【分析】経産省ネットワーク小委での非化石証書見直し議論とScope2改定議論の接合性 (1)第74回会合 25年6月3日
【分析】経産省ネットワーク小委での非化石証書見直し議論とScope2改定議論の接合性 (1)第74回会合 25年6月3日
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経済産業省所管の再生可能エネルギー大量導入・次世代電力ネットワーク小委員会(ネットワーク小委)では、25年6月3日の第74回会合から、25年12月26日の第78回会合にかけて、非化石証書の現状・課題と見直しの方向性について闊達な議論がなされました。短期での課題解決に向けた手当と、2030年以降の長期に向けた抜本的な改定の可能性についても俎上に上がりました。
一方でGHGプロトコルScope2についても25年11月にパブリックコンサルテーション向けの文書が開示され、2027年の改定に向けた議論が活発化しています。さらに、25年12月3日には、GHGプロトコルの下で設置されている AMI(Actions and Market Instruments)タスクフォースの第11回ミーティング が開催されました。AMIについては2028年に最終化の見通しで、Scope2のいわゆるインベントリー方式の見直しとセットで2030年に施行される見通しです。(解説記事はこちら)
国内電力システムの柱の一つである非化石証書制度の抜本的な改革と、GHGプロトコルの改定は相互に密接に関連するため、その整合性確保が極めて重要なテーマとなります。
そこで、本記事では、ネットワーク小委での議論の内容を振り返り、そのGHGプロトコルとの整合性について分析してみたいと思います。

第74回会合 25年6月3日
(注:当方でのYoutube配信からの書き起こしのため、正確なご発言内容はYoutube配信をご覧ください。)
事務局説明
今後の再エネ導入に当たっては、FIT制度から自立した形(FIP制度・非FIT/非FIP)での導入を想定している。また、既認定FIT電源についても、「将来的には全ての電源についてFIP移行が望ましい」という政策方針の下、FIP移行を促進するための事業環境整備を強力に推進しているところ。
こうした中で、再エネ発電事業者が長期安定的に事業を実施するためには、再エネ電源が有する再エネ価値が適切に評価されて取引されることが重要となる。
① 現在、成長志向型カーボンプライシングの制度整備を段階的に発展させているところであり、2026年度からは、より実効可能性を高めるため、排出量取引を法定化することとしている。カーボンプライシングは、相対的に再エネ電源のコスト競争力を高める効果があると評価できる。
② 非化石価値取引市場については、約定価格が上限値となっている回もあるが、これまでの多くの入札で、売入札量が買入札量を上回り、約定価格は下限値に張り付いている状況。相対契約の交渉に当たっては、こうした約定価格が実質的な「価格指標」として参照されているとの指摘もある。再エネ電源投資を促進していく観点から、適正な再エネ価値の価格形成のあり方について、どのように考えるか。
③ 省エネ法等に基づき、特定事業者等(原油換算で1,500kl/年以上のエネルギーを使用する事業者等)に非化石電気使用の目標と実績の定期報告(開示は任意)を求めている。こうした規律について、より実効的な仕組みとするには、どのような施策が必要か。
長山 浩章委員(京都大学大学院総合生存学館 教授)
- 再エネ由来のFIT非化石証書は追加性がなく、価格も低いので、グリーンウオッシュを助長するリスクもあるのではないか。
- 新しい局面に来ている中で、下限値をもう少し上げるとか、FIT証書の利用率制限を設けるとか、追加性のあるPPA由来の証書と抱き合わせにするなどのいろいろな方法があると思うのでご検討願いたい。
小野 透委員((一社)日本経済団体連合会 資源・エネルギー対策委員会 企画部会長代行)
- 需要家がFIT非化石証書を安価に調達できる状況では、FIPへの移行は 困難と考えらる。非化石証書のあり方について、今後議論を深めていく必要が あると考える。
→【当社分析】:
- AMIでは追加性についての主張がなされている。ドイツでは、いわゆるオフセット証書での再エネ電気料金メニューをグリーンウオッシュとして批判する環境団体の動きがある。
- Scope2では、FITはSSSに含められる可能性高く、FIPについてもSSSに含められるリスクがある。SSSの場合、証書保有者が脱炭素効果を主張できなくなる恐れがある。

(事務局資料)(参考)成長志向型カーボンプライシングの段階的発展
GX推進の観点からGX推進戦略に基づき20兆円規模の先行投資支援を行うと同時に、GX投資の促進が特に重要な多排出企業を対象に排出量取引制度を段階的に導入することとしている。
具体的には、
- 2023年度より、自主参加型の枠組みであるGXリーグにおいて、排出量取引制度を試行的に開始。
- 2026年度からは、より実効可能性を高めるため、排出量取引を法定化(全量無償で排出枠を交付)。
- 2033年度からは、カーボンニュートラルの実現に向けた鍵となる発電部門の脱炭素化の移行加速に向け、発電部門について段階的にオークションを導入。
大橋 弘委員(東京大学大学院経済学研究科 教授)
- カーボンプライシングに関しては、今度、排出量取引が始まるにあたって、CO2に関わる我が国の取り組みの コストが、排出量取引を通じて顕在化されるように、制度的集約を図っていくっていくことは重要だと考える。
- 省エネ法や 再ネ価値に関わる部分については、各制度の始まった由来はそれぞれ違っているとは思うが、その中には CO2低減にかかる取り組みが含まれている部分があると思う。
- そこの辺りを切り出して、カーボンプラスの方へ流していかないと、 そのインプリシット(暗示的)な価値として、あるいは暗示的な取り組みとして、本来わが国で事業者があるいは国民が担っ てるコストの負担が見えなくなっ てしまう、つまり過小に表現されてしまう ようなことになりかれないんじゃないかな と思っていて、ある意味で、あまり 日本経済全体で見ても、よくないのではないと思う。
- こうした制度間のすり合わせは、大変難儀するところだと思うが、非常に重要な論点だという風に思っている。
- 次世代太陽光に関しては、再ネも含めて普及をさせていくという中において大変重要だと思うが、我が国が海外展開を踏まえて、しっかり産業あるいは経済の成長を果たすというこの両輪をしっかり作って いくことが重要だという風に思っている。
- そういう意味で国内の普及に閉じ た議論っていうのは私はあまり望ましくないという風に思っているし、 ある意味で過去の轍を踏むようなことは あってはならないと思っている。
- 知財 も含めてそのしっかり海外展開できるよう なスキームが事業として備わっているのかっていう点も含めて、しっかり見ていただきながら、チャンネルも含めて、技術開発をどう いう風な方向で戦略的に取っていくのかと いうことは、しっかり踏まえて 進めていただければなという風に思う。
→【当社分析】
- カーボンプライシングについては、いわゆるキャップ&トレードと、炭素税(あるいは炭素固定価格負担)の比較優位性については議論の分かれるところ。
- 欧州での類似制度の現状と課題と、Scope2インベントリー方式及びAMIとの関係性についての議論を今後とも注視する必要がある。
高村 ゆかり委員(東京大学未来ビジョン研究センター 教授)
- 非化石証書については、需要家が再エネ発電を自ら導入をする、あるいはPPA等がある中で、非化石証書の取引の条件等について、 今一度それを促進をする政策について議論を是非できればと思う。
- その上で需要家のニーズは非常に高いという風に思う。日本経済新聞が1月8日のに社長100人 アンケートを公表しているが、石破政権に 期待をする施策のトップが、3割の社長が 再エネ拡大という風に答えている。
- 需要家の中でも最を引っ張ってきたのがRE100企業だと思っている。今、日本で93社、世界的447社、 グローバルバリューチェーンの再エネも 含めた方針を持っていると思う。
- RE100基準については、25年3月に一定のその要件の改定(証書償却の義務化等)があったが、需要家が主導するという意味でこのRE100の要件も 見ながら、非化石証書・非化石価値の 取引について、是非検討いただけれ ばと思う。
→【当社分析】:
RE
岩船 由美子委員【東京大学生産技術研究所 教授】
- 非化石証書については、GHGプロトコルスコープ2の基準に適合してCO2排出の削減に実際に使えるのかという点について一定の誤認も広がっているのではないかと思う。
- 非化石証書については、追加性の担保やトラッキング制度が必ずしも十分ではないが、小売電気事業者は、環境価値付きの実質カーボンフリーの電力として訴求されている状況も一定程度あるように思う。
- この非化石証書が1kWhあたり 0.6円や1.3円で入手可能な状況にある一方で、国の議論としては、発電 コスト検証委員会のようなものでは、例えば 石炭に関しては1kWhあたり5円の単素価格を想定されていて、GX実現の柱として一定程度高い炭素価格とするような制度設計が進んでいると思う。
- それに対して、1円前後で入手可能な非化石証書によってスコープ 2の削減を主張できるかのような状況というのはかなりこう不整合が残されていると思う。
- もちろんJクレジットなどとの制度的バランスの確保という面もあるのだとは思うが、全体的な炭素の価格制度の整合性を確保するよう、ルールをしっかり作っていただきたい。
- 追加性を担保しうる手段としてどういうものがいいのか、あるいは、証書の階層化が必要なのか、ま、その辺りの整理をお願いしたい。
- トラッキング や追加性の有無の開示などを義務化する など、需要家の誤認を防止しながら 本当にスコープ2削減に使用可能な証書の 条件というのを、GHGプロトコル などに準拠してしていく必要があるのではないかと思う。
- ここは脱炭素投資にもつながる部分なので、 非化石証書制度の早急な見直しというのが急務かと思う。
これに対して、事務局からは、「どのような見直しができるのかについて、有識者の意見をいただきながら関係部局と連携しながら具体的に進めていきたい」旨の回答がありました。
非化石証書とGHGプロトコルScope2新マーケット基準との接合性の確保は、大変重要なテーマですので、引き続き議論がなされることを期待致します。
次回に続く
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