トランジションファイナンス~インドネシア「Cirebon-1」石炭火力発電所事業の現在地
トランジションファイナンス~インドネシア「Cirebon-1」石炭火力発電所事業の現在地
近年、国際的な気候金融の分野では、「トランジションファイナンス(移行金融)」という考え方が急速に拡大しています。これは、鉄鋼、化学、電力など、現時点で直ちに脱炭素化が難しい産業に対し、段階的な低炭素化への移行を条件として資金供給を行う仕組みです。
その代表的な国際枠組みの一つが、JETP(Just Energy Transition Partnership)です。JETPは、先進国や国際金融機関が、石炭依存度の高い新興国に対して資金支援を行い、石炭火力の早期退出や再生可能エネルギー導入を支援する仕組みとして、2021年以降、南アフリカやインドネシアなどで導入が進められてきました。
こうした流れの中で、アジア開発銀行(ADB)は、「Energy Transition Mechanism(ETM)」を立ち上げ、日本政府などのグラント支援を活用しながら、石炭火力発電所の早期退出を金融面から支援する取り組みを進めています。
その象徴的案件として位置付けられてきたのが、インドネシア・西ジャワ州に位置する「Cirebon-1」石炭火力発電所です。
Cirebon-1は、660MW規模の石炭火力発電所で、2008年に建設開始、2012年に運転を開始しました。比較的新しい設備であり、supercritical technology(超臨界圧技術)を採用しています。発電事業主体はPT Cirebon Electric Power(CEP)で、出資構成は、丸紅32.5%、韓国中部発電(KOMIPO)27.5%、韓国Samtan20%、インドネシアIndika Energy20%となっています。
ADBは2022年、G20バリサミットに合わせて、CEP、PLN、インドネシア政府系ファンドINAなどと、Cirebon-1をETMのパイロット案件として活用する方向でMOUを締結しました。当初構想では、本来2040年代まで稼働する可能性のある同発電所を、2035年頃に前倒し閉鎖し、その代替として再エネ、送電網、蓄電池などへの投資を促進することが想定されていました。出典:Marubeni Official Release
一方で、この構想については、その後、必ずしも当初想定通りには進展していないとの見方も出ています。
近年のLinkedIn上の専門家投稿や国際エネルギー関係者の議論では、資金条件、代替電源の確保、PLNとの契約、系統安定性、電力需要増加などが課題として指摘されています。また、比較的新しい高効率設備を早期閉鎖することの妥当性についても議論が続いています。出典:LinkedIn Discussion on ADB ETM Pilot
さらに、国際NGOや気候金融関係者の間では、「公的資金による石炭資産の救済ではないか」という論点や、逆に「現実的な移行には段階的アプローチが必要」とする見方など、多様な意見が存在しています。
丸紅も公式リリースにおいて、ETMを「managed transition(管理された移行)」の一環として位置付ける一方、「代替電源の確保」や「安定供給への影響緩和」を前提条件として挙げています。
現在、この議論は、単なる石炭火力閉鎖の是非を超え、電力システム全体の移行設計へと拡大しています。特に、送電網、蓄電池、柔軟性市場、需給調整、時間単位での需給管理など、再エネ大量導入を支えるシステム面への関心が高まっています。
さらに、足元では中東情勢の緊張や天然ガス供給不安、LNG価格変動などを背景に、各国で電力安定供給への関心が再び強まっています。欧州やアジアの一部では、緊急避難的に石炭火力の稼働を維持・活用する動きも見られています。
こうした中で、JETPやADB ETMのような「移行金融」が、今後どのように制度設計され、実際の電力安定供給や再エネ移行と両立していくのか、その動向が国際的に注目を集めています。

