【論考】「トランプ政権、ESG組織から脱退」報道。ESG組織・人材はどこにいくのか?

· 電力脱炭素

66の国際機関からの脱退表明(2026年1月)

2026年1月、トランプ政権はホワイトハウス声明において、米国が気候変動や持続可能性に関わる国際的な枠組みから広範に離脱する方針を明らかにしました。

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対象には、UNFCCC(国連気候変動枠組条約)、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)、IRENA(国際再生可能エネルギー機関)、IUCN(国際自然保護連合)のほか、女性・ジェンダー平等、地球環境協力に関わる機関が含まれます。

発表によれば、脱退対象は31の国連機構と35の非国連機構、合計66団体に及び、いずれも気候変動対策、持続可能な開発、国際協調を軸とした活動を行ってきた組織です。

政権側は「米国の国益を最優先する」という立場からの判断と説明しており、国際的な気候・SDGs関連の政策形成における米国の関与は大きく後退することになります。

過去の経緯

今回の決定は、国際機関の環境・再エネ関連職員の間では予測されていて、既に2025年1月のトランプ大統領就任以来、段階的に兆候が現れていました。

まず2025年1月、米国はパリ協定からの再脱退手続きを開始しました。これは温室効果ガス削減に関する国際的な枠組みから距離を置く明確な意思表示でした。

続く2025年3月には、国連が掲げる持続可能な開発目標(SDGs)に対する米国政府としての公式支持を取り下げ、気候・社会課題を包括的に扱う国際フレームワークへの関与を弱めました。

さらに2025年7月には、米国政府が気候変動に関する科学的知見や政策報告を集約してきた公開管理サイトが閉鎖され、研究成果や評価結果の発信基盤が縮小しています。

加えて、日本の環境省に相当するEnvironmental Protection Agency(EPA)をはじめとする連邦機関では、環境・気候関連プログラムの統廃合や予算見直しが進み、人員配置にも影響が及んでいます。

このように「ESGクランチ(締め付け)」のムーブメントが高まりを見せています。

民間企業へも波及

実はこうした、「ESGクランチ」は、民間部門でも起きています。

報道によれば、アマゾン・ボーイング・ブラックロック・ウェストファーゴなど、これまで世界を主導してきた米国テック、金融各社がサステナビリティ関連チームを縮小しています。ユニリーバではサステナビリティ部門を他部門と統合し、ナイキでも人材削減が進んでいるということです。

少し古いデータとなりますが、2024年末にWall Street Journal が報じたところによれば、ESG関連職の新規採用は明確に減速しているとのことです。

特に Meta Platforms、Amazon、Google ではESG関連職の流出が目立ち、テック業界全体のコスト削減や組織再編の影響を受けたとの見立てです。

一方で高まるESG要求水準

一方で、GHGプロトコルに見られるように、気候変動に関するルールや規制はますます厳格化し、サステナビリティ開示は、財務的・法的要件になりつつあります。

  • 米国:SEC(証券取引委員会) は、気候リスクを投資家保護と結び付ける規則を確定。
  • 欧州:CSRD(企業サステナビリティ報告指令) と ESRS が、詳細で監査可能な報告を義務付け。
  • オーストラリア:AASB S2は、財務諸表と同水準の保証を伴う気候開示を要求。

これらはいずれも、ESG関連の職務を、「付加的要素」から、CFO・監査人・取締役会が責任を負う中核領域へ押し上げていることを意味します。

それでは、このESGの「主流化」と「退潮」、果たしてどちらのトレンドのほうが正しいのでしょうか?

経営中核部門との統合と昇華

筆者が取材した当該分野に精通した国際機関職員からは、こうした官民の「ESGクランチ」のムーブメントは、サステナビリティ部門が「専門部署の仕事」から「財務・監査の中核業務」へ移行していることの表れとの見解が示されています。

「サステナビリティは、財務、リスク管理、オペレーションに内包されていき、各部門の専門知識とESGの知見が融合して専門人材が生まれつつある」兆候を観察していると言います。

彼らの主張はこうです。

  • 「ESGブームは、「ESG担当」という肩書きそのものを職務定義とする人材を生み出した。しかしそのモデルはいま、見直され、特に若手層が就いていたエントリーレベルの「ESGオフィサー」「サステナビリティアナリスト」あるいは「気候変動専門官」といったポジションは希少になっている。
  • 一方で、「炭素会計に精通した財務アナリスト」「LCAを熟知したサプライチェーンマネージャー」や、「気候変動緩和・適応の理論を身に着けた、電力システム改革専門官」といった職位と人材が生まれている。

筆者も思い当たるところがあります。

実は筆者自身も10年前まである国際機関で上席気候変動専門官を務めていましたが、現在では同ポストは、「気候変動理論に精通した再エネ投資ストラクチャー専門官」に変更されているようです。

日本国内の動き

一方で、日本国内について言えば、日本企業の多くはESG・サステナビリティ責任をむしろ「維持・拡充」する方向で、統合報告書等での発信をしていて、欧米とは対照的な様相を呈しています。

例えば、三井住友フィナンシャルグループ(SMBCグループ)は「サステナビリティレポート 2025」で、人的資本経営や気候変動対応の進捗・目標、環境社会リスク管理の高度化を詳細に開示し、「人的資本への投資増を明示」しています。

また、日本道路グループや 日本たばこ産業(JTI)なども統合報告書・サステナビリティ報告書で、戦略・財務・非財務一体の説明を明示し、ESGを中長期戦略として位置付けています。

さらに、川崎重工業や三菱自動車工業なども最新のサステナビリティ報告書でESG管理体制やガバナンス構造・リスク管理プロセスを詳細に開示し、取締役会や戦略部門とESGを連動させるなど、むしろ役割の昇華の方向性が明示されています。

マクロ政策レベルでも、経済産業省は人的資本経営の推進を掲げ、企業が人的資本をESGの観点から経営に組み込むことを促進しています 。

KPMG Assetsレポートなどでは、こうした状況を、日本企業におけるESG機能の深化と分析しています。

例えば、ESG/サステナビリティ関連の役割や肩書名称は統廃合が進み、役職名の変更(例:サステナビリティ統括 → 経営戦略部門内担当)や、開示責任の財務/IR部門への移管が実施される傾向もみられ、ESGを単独部署として扱うのではなく、全社のマネジメントプロセスに組み入れていく報告・体制構築が主流化されていくとの予測がなされています。

電力分野でも、炭素会計関連の職種と電力事業職種には、今までは壁があって相互交流はあまりなかったように思えますが、今後は、好むと好まざるとにかかわらず、2つのエコシステムの融合が進み、総合的な人材と組織のキャパシティーが強化されていくものと予測します。