電力小売の新事業戦略【第3回】温対法報告ルールと新Scope2の整合性

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電力消費によるCO2排出量の算定ルール(GHG Scope2ガイダンス)が大きく変わろうとしています。㈱電力シェアリングは、8年間の環境省事業で蓄積した知見と、独自の特許技術、海外組織とのネットワークからの最新情報分析を駆使してアドバイザリーサービスを提供しています。

はじめに

前回の記事で、電力小売会社による炭素会計サービスの可能性についてご説明しました。ここで押さえておかなければいけないのが、需要家が対応する地球温暖化対策推進法(以下、温対法)に基づく排出量算定・報告制度です。

そこで、まず温対法における電力排出係数の考え方を整理した上で、今後想定されるGHGプロトコル Scope2改訂案との整合性確保の方向性について考えてみます。

温対法との整合性

温対法において、企業が電力使用に伴う排出量を算定する際に用いる排出係数には、大きく二つの区分があります。

一つは「基礎排出係数」、もう一つは「調整後排出係数」です。

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基礎排出係数は、電力会社の電源構成に基づく物理的な排出特性を反映したものであり、地域の電力供給構造を前提とした算定、すなわちGHGプロトコルScope2のロケーション基準に対応します。

これに対し、調整後排出係数は、基礎排出係数に対して非化石証書やJ-クレジット制度等による調整を加えたものであり、Scope2ではマーケット基準に対応します。

多くの企業は、調整後排出係数を用いて温対法報告を行っているようです。

ところで、調整後排出係数は、非化石証書やクレジットによって排出量をオフセットできるため、大口需要家が採用する電気料金メニューにおいて排出係数がゼロとなる場合も少なくありません。これにより、現在は、企業は比較的容易に電力由来排出量を削減した形で報告することが可能となっています。

しかし、GHGプロトコルScope2の改訂議論では、こうした単純なオフセットによる排出ゼロ評価に対し、より厳格な考え方が示されつつあります。

特に注目されているのが、時間単位での需給整合性、いわゆるアワリーマッチングの概念です。原案では、再生可能エネルギーの発電量と電力消費量を同一時間帯で対応させることが重視されており、この前提に立てば、証書やクレジットのみで排出係数を容易にゼロとすることは難しくなります。この点は別の場所で詳しくご説明します。

また、GHGプロトコルでは従来から、ロケーション基準とマーケット基準の双方による報告を原則として求めていますが、実務的にはどちらか一方のみを開示している企業も多く見られました。

しかし今回の改訂議論では、両基準を併せて報告することの重要性が改めて強調されており、この場合、基礎排出係数の位置付けが相対的に高まります。すなわち、地域や時間帯の電力供給構造を反映した排出評価が不可欠になるということです。

温対法の期間のずれ

ここで問題となるのが、温対法特有の「期間のずれ」です。

温対法における電気料金メニュー別排出係数は、原則として前年度の電力会社実績に基づいて算定され、翌年度以降の企業報告に適用されます。

場合によっては、二年前の実績に基づく係数が用いられることもあります。

この制度設計は、年次報告としての検証可能性を重視した結果ですが、当該年度の実際の電力消費行動とは必然的に乖離が生じます。

需要家は期間のずれに対応を迫られる可能性

もしGHGプロトコルScope2が、時間整合性を重視する方向で改訂された場合、こうした過去実績ベースの排出係数を用いた評価は、十分な説明力を持たなくなる可能性があります。

企業の立場から見れば、二年前の排出係数で現在の脱炭素努力を評価されることは合理的とは言えず、よりリアルタイムに近い排出係数の提示を求める動きが強まると考えられます。

電力小売会社の新たな役割

この点において、電力小売会社には新たな役割が生まれます。

それは、時間帯別・当該年度ベースの排出係数を算定・提供し、それを需要家の行動変容にフィードバックすることで、結果として料金メニュー全体の排出係数を引き下げていくという好循環を構築することです。

前回申し上げたように、これは電力調達原価の低減にもつながる話であり、制度対応と利益確保経を両立することも可能となるでしょう。

最後に

温対法自体は、当面、現行の年次・過去実績ベースの枠組みを維持する可能性があります。

しかし、GHGプロトコルの新基準を見据えるのであれば、電力小売会社は、時間帯別・当該年度の排出係数を前提としたサービス設計を進める必要があります。

アワリーマッチングを考慮した排出評価は、将来の標準となる可能性が高く、その準備をどこまで進められるかが、今後の競争力を左右すると言えるでしょう。