「電力小売が電源を作る」世界初の挑戦:制度設計WGの議論から【第1回】

· 電力脱炭素,制度ワーキング,電力取引市場,電気小売ビジネス

はじめに

経済産業省・資源エネルギー庁は2025年12月10日、「電力システム改革の検証を踏まえた制度設計ワーキンググループ」第8回会合を開催しました。

同会合では、電力の安定供給と中長期的な投資確保を目的として、現物のデリバリーを伴う先渡し型の中長期電力取引市場を新たに整備し、電力小売事業者に対して将来の供給力調達を促す制度案が示されました。

市場を通じて小売事業者が一定期間先の電力を確保することで、発電事業者の投資予見性を高める狙いがあるとされています。

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実はこれは、「需要サイドが市場メカニズムを通じて電源計画を作っていく」という、「天動説から地動説へ」に匹敵するといっても大げさではない発想の大転換で、世界初のチャレンジといってもよいと思います。

それを一言で表すと、「電力小売会社が、長期的な需要想定を行い、電源計画機能を担う」

ということです。

欧州や、これまでの日本のルールを見ながら、その意味を考えてみたいと思います。

欧州のケース

欧米では、規制当局がマクロベースで電源・系統計画を策定し、これを展開するという、従来の中央集権的モデルを継続した「供給プッシュ型(サプライサイド)」アプローチが主流です。

例えばEUでは、ENTSO-E を中心に、送電網・電源・ストレージを一体で捉える10年計画(TYNDP)が策定され、まず公的計画によってシステムの方向性が示されます。その上で市場が設計され、民間の電源・系統投資が誘導される構造です。

その中で、揚水発電所や蓄電所などの調整力投資も一体的に評価されます。

EUにおいても、電力小売会社も当然供給責任を負いますが、「電源計画策定の主役」ではありません。基本的には、「作られた電力を市場から買い、顧客に売る」という役割に限定されています。

自由化前の日本のケース

かつての自由化前の日本の電力会社でも、基本的構造はEUと同じでした。

各電力会社のコーポレート企画部門がまずはマクロ的視点から長期需要想定を行い、これを基に技術部門が電源計画・系統計画を並立的に策定し、その基本計画を基に、発電部門が各地点で原子力・火力・水力発電所を建設し、送配電部門が送配電システムを建設するという、やはり「供給プッシュ(サプライサイド)」アプローチをとっていました。

もちろん、小売部門は、ミクロレベルでの情報や知見を積み上げて、コーポレート部門とは別に、独自の需要想定を行っていましたが、それが企画部門の計画策定の参考にはされましたが、あくまでも決定主体はコーポレートにありました。

また、40年前から「ネガワット」、今でいう下げDRの発想はあるにはあって、電力会社の中には、氷蓄熱やNAS電池などを開発・実装する部門があって、これも一部参考にはされましたが、大宗ではありませんでした。

デマンドプル型への電力システムのパラダイムシフト

ところが、最近では、需要家のニーズが多様化し、電力は単一の商品(コモディティ)ではなく、再エネや地産電力など、「質」を求める声が強くなっています。

再エネ電力需給においても、サプライサイドの視点に立ったFIT制度が様々な課題を引き起こしている中で、FIPやコーポレートPPA、さらにアワリーマッチングやメガソーラーの選別など、需要家発で再エネ電源を構成していくパラダイムへとシフトしつつあります。

このように、需要家の「電力に求める質」が多様化・高度化している中で、そうしたニーズが価格シグナルとなって市場を通じて電源構成を形づくる、「需要主導デマンドプル型)」の電源計画形成が必然的な流れになりつつあるとも考えられます。

今から40年ほど前の話ですが、東京電力は松任谷由美さんに作曲をお願いし、会社のマークを変えたCIを行いました。そこでは「マーケットイン」という発想への転換がメインコンセプトとして示されました。ある意味で、40年をかけて電力市場にもこうしたマーケットイン的な発想が実装段階に入ったと言えるかもしれません。

今回の新政策構想は、そうした潮流の中で、市場を通じて小売会社に計画行為そのものを委ねようとする世界初ともいってもよい挑戦だと言えるでしょう。

もちろん、そのようなパラダイムの大転換には、必ずと言ってもよいほど、当事者の間では混乱が生じてしまいます。

そこで、この連載では、新政策の内容を深堀りし、その課題を分析し、将来の展望を見通していきたいと考えています。

どうぞご期待ください。