AIを用いた電力系統管理、中国が先行し欧米・日本が追走
AIを用いた電力系統管理、中国が先行し欧米・日本が追走
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中国国家エネルギー局(NEA)の発表や新華社通信等の報道によれば、中国の電力セクターでは現在、人間の判断を介さないAIによる自動給電・復旧システムが急速に実用化フェーズへと移行している模様です。
2025年後半、浙江省の国家電網嘉興給電会社において、AI仮想指令員「啓航(Qihang)」が本格的な運用を開始しました。
そこでは、従来の給電指令員が「電話、データの確認、マニュアルの照合」に費やしていたプロセスを、AIが統合的に処理します。具体的には、異常検知から音声通話による現場指示、作業票の自動生成までをワンストップで行います。
その結果、情報の検索時間を30%削減し、緊急時の意思決定効率を40%以上向上させ、人間の指令員は複雑な判断が必要なタスクに集中できるようになったと報じています。
一方で、広東省を拠点とする南方電網は、ハイテク都市・深圳において、中国初となる「110kV級 AI駆動型自律電力復旧システム」の試験に成功したとのことです。
そこでは、配電網に故障が発生した際、AIアルゴリズムが瞬時に最適なバイパス(迂回)ルートを算出。人間の手を一切借りずに17秒で電力を復旧させます。これは手動操作に比べ、約95%の時間短縮となったとしています。
特に深圳の「留仙洞(Liuxiandong)」のようなハイテク企業が集まるエリアでは、一瞬の停電が数億円規模の損失に繋がるため、こうした「秒単位の自己修復」が不可欠となっているということです。
ただし、日本でも配電網の停電時自動復旧は40年以上前から定着していて、日本の旧一般電気事業者は、中国国家電網に対して、長期間にわたり、丁寧な研修・訓練を提供してきています。このような知見の集積が、AIインフラ構築の背景にあることを忘れてはいけません。
追走する欧米
欧米でも同様の技術開発が進んでいます。

米国では、国立再生可能エネルギー研究所(NREL)を中心に、「生成AI」を用いたグリッド管理の研究が進んでいます。イーロン・マスク氏も指摘するように、AI時代における「電力不足」は安全保障上の課題となっており、マイクロソフトやGoogleも自社データセンター向けに独自のAI給電最適化技術を開発しています。
一方、欧州では、例えばドイツのE.ONなどは、AIを用いた「予測メンテナンス」により、停電発生率を30%削減する取り組みを行っています。
中国の「スピード感ある実装」に対し、欧米は「サイバーセキュリティとプライバシー」を重視した堅牢なシステム構築に注力いるのが特徴と言えるでしょう。
日本の現状と将来展望
日本の電力会社でも、AI活用は既に始まっていますが、中国のように「AIが直接、遮断器を操作して復旧させる」といった完全自動化とは異なるアプローチをとっています。
資源エネルギー庁の「次世代次世代送電網構築に向けた報告書」や各社の技術レポートによれば、現在の日本のAI活用は、例えば以下のようなものが挙げられます。
- 需要と供給の「超高精度予測」:再エネ(太陽光)の出力変動を気象データと連携させ、数分〜数時間先の需給バランスを予測。
- 設備診断の高度化:ドローン映像をAI解析し、送電線の腐食や樹木の接近を自動検知。
- 系統安定度評価: 万が一の事故時に、瞬時に系統が崩壊しないかシミュレーションを行う補助ツール。
「世界一の供給信頼度」がイノベーションの足かせに
日本において「一足飛びの改革(リープフロッグ)」が進まない最大の理由は、既存の「人の手による運用」の完成度があまりに高すぎることです。
日本の年間平均停電時間は、欧米諸国と比較しても驚異的な短さです。これは、系統運用部門と各発電所や、送配電網を管理する部門社員の長年の知識と経験の積み重ねと、絶妙な連係プレーによるところが大きいといえます。
しかし、「失敗が許されない」という圧倒的な実績が、ブラックボックス化のリスクを持つAIへの完全移行に対して、技術者心理としても制度としても強い抑制力として働いているかもしれません。
法律・技術・市場の制約条件
日本がAI導入を加速させるには、以下の3つの壁をクリアする必要があります。
法律(電気事業法)の制約:電気事業法では、保安の確保が第一義であり、事故時の責任所在が明確であることが求められます。AIの判断ミスによる広域停電が発生した場合の責任の所在(メーカーか、電力会社か、学習データ提供者か)が現行法では曖昧です。
技術の制約(N-1電制):日本は「N-1基準(送電線1回線が故障しても停電させない)」という極めて厳しい技術基準で運用されています。AIが効率を重視するあまり、このマージン(余裕分)を削るような最適化を行うことは、現在の技術基準では認められません。
市場の制約:需給調整市場などの自由化が進む中、公平な市場競争を確保しつつ、系統全体の安定をAIで「調整」することの公共性と公平性の担保が課題となっています。
今後の方向性:安全・セキュリティ・AIの共生
日本が今後目指すべき一つの形として、系統運用部門スタッフが長年培っていた「匠の技」をAIが学習し、安全を確保した上で効率を上げる「日本型インテリジェント・グリッド」があるかもしれません。例えば以下のようなものが考えられます。
「人間による最終承認」付きの自動化:AIが最適な復旧手順案を数秒で複数提示し、熟練の運用員がそれを承認・実行する「半自動(Human-in-the-loop)」モデルから段階的に移行。
情報セキュリティの強化:外部ネットワークから隔離された「クローズドなAI学習基盤」を構築。サイバー攻撃に対して物理的に遮断された状態でも、ローカルなAIが自律的に系統を安定させる「エッジAI」技術の導入。
デジタルツインの活用:現実の系統をサイバー空間に完全に再現し、AIに何億回もの「失敗(停電)」を経験させ、その中で確立された「絶対に安全なルール」のみを現実の系統に適用。
最後に
日本の電力システムは、再エネ導入拡大とレジリエンス(復旧力)を強化しながら、インフレ時代の中でいかにコストダウンを図るかという課題に直面しています。
圧倒的な供給信頼度の高さを誇る日本でも、こうした世界の動きを踏まえ、現状バイアスに陥ることなく、コストダウンと安定供給を実現するために、安全・セキュリティを確保しながら、給電を含めた電力システムの構築・管理において、一層のAIの活用が求められていると言えるでしょう。
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