停滞する脱石炭火力―インドネシア・チレボン1号機、早期廃止計画を撤回

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東南アジアの脱炭素化を象徴するプロジェクトとして世界が注視していた、インドネシア・チレボン1号石炭火力発電所の「早期廃止計画」が大きな岐路に立たされています。

2025年12月、インドネシア政府が同計画の中止を検討していることが明らかになりました。

期待された「アジアの成功モデル」の変質

東南アジア諸国は、安価で豊富な石炭資源を背景に、長年石炭火力に依存してきました。しかし、2021年のCOP26以降、国際的な脱石炭圧力が高まる中、アジア開発銀行(ADB)主導の「エネルギー移行メカニズム(ETM)」や、G7諸国による「公正なエネルギー移行パートナーシップ(JETP)」が提唱されました。

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これらのスキームは、先進国の公的資金と民間投資を組み合わせ、老朽化した石炭火力を契約期間よりも前倒しで閉鎖させ、再生可能エネルギーへ転換させるという「トランジション・ファイナンス(移行金融)」として期待を集めました。その第一号案件に選ばれたのが、丸紅などが出資するチレボン1号機でした。

経済性と安定供給の「壁」

しかし、2025年末から2026年初頭にかけ、この計画は事実上の撤回という試練に直面しています。

「最新鋭」を止める不合理: インドネシアのアイルランガ経済調整相は2025年12月5日、チレボン1号機の早期廃止案をキャンセルする方針を表明しました。

理由は技術的な合理性です。2012年に稼働した同発電所は比較的新しく、超臨界圧(SC)という高効率な技術を採用しています。

「まだ十分に使える、効率の良い発電所を巨額の費用を投じて止めるよりも、より古く環境負荷の高い発電所を優先すべきだ」という実利的な判断に傾きました。

1.2兆円超の財政負担: 早期廃止に伴うPPA(売電契約)の違約金やローン返済、さらには代替となる再エネ設備と蓄電池の建設費用は、合計で約130兆ルピア(約1.2兆円)に上ると試算されています。この莫大なコストを誰が、どのように負担するのかという議論は、国際社会と現地政府の間で平行線を辿ったままです。

現実的なアプローチ「フェーズダウン」への回帰

この旗艦プロジェクトの挫折を回避するため、「早期廃止(フェーズアウト)」の困難さを認め、より現実的な道筋を模索する動きが強まっています。

具体的には、契約期間終了まで稼働させつつ徐々に発電比率を減らす「段階的削減(フェーズダウン)」や、アンモニア混焼等の技術で排出量を抑える「低炭素化」といった、漸進的なトランジションへの再評価が始まっています。

東南アジアにおける移行金融は、地球規模の脱炭素目標という「大義」と、現地の電力需要・経済自立という「現実」の間で、極めて難しいバランス調整を迫られています。