【解説】米国洋上風力を揺るがす「停止命令」と法廷闘争の連鎖―オーステッド提訴を起点に広がる波紋

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日本経済新聞は1月3日、デンマークの洋上風力発電最大手であるオーステッドが2日、米国政府による洋上風力開発の一時停止命令を巡り、米連邦地裁に差し止めを求める申請を行ったと報じました。対象は米東部沖で進めている大規模洋上風力発電計画で、すでに工事が相当程度進展している段階での「即時停止命令」に対する異議申し立てです。

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注目すべきは、今回の動きがオーステッド単独のものではない点です。報道によれば、ノルウェーのエネルギー大手エクイノールや、米国内ではドミニオン・エナジーなど、複数の洋上風力事業者がすでに同様の停止命令を不服として提訴、あるいは法的措置の準備に入っています。洋上風力セクター全体として、米政府の政策転換に対する集団的な法廷対応に発展しつつある状況です。

こうした法的対立は、政治・経済面にも波及しています。ロイターは、停止命令によって数十億ドル規模の投資が宙に浮き、オーステッドの株価が急落するなど、金融市場にも影響が及んでいると伝えています。洋上風力は長期・大規模投資を前提とする産業であり、政策の予見可能性が損なわれれば、資本コストの上昇や投資判断の遅延につながりかねません。

米国政府側の論理の中核にあるのが、内務省傘下のBOEM(海洋エネルギー管理局)が12月に発表した「即時停止命令」です。BOEMはその理由として国家安全保障上の懸念を挙げていますが、詳細な根拠は機密扱いとされています。具体的には、洋上風力設備が軍事レーダーへの干渉や、監視・探知能力に影響を与える可能性があるとされていますが、第三者が検証可能なデータや評価結果は公表されていません。

この点について、複数の海外メディアが異なる切り口から問題提起を行っています。テクノロジー系メディアのGigazineは、分析内容を機密扱いとしたまま事業を停止する手法について、行政としての説明責任が果たされていないと批判的に報じています。また、地域メディアのCT Insiderは、業界側および州政府の反発に焦点を当て、雇用創出や地域のエネルギー供給計画に深刻な影響が出るとの懸念を紹介しています。

一方、ウォール・ストリート・ジャーナルは、より法務的な観点から、各社が求めている差し止めの法的根拠や、今後の訴訟スケジュール、連邦裁判所の判断が政策全体に与える影響を詳細に分析しています。ここでは、今回の争点が単なるエネルギー政策論争ではなく、行政権限の限界と司法のチェック機能を巡る問題であることが強調されています。

停止対象となっている主な洋上風力プロジェクト(報道ベース)

  • Revolution Wind(オーステッド/スカイボーン)
    米東部沖、建設進捗は8割超とされる大型案件
  • Empire Wind(エクイノール)
    ニューヨーク州向け案件、段階的建設中
  • Coastal Virginia Offshore Wind(ドミニオン・エナジー)
    バージニア州沖、米国内最大級の計画
  • Vineyard Wind 1
    マサチューセッツ州沖、商業運転直前段階
  • Sunrise Wind(オーステッド)
    ニューヨーク州向け、送電・基礎工事が進行中

こうした米国での動きは、日本にとっても決して対岸の火事ではありません。洋上風力は日本のエネルギー政策においても中核技術と位置付けられており、国家安全保障・環境アセスメント・政策の予見可能性といった論点は共通しています。米国で起きている法廷闘争と市場の動揺が、日本の制度設計や投資判断にどのような示唆を与えるのか。今後の司法判断と政策対応を注視する必要がありそうです。