欧州電力ネットワーク開発計画案(2026年)、3蓄電池事業を掲載

· 電力脱炭素,蓄電池,蓄電所

欧州で公表された計画

欧州の送電系統運営者で構成される ENTSO-Eは、2026年版の電力ネットワーク開発計画(TYNDP 2026)に向けたドラフト・プロジェクトポートフォリオを公表しました。

TYNDP(Ten-Year Network Development Plan)は、EU域内の電力システムを中長期的にどのように強化していくべきかを示す、欧州全体の基幹インフラ計画です。

このドラフトでは、送電プロジェクト178件、ストレージプロジェクト49件が評価対象として提示されました。

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これらは2025年春の募集期間に、送電事業者やインフラ事業者、民間のプロジェクトデベロッパーなどから提出されたもので、ENTSO-Eが制度面・技術面の要件を満たすかを確認したうえで掲載しています。

計画の位置づけ

49件のストレージ案件は、建設が確定した投資計画ではなく、あくまで、欧州全体の電力システムにおいて、送電線増強と並ぶ代替・補完手段として、費用便益分析(CBA)の対象に載せる価値があると判断された評価候補です。

ENTSO-Eは2026年を通じて、これら49件すべてについて、供給信頼度の改善、再生可能エネルギー統合効果、系統混雑の緩和、経済合理性といった観点から詳細な分析を行い、その結果を2026年後半に公表予定のTYNDP 2026ドラフト本体に反映させる計画です。

ストレージ49件の構成

49件の多くはポンプ式揚水発電ですが、蓄電池(BESS)も3件選出されています。

TYNDPでは、単なるエネルギー容量の大きさだけでなく、「系統上のどの位置で、どの時間スケールの柔軟性を提供できるか」が重視されます。その文脈において、即応性が高く、立地の自由度に優れる蓄電池は、揚水とは異なる価値を持つ系統資産として明確に評価されています。

49件には、蓄電池を中核技術とするプロジェクトが3件含まれています。いずれも、欧州各地の異なる系統課題に正面から対応する案件です。

一つ目は、ギリシャ北西部マケドニア地方の都市プトレマイダ(Ptolemaida)で計画されている「Ptolemaida Battery Energy Storage System」です。本プロジェクトは、Eunice Energy Group傘下の Prolemaida Storage SMSAが提案主体となり、再生可能エネルギー導入が進む地域において、系統安定化と調整力提供を目的とした大規模BESSの導入を計画しています。石炭火力から再エネ中心へと移行する地域において、蓄電池を“次世代の基幹インフラ”として位置づける象徴的な案件です。

二つ目は、オランダで計画されている「Green Turtle」プロジェクトです。開発主体は GIGA Green Turtle B.V. で、ユーティリティ規模の蓄電池を用いて、系統の供給力適正(Adequacy)と周波数安定性を同時に高めることを目的としています。本案件は、補助サービス市場や将来的な容量メカニズムへの参加も想定されており、蓄電池が純粋な調整力資源として制度的に評価されることを前提に設計されている点が特徴です。

三つ目は、ポーランドで計画されている「HEP3」蓄電池プロジェクトです。事業主体は HEP3 sp. z o.o.で、400kV系統への接続条件をすでに取得している大規模BESS案件です。再エネ比率の上昇と系統混雑が課題となる中東欧地域において、送電網増強を補完・代替する柔軟性資源として、蓄電池を戦略的に活用する構想が示されています。

系統建設と一体的なストレージ展開

TYNDP 2026に示された49のストレージプロジェクトは、欧州がどのようなストレージ技術を、どの時間軸で、系統上のどの地域で必要としているのかを具体的に示しています。

ポンプ式揚水発電所が多くある一方で、大型蓄電池プロジェクトも戦略的意味を持ち、系統運用の高度化と市場設計の進化を支える重要な存在として明確に位置づけられています。

欧州では、再生可能エネルギーの大量導入が進む中で、送電線の増強、新規電源、ストレージ(揚水・蓄電池)を一体のシステムとして評価する考え方が、電力計画の中核に据えられています。その基盤が、このTYNDP(Ten-Year Network Development Plan)です。

TYNDPでは、送電線だけでなく、ポンプ式揚水や蓄電池といったストレージも「系統課題を解決するためのインフラ」として同じ土俵に載せ、費用便益分析(CBA)によって横並びに評価します。

つまり欧州では、「まず送電線ありき」「電源は市場任せ」といった分断的な発想ではなく、系統の弱点をどう補うかという観点から、送電・電源・ストレージを代替・補完関係として設計する仕組みが制度の中に組み込まれています。

日本における蓄電池投資の課題と展望

一方、日本においても、送電網の強化や揚水発電所・蓄電池などのストレージの活用を促す制度は、着実に導入されてきています。

送電計画については、電力広域的運営推進機関(OCCTO)が、全国レベルで広域系統整備計画を策定し、将来の電力需要や電源構成を踏まえたネットワーク増強の方向性を示しています。

また、蓄電池についても、需給調整市場や容量市場を通じて、調整力・供給力としての価値を市場的に評価する枠組みが整備されつつあります。系統用蓄電池への補助制度や、送配電事業者による実証導入も進み始めています。

一方で、日本の制度設計を見ると、送電網投資と蓄電池投資、揚水発電所投資、そして新規電源投資が必ずしも十分に一体的に事業性評価と計画がなされていない状況にあります。

日本の送電計画は、基本的に「需要想定と電源立地を前提に、必要な線を引く」という発想で作られています。これは、自由化以前に、中央集権的な電力システムを前提として、いわゆる旧一般電気事業者が行っていた手法を踏襲しています。

自由化以前の旧一般電気事業者では、長期需要想定はコーポレートの企画部門と小売部門がそれぞれ実施し、電源計画と系統計画がそれぞ策定され、それが送配電部門に展開され、送配電網の設備投資がなされるという流れでした。

しかし、コーポレート企画部門・小売部門・発電部門と送配電部門(パワーグリッド)が機能分離され、これらの業務は、パワーグリッド部門が担っている実態にあります。従来の知見を十全に引き継いでいないパワーグリッド部門が、こうしたマクロ的な視点に立った需要想定と系統計画を策定し、それをOCCTOが集約・評価し、投資を実行していくのはかなりチャレンジングです。

それに、パワーグリッド部門の本業は、送電網の管理ですから、蓄電池や揚水発電所の戦略的な活用よりも、送電線や変電所の増強にどうしても目が行きがちになります。これはインセンティブ構造やガバナンス設計で考慮が必要な点です。

足元、各地で蓄電所の申し込みが殺到し、蓄電池の導入をめぐって、混乱がみられます。自由化の下で、一体的な電力設備計画を実践しているEUの手法を参考にして、蓄電池と送電網の一体的で円滑な設備投資がなされるよう、制度を見直す時に来ているのかもしれません。