非化石証書とScope2改定【第5回】蓄電池再エネのタイムマシーン価値について(英国NESO報告書(2025年)から考える)

酒井直樹

· 電力脱炭素,非化石証書とScope2改定,質高再エネ,蓄電池,調整力

はじめに

非化石証書とScope2改定の第5回は、「蓄電池に昼間に充電された再エネ電力を夜間に放電するとΔkW価値だけではなく、ΔCO2価値が発生する」点について検討してみたいと思います。

蓄電池の持つタイムマシーン価値とは何か?

①需要の昼シフトによる需要家排出係数の削減

GHGプロトコルScope2改定で、マーケット基準では、GC-非化石証書(30分や60分単位の刻印=タイムスタンプがある非化石証書)の取引を通じて、再エネアワリーマッチングを促したり、あるいは、ロケーション基準では、グリッド毎の時間帯別排出係数を適用して、精緻に排出量を算定する目的は一体何でしょうか?

それは、再エネ電力比率の昼夜間格差の現状を踏まえて、電力を消費する方々に、タイムコンシャスになってもらって、「需要の供給への追従」すなわち

需要の昼タイムシフト

による再エネ電力需給の同時同量を促すことにあります。

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その結果、ロケーション基準では、需要家のある期間の平均排出係数、すなわち、

需要家排出係数

が下がるので、電力消費量の削減と併せて、定量的かつ戦略的にCO2排出量の削減を図る、PDCAを廻すことが可能となります。

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これを日本全体とマクロで俯瞰して44%の排出削減を実現するためのEBPMに当てはめると、

アウトカム指標が電力消費量の削減目標だけでなく、需要のタイムシフトによる需要家係数の削減目標も併せて設定し、戦略的・定量的に目標を達成する

ということになります。

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そのためには、①各種規制や、②プライシング(金銭的インセンティブ)に加えて、③削減目標(KPI)の可視化により需要家に自発的な行動変容を促すことが重要であります。

そこで、当社は2018年からの環境省委託事業で、この需要家係数を用いて行動インサイト(含むナッジ)の活用による目的的なCO2排出削減手法の有効性を8年間にわたり検証してきました。

詳しくは、環境省のプレスリリースをご覧ください。

②供給の夜シフトによる供給者排出回避係数の向上

ところが、実のところ、タイムシフトによりCO2を削減できるのは需要の昼シフトだけではありません。

再エネ発電を行う事業者に、再エネが希少でプレミアムがつく、あるいは「追加性の高い」夜の時間帯に発電してもらうように促す、すなわち

供給の夜タイムシフト

も重要となっています。

さて、これを促すにはどうしたらよいでしょうか?

読者の皆様は、

「そのような需給バランスはJEPXなどの電力約定単価に反映されるのだから、市場機能に任せておけば均衡する」

と思われる方もおられるかもしれません。

しかし、前回お示ししたNESO実証での取引実験でも明らかになったように、

「電力の需給(あるいはWTA/WTP)」と「生再エネ電力の需給(あるいはWTA/WTP)」

にはずれが発生するのです。

これは、当社がこれまで行ってきた環境省実証の中でも明らかになっています。

特に東京電力管内の夏にそのずれは顕著になる傾向がみられました。

それでは、「再エネ価値の時間帯によってかわるプレミアム価値(あるいは希少性・追加性)をどうすれば定量化すればよいのでしょうか?

実はそれは意外に簡単です。

「再エネ価値の時間プレミアム=当該グリッド・時間帯の平均(あるいは限界)排出係数」

で表されるということです。

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ただし、消費の時と違って、係数が高いほうがプレミアムが高いのです。

つまり、昼間のグリッド排出係数の低い時、例えば0.4kg-CO2/kWhの時に1kWh発電するのに比べて、夜間のグリッド排出係数の高い時、例えば0.6kg-CO2/kWhの時に1kWh発電ほうがプレミアムが大きくなります。

これを排出回避係数と呼び、その発電者の時間帯毎の発電量に排出回避係数をかけて、それを1年間などの期間で合計した排出回避総量を、これに対応する発電量で割れば、その発電者固有の

供給者排出回避係数

が算出されます。

これは裏を返せば、ある期間のCO2排出回避総量を因数分解すると、発電量と供給者(発電者)排出係数の積となります。

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従って、再エネ発電所のCO2排出量削減効果量は、発電量を増やすことはもちろん、夜タイムシフトによる供給者(発電者)排出回避係数を上げることでも達成できます。

EBPM的には、発電所のアウトカムとしてのKPIは、発電量と排出回避係数ということになります。

ですので、今話題のETSですが、発電所の排出権の設定にあたっては、この視点を盛り込むべきと当社は考えます。

さらに、この供給者排出係数は意外なところでも役に立ちます。それは、

トランジションファイナンスの定量効果分析

です。

途上国に、つなぎとしてLNG火力(CCSなし)を新規に建設すべきかどうかで議論が活発に交わされています。LNG火力を導入すれば、効率の悪い石炭火力を退役させることができます。

その効果は、

  (グリッド時間排出係数 ー LNG火力の排出係数) X LNG火力の時間発電量

の期間合計値で表されます。

例えば、排出係数が0.7でLNGの係数が0.3で100kWh発電したとすると、

 40 Δkg-CO2=(0.7-0.3)X100

となります。

一方で、同じグリッドで昼間中心の再エネ発電所の供給者回避係数が0.3だったとします。この再エネ発電による回避量は

 30 Δkg-CO2=(0.3-0.0)X100

なので、夜中心のLNG火力の方が、昼中心の再エネより、実はグリッド全体の排出量を削減する量が相対的に多かった、という結論が定量的に導かれます。

もちろん、この手法よりもよい手法、例えば限界排出量でみるなど、多々ご異論はあるとは思いますが、これも一つの有望な考え方だと当社は考えます。

話を蓄電池に戻します。

③蓄電池のタイムマシーン(ΔCO2)効果

では蓄電池のタイムマシーン(ΔCO2)効果とは何でしょうか?

例えば、グリッド排出係数が昼間0.3の時に発電した再エネを蓄電池に充電しておいて、夜間0.7の時に放電すると、1kWhあたり0.4kg-CO2だけ、供給者排出回避係数を押し上げることができます。

0.4kg-CO2=0.7-0.3

100kWhの充放電なら、30kgに加えて40kg、すなわち70kgの排出を回避できることになります。

賢明な読者の皆様ならお分かりの通り、タイムマシーンは再エネでなくても、上記のようにLNGなどの低炭素火力でも、あるいは単純にグリッド平均の電気でも発揮されます。

単純にグリッドの電気を昼間に100kWh充電して、夜放電した場合でも、排出回避量は40kWhということになります。

すなわち、供給者排出回避係数を用いて、蓄電池のタイムマシーン価値を可視化し、これを需要かに設定されるアワリーマッチング目標達成に向けて、GC非化石証書で取引すれば、二重の意味で定量的なKPIでインセンティブをもたらすことが可能となります。

NESOの英国での蓄電池のタイムマシーン効果実証

前出の2025年報告書では、NESOの蓄電池実証の結果が示されています。これは、当社が環境省事業で行った結果と同様のものです。

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(前提条件)

最後にNESO実証での前提条件を付記します。

まず、蓄電池はその容量を共有できるが、24時間365日稼働のCFE(継続的電力供給)のバランスを維持することを前提とします。この時、蓄電池は、生再エネ電力と火力の電気のどちらでも充放電可能とします。

ここでは、再エネ電力の充放電に対応して、GC非化石証書の帳簿が管理会計の手法を用いて管理されます。これは当社の国内実証で用いた手法と同じですし、また国際標準化を目指すEnergyTagの手法とも合致しています。

最後に

今後、こうした「GC-非化石証書」の検討が進むにつれ、こうした蓄電池取引シミュレーションが行われることになると思いますが、英国NESO報告書や当社の実施した実証結果を是非参考にしていただければ幸いです。

次の記事に続きます。

(参考リンク)

英国NESO(National Energy System Operator)報告書

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Implications of Trading of 24/7 Carbon Free Energy (CFE) on Electricity System Operation