GHG企業基準、第11回TWG(25年12月)で何が話し合われたか?

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2025年12月16日に、GHGプロトコル企業基準(Corporate Standard)改定に向けた11回目の専門作業部会(TWG)が開催されました。そこでの議論の内容を以下にご紹介します。

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1. 基準年の選択(Base year selection)

会合では、排出量の経年変化を追跡するための出発点となる「基準年」の選定基準について議論されました。現行の基準では「信頼できるデータがある最も古い時点」を選択することが推奨されていますが、実務上の多様性への対応が焦点となりました 。

特に、複数のスコープ(Scope 1, 2, 3)にわたって異なる基準年を設定することの是非が議論されました。

現状、Scope 3基準では詳細な指針がある一方で、企業基準においてはScope 1・2とScope 3の基準年を一致させるべきかどうかの明確な規定がありません 。

メンバーからは、パリ協定との整合性から「2015年」を許容される最も古い基準年として設定する案や、パンデミック(COVID-19)による排出量の異常な変動があった2020年や2021年を基準年として選ぶ際の調整方法について、追加のガイダンスを求める声が多く上がりました 。

また、目標を達成した後に基準年を再設定(リセット)する際の手続きについても、透明性を確保するための開示要件の追加が検討されています 。

2. 基準年の再計算方針と有意性の閾値

組織の構造変化(合併、買収、売却など)や算定手法の変更があった際、過去のデータを遡及して修正する「再計算」の方針と、そのトリガーとなる「有意性の閾値(Significance Threshold)」のあり方が深掘りされました 。

現行では閾値の決定は企業に委ねられており、「該当する場合」にのみ開示することとされていますが、一貫性を高めるためにこの文言を削除し、定量的・定性的な閾値の策定を義務化する方向性が示されました 。

多くのメンバーは、SBTiの目標設定で用いられている「5%」という数字を一つの目安として基準に明記し、企業間比較を容易にすることを支持しています 。また、個々の変更は閾値以下であっても、累積された変更が閾値を超えた場合に再計算を求める「累積的影響」の評価頻度(毎年、あるいは5年ごとなど)についても、具体的なルール作りが必要であるとの認識が共有されました 。

3. データ不足時の再計算オプション

買収した事業体や資産の過去の排出データが限られている、あるいは存在しない場合に、どのように基準年を再計算すべきかという実務上の難題が議論の柱となりました 。

特に、データが入手できないことを理由に「再計算は不可能である」と主張できる具体的な状況を明確化すべきだという提案がなされました 。これは、将来的に排出量報告の保証(Assurance)が義務化される可能性を見据え、作成者と保証提供者が「再計算の見送り」が妥当かどうかを客観的に判断できるようにするためです 。

具体的な解決策として、一次データがない場合に許容される推定方法(Proxyデータの活用など)の階層化や、算定手法の改善(例:金額ベースから物量ベースへの移行)があった場合の遡及適用の限界点について、詳細なガイダンスを策定することが提案されています 。

4. 経時的な排出量プロファイル

企業が長期的な排出トレンドをどのように開示すべきかという「エミッション・プロファイル」の概念が見直されました 。

議論のポイントは、再計算を「基準年のみ」に適用するのか、あるいは「基準年と報告年の間のすべての年度」に適用するのかという点です 。報告の一貫性を高めるためには、GHGステートメントに含まれる全年度分を再計算し、実績の変化と構造的な変化を明確に区別して表示すべきだという意見が優勢でした 。

具体的には、構造変化による増減と、測定方法の改善やエラー修正による数値を別々に報告し、大気中への実際の排出量変化を正しく伝える手法が検討されています 。さらに、絶対量だけでなく「排出原単位(Emissions Intensity)」を併記することで、企業の成長と脱炭素の進捗をより多角的に評価できるようにする指標の義務化についても議論が及びました 。