的な制約を持つため、系統の混雑状況(順潮流・逆潮流)を考慮した市場設計が必要であると述べました。
また、供給側リソースの支援において、補助金による国民負担を抑制しつつ、既存の調整力(揚水発電など)が不利にならないような全体像を見据えた評価を求めています。
原委員も同様に、電力システム全体の最適性を強調しました。
卸電力価格の安定化を目指す政策と、価格差(値差)を利用して収益を上げる蓄電池ビジネスとの間に生じる政策的なジレンマを指摘し、既存の揚水発電などシュアな調整力を提供しているリソースが不利にならないよう、全体最適を取る制度設計を求めました。
補助金の重点配分と要件設定
杉本委員は、蓄電池ビジネスの現状は価格の高さが最大の制約要因になっていると分析し、価格低減を優先課題とすべきと指摘しました。
その上で、単に価格が安いだけでなく、経済安全保障上のサプライチェーンの強靭さや、発火・サイバーセキュリティリスクの低い設備に対して補助金を重点的に配分していく考え方が重要であると提言しました。
熊田委員は、系統用蓄電池の安全性や持続可能性について、質の高い設備が導入されるための明確な評価基準(レジリエンスへの貢献や保証体制など)を設けるべきだと主張しました。
DR(ディマンドリスポンス)の推進と課題
岩船委員は、DRの実績把握について、経済DRの把握だけでなく、低圧リソースが「どこに・どの程度存在し、どう運用されているか」を可視化する「DR大台帳」のような仕組みの整備を提案しました。
また、インセンティブ型DRだけでなく、小売電気事業者による料金型DR(時間帯別料金:TOUなど)の提供をさらに推進・義務化するような強力な施策の必要性を訴えました。一方で、蓄電池のサプライチェーン要件(JC-STAR認証など)を過度に厳格化することで、機器コストが高止まりし、普及の妨げになるリスクについても定量的な検証を求めています。
爲近委員は、費用対効果(EBPM)の観点から、DR導入可能量の精緻な推計が必要であると指摘。また、一般需要家のDR認知度が低い現状に対し、低圧需要家へのリテラシー向上を目的とした教育的プログラムや周知活動の重要性を訴えました。
飯岡委員は、需要家機器をIoT化してDRに参加させる際の通信機器・システムコストが導入の障壁になっている点に触れ、需要家の負担を軽減するIoT化支援の有効性を指摘しました。
オブザーバーからの実務的な視点
- 川口オブザーバー(ERAB):系統用蓄電池の「ストレージ式運用(アービトラージ等による再エネの最大活用)」を高く評価する事務局案に賛同しつつ、一般送配電事業者(TSO)間で運用ルールが統一されないことによるコスト増や非効率を危惧し、全国統一的なルールの構築を強く要望しました。
- 横関オブザーバー(ENEOS Power):低圧DRの普及に向けて、次世代スマートメーターやIoTルーター等の調達コストが高額であることがビジネス上の障壁になっていると指摘し、一時オフライン運用の恒久化など、アグリゲーターの負担を考慮した制度の柔軟化を求めました。
- 松澤オブザーバー(JEMA):DRはアグリゲーターからの遠隔制御(受け身のモデル)が主流とされているが、機器メーカーとしては、機器自身が料金単価等の情報を受信し、自律的に需要をシフトする機能の実装も進めており、こうした仕組みをDRの評価要件に取り入れてほしいと提案しました。
- 小笠原オブザーバー(NEDO):今後のデータセンター導入や産業の電化により、負荷特性自体が急激に変化していくと指摘。需要側と供給側の価値を集約し、電圧制約や過渡安定度も考慮した「DR集約配分機能」などのシステム的な仕組みが必要になると述べました。
- 東谷オブザーバー(スマートレジリエンスネットワーク):業務・産業用蓄電池はDR単独での事業成立は難しく、自家消費やBCP(事業継続計画)目的との「マルチユース」を前提とした制度・広報設計が必要であると指摘しました。
議論のまとめ
分散型エネルギー推進戦略WGにおける議論は、単なる機器の導入目標や補助金のばらまきを超え、「サイバーセキュリティの確保」「経済安全保障」「市場メカニズムと安定供給のジレンマ」「既存リソースとの公平性」「ローカルな系統混雑の解消」といった、次世代電力システムを構築する上での極めて高度かつ複雑な課題に踏み込んでいます。
低圧リソースアグリゲーション事業の主流化の向けた課題と展望
上記の議論を踏まえた上で、低圧リソースアグリゲーションビジネスをどのように主流化していくべきかについて、課題と展望を整理してみたいと思います。
まず第一に、低圧リソースアグリゲーション領域は、長年にわたる実証事業の成果として、世界に伍していける完成度の高い技術水準にあることを抑えておくべきです。
世界表標準となるDER技術
これについて、経済産業省は、2026年4月9日、日本が主導して策定を進めてきた「エネルギー・リソース・アグリゲーション・ビジネス(ERAB)」に関する国際規格(IEC SRD 63443-1)が発行されたと発表しました。
ERABは、太陽光発電や蓄電池といった点在する「分散型エネルギーリソース(DER)」を束ね、あたかも一つの発電所のように機能させて電力の供給力や調整力を提供する仕組みです。
これまでの電力システムは供給側が需給バランスを調整してきましたが、再生可能エネルギーの導入拡大に伴い、需要家側のリソースを活用する重要性が高まっています。
長年にわたる実証事業と技術的完成
経済産業省は、分散型蓄電池などを活用したVPP(バーチャルパワープラント)やDERアグリゲーションの実証事業を長年にわたり推進してきました。
この実証事業には、多くの企業や大学がコンソーシアムを形成して参加し、需給調整市場などの要件をもとに、様々なリソースを束ねて時間・分・秒単位で高速制御する技術の検証を重ねてきました。
その結果、IoT技術を用いた統合制御の精度や、発電予測・市場価格予測技術は社会実装可能なレベルまで向上しました。今回発行された国際規格もこうした蓄積の成果であり、日本発のソリューションとして、ERABは技術面においてすでに完成を見たといっても過言ではありません。
国際標準「IEC SRD 63443-1」による共通基盤
今般発行された国際規格「IEC SRD 63443-1」は、ERABのシステムアーキテクチャを定義したものです。日本はこの分野において、電力消費を抑制する省エネだけでなく、需給状況に応じて需要パターンを柔軟に変化させる「ディマンドリスポンス(DR)」の商用化で先行してきました。
本規格により、異なる機器やシステム間での相互運用性が確保され、グローバル市場におけるERABの普及拡大に大きく貢献するとしています。これにより、日本企業の技術やサービスが国際市場で展開しやすくなる環境が整いつつあります。
世界的に電力システムの「フレキシビリティ」確保が課題となる中、日本発のアーキテクチャが国際標準として認められたことは、今後のエネルギー政策において重要な節目となります。 技術面での確立と国際標準化を達成した今、焦点は本格的な商用化への移行へと移っています。
求められる市場設計の高度化
こうした技術を採算事業として主流化するには、最適な市場設計が必要となります。しかし、現時点ではその事業環境はかなり厳しい状況にあります。
需給調整市場の上限価格引き下げの背景
2024年の需給調整市場の全面開場以降、慢性的な応札量不足を背景に、一部の系統用蓄電池が上限価格(19.51円/ΔkW・30分)に張り付いた高値での応札・約定を繰り返し、調整力の調達コストが異常高騰する事態となりました。
これに対処するため、経済産業省は2026年度の前日取引化に合わせて、一次・二次①・複合商品の上限価格を現行の19.51円から15円/ΔkW・30分へ引き下げることを決定しました。
さらに、市場の競争状況に改善が見られない場合は、10円、さらには7.21円/ΔkW・30分へと段階的に引き下げる厳しい方針が示されています。また、募集量自体も従来の3σ相当から1σ相当へと大幅に削減される予定です。
採算がとれる約定価格の目安(蓄電池モデルケース)
この上限価格の引き下げによって、蓄電池事業者が採算をとれる(伍していける)限界のラインはどこにあるのでしょうか。
資源エネルギー庁が示した系統用蓄電池の収益性モデルケース(導入コストであるCAPEXを「6万円/kWh」、1日2ブロック・6時間約定と想定)によれば、事業者の投資目線であるIRR(内部収益率)5〜10%を確保するためには、「10円/ΔkW・30分」での継続約定が必要(10年稼働でIRR 10.3%)と試算されています。
もし上限価格が7.21円/ΔkW・30分まで下がった場合、IRRは3.3%(10年稼働)に落ち込み、15年という長期稼働を前提にしなければ事業目線(IRR 8.5%)をクリアできない厳しい水準となります。
5円/ΔkW・30分まで下がると、採算確保はほぼ不可能です。
低圧リソースアグリゲーションの競争優位性
2026年度からは、機器個別計測の導入により低圧リソースの需給調整市場への参入が本格化します。しかし、上記の市場環境の変化により、アグリゲーターが需給調整市場でマネタイズしていくことは現状ではかなり困難になると予測されます。
- 過去の高単価約定からの転落: 2025年度(4〜9月)の実績では、VPP/DRリソースの約定単価は複合商品で36.82円/ΔkW・h(約18.4円/ΔkW・30分相当)、三次②で120.40円/ΔkW・h(約60.2円/ΔkW・30分相当)と、非常に高い単価で約定していました。上限価格が15円や7.21円へ引き下げられれば、こうした高収益モデルは成立しなくなります。
- 「マネタイズはかなり難しい」との有識者の指摘: 分散型エネルギー推進戦略ワーキンググループにおいて、岩船委員は「系統用蓄電池が高値で落札していることが問題になり、今後、上限価格も下げられ市場の枠も縮小していく中で、今さら低圧リソースが入ったところで本当にそこでマネタイズできるのかと言われたら、かなり難しい状況」と明確に指摘しています。
低圧リソースが生き残るための方向性
こうした厳しい市場環境において、低圧リソースアグリゲーションが採算をとって伍していくためには、以下の2つのアプローチが必須であると委員会等では議論されています。
① 需給調整市場に依存しない「マルチユース」の前提
三菱総合研究所が提示した業務・産業用蓄電池の収益性評価によれば、需給調整市場単独の収益で経済性を成立させることは困難です。
ピークシフト(自家消費)やBCP(停電補償)といった需要家本来の目的(マルチユース)と組み合わせ、かつ2030年目標である「CAPEX 6万円/kWh」まで機器コスト・通信IoTコストが低下した上で、ようやく一定の経済性が成立するとされています。
なお、このマルチユース試算における需給調整市場からの期待収益(応札価格)は、「5円〜15円/ΔkW・h(=2.5円〜7.5円/ΔkW・30分)」という非常に保守的な前提で計算されており、アグリゲーターは上限価格に頼らない低単価での約定をベースにビジネスモデルを組むことが求められます。
② 「料金型DR(市場連動料金)」へのシフト 有識者からは、小さい需要側リソースの「本丸」は需給調整市場(インセンティブ型DR)ではなく、電気料金の単価差を利用する「料金型DR(市場連動料金や時間帯別料金)」であるべきだと指摘されています。
小売電気事業者が提供するダイナミックプライシング等と連動し、太陽光の余剰が発生して価格が安い昼間に需要を創出(充電・稼働)することで、需要家自身が電気代削減という経済的メリットを享受できる仕組みの普及が急務とされています。
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