Scope2改定:事業者のCO2排出量が大幅に削減される可能性?【わかりやすく解説】
Scope2改定:事業者のCO2排出量が大幅に削減される可能性?【わかりやすく解説】
実務担当者が押さえておくべきポイント
- 2027年改訂予定のGHGプロトコルScope2ガイダンスによりCO2排出量の算定が厳格化され、電力需要家・小売電気事業者・発電者に大きな影響が出る見込みです。
- いち早く対策を講じていただけるよう、当社は独自に最新情報を分析し、皆様にアドバイザリー・サービスを提供しています。
GHGプロトコルScope2改定について、電力消費に伴うCO2排出量算定の厳格化に向けた議論が進んでいます。
これまでは
CO2排出量=電力使用量 × 年間平均の排出係数
というシンプルな計算で済んでいましたが、厳格化されることになるかもしれません。
それは企業サステナ担当の業務量増大につながる懸念がある一方で、これまでCO2排出量の削減にお悩みになられていた皆様に、うれしい誤算も生まれるかもしれません。以下にご説明します。
時間排出係数の導入で、排出量が下がる?
一般に企業部門は家庭部門に比べると昼間中心に電力を消費するので、年間平均から時間平均に算定しなおすと、何もしなくても大幅に削減できるかしれないということです。
もちろん夜中心の事業者も多くいるので、その場合は増加となってしまいますのでぬか喜びは禁物です!

上のグラフは、東京電力管内のある月の各日の、送配電網全体の時間帯別CO2排出係数をざっくりと算定したグラフ(イメージ)です。
日中の時間帯はおひさまが照っているので、排出係数ゼロの太陽光発電がフル稼働し、送配電網全体の時間係数が下がる一方で、夜は火力中心なので時間係数が上がってしまいます。
(ただし、雨が降る日は、お昼も係数が下がらないのがお判りいただけると思います)
同じ電力消費量でも、夜使うと排出係数が高いので、CO2排出量が高まり、昼間だと低下します。
これまでは、昼も夜もなく、どんぶり勘定で年間一律の排出係数をかけていたのでわからなかったのですが、こうしてみると、電力消費を昼にタイムシフトすることで、電力消費は変えずにCO2排出量を下げられることが可視化されます。
ある需要場所の1日の排出量は、各時間帯(30分か60分)の電力消費量と送配電網排出係数を掛け合わせて、それを30分なら48コマ分(60分なら24コマ分)足し合わせることで求められます。数式で表すと次のようになります。
期間合計排出量 =
Σ (ある時間帯別の電力消費量 X その時間帯の送配電網排出係数 )
これが1年間の排出量となると、365 X 48コマ = 17,520行が必要で、 確かにデータ量は増えますが、とても単純な作法(かけて足す)なので、特段新しいソフトウエアなどなくても、エクセルで十分計算できますね。
もしルール化されれば、時間帯別排出係数を公的機関がデータを開示するでしょうから、自身の30分毎の電力消費量(A列)と、排出係数(B列)を並べて、掛け算をして、その値をC列に出力して、C列をΣ関数でするっと合計すれば排出量算定が完成します。
日中に多く使う需要家が有利に(過大算定の解消)
そうすると、当たり前ですが、同じ電力消費量でも、昼間に多く電力を消費する事業者と、夜間に消費する事業者では排出量が違ってきます。
言い換えれば、昼間に多く使う事業者は、従来方式(年間平均係数の使用)では、これまで排出量を過大に申告してきたことになります。
新ルールとなれば、特段なんの努力をせずとも、一気に排出量が下がるわけです。
ただし、逆も然りです。
夜間に多く使う事業者は、従来方式では過少申告となり、新ルールでは自動的に排出量が増えてしまいます。
夜に多く使う企業のサステナ担当にとっては、大きな脅威です。
まだ、このルールが導入されることが正式に決まったわけではないし、日本にどのように適用されるかも不透明で、正式に決まるのは早くて2027年、適用が開始されるのは2030年目途、適用されてももしかしたら経過措置で救済されるかもしれないという緩い状況なので、今から慌てることはありません。
むしろ、この局面では、まだ制度が定まっていないので、ステークホルダーがまとまって、各国や産業の意見を国際社会に向けて、日本の事情をアピールし、ルールを逆提案しいくことが求められます。
電力消費の昼シフトの手立てを考えるべき時
いずれにしても、「転ばぬ先の杖」とも言いますので、電力消費をなるべく昼にシフトする、あるいはオンサイトに蓄電池を設置して、日中に充電して夜間に放電するなどの削減施策を考えたほうがよいかもしれません。
電力システム改革と脱炭素改革との整合確保でWinWinを
実はこのあたりが、電力システム改革とGHGScope2大変革のリンクが必ずしも十分でないところなのです。
今、日本では蓄電池導入施策が進められていて、特に系統用蓄電池(マーチャント型)だけでなく、大口需要家構内への蓄電池の導入が促されています。
ところが、例えばコーポレートPPAや自社設置でオンサイトに太陽光発電を導入していても、最大電力を超えないようにする場合がほとんどなので、余剰分を安く売電するよりは、自家消費をして買電量を抑えるという、低圧FIT・卒FIT需要家の方程式が成り立たないので、事業者にインセンティブが十分に付与されません。
日本では、変動幅が大きい市場連動料金の導入や、卸売市場での上限の撤廃などに否定的な空気感があるので、海外(例えば米国テキサス州)に比して、電力量(kWh)の小さい値差だけでは、蓄電池の設置・運用コストをカバーできないので「アービトラージ」が働かないのです。
このことは、経産省の会議で岩船先生が指摘されていますが、もし、時間帯係数や再エネ需給のアワリーマッチングが導入されれば、制度設計次第では、CO2削減価値(ΔCO2)も具現化され、その両輪で、投資コストが回収される可能性があります。
政府関係者・有識者の皆様におかれましては、是非、電力システム改革と、いわば黒船といってもよいGHGプロトコル改革のリンケージを強化して、まさに3E+Sをロジカルに体現していく策をご検討ただけるよう切に願います。
当社も、そのソリューション検討に貢献させていただければと考えます。
各需要家の排出削減努力や効果をどう評価するか?
こうして、「時間帯別排出係数」導入の動きを見てまいりますと、みなさまは、次にこんな疑問を持たれるかもしれません。
「算定された排出量をどう評価すればよいのか?」
例えば、ある企業が別の需要場所に事業所があったとします。A支店とB支店です。
本社サステナ担当としては、全体で排出量削減計画(例えば、蓄電池を導入するなどして送配電網時間排出係数の低い昼間に電力消費をシフトする)を立てて、それを各事業者に展開するわけですが、排出量を単純に比較してもあまり意味がないからです。
A支店と、B支店では売上高も違うし、従業員数も違うなど単純比較はできません。英語の表現ではアップルとオレンジを比較する(Apple to Orange)ことに意味がないということになります。
㈱電力シェアリングの独自技術の「需要家係数」で比較する
当社の営業になってしまい恐縮ですが、そこで当社の特許技術が登場します。この技術は全体としては複雑系なのですが、さわりの部分としては、以下のようになります。
A支店とB支店のCO2排出の効率性や削減努力を定量評価します。つまりオレンジとオレンジを比較する(Orange to Orange)ツールです。
A支店、B支店のある期間合計(例えば1年間)の電力消費量(エクセルのA列の合計値)とCO2排出量(C列の合計値)はわかっていますよね。
そこで、CO2排出量を電力消費量で割れば、各支店に特有の「需要家排出係数」が算定されます。
図で示すと以下のようになります。

この図では、四角形の面積にあたるCO2排出量の期間合計値を、横軸の長さで表される電力消費量の期間合計値で割ると縦軸の高さで表される需要家排出係数が算出されます。
逆に言えば、
期間合計排出量 =
ある期間の合計電力消費量 X 需要家排出係数
となります。
排出量を因数分解すると、合計電力消費量と需要家排出係数になります。
この式は、ガソリン車の運転で例えると、エコドライブの指標となる燃費のようなものです。燃費は、走行距離(㎞)をガソリン消費量(ℓ)で割って求められます(㎞/ℓ)。
A支店の営業車とB支店の営業車のエコ度を、走行距離で比較しても、あるいはガソリン消費量で比較してもあまり意味はありません。業務量や地理的環境が違えば、「リンゴとミカンを比較する」ことになります。
でも燃費は違います。A支店とB支店のエコ貢献度を客観的に比べる指標となります(実は厳密には、車種とか道路環境で違ってきますが概ねそう言えます)。
電力消費によるCO2排出量の削減努力も同じです。もちろん、
- プランA:電気の無駄遣いをやめて、省エネ機器を導入して消費量自体の削減を図る(上の図では、横軸の長さを縮める。あるいは走行距離を減らす)
ことも重要ですが、同時に、
- プランB:電力消費を再エネ(特に太陽光発電)が潤沢にある昼間の時間にシフトして需要家排出係数を下げる(上の図では、縦軸の高さを縮める。あるいは燃費を向上する)
も併せて行い、来るべき新ルールに即して、ロジカルかつ定量的な削減を進めていただければと思います。
当社では「需要家排出係数」をKPIとしてCO2排出削減計画を立て、実行管理し、評価するPDCAを廻す実効性のある方策を、その知見と経験とともに多数取り揃えております。
国際標準組織のEnergy Tagからも日本初の先進的事例としてウエブサイト上でケーススタディをご掲載いただいています。
環境省実証事業での実績
なお、これに関しては、当社では、2018年度から2025年度まで8年間にわたり環境省から受託した事業で、「需要家排出係数」をKPIとして、CO2排出を実現するための行動変容手法を数々実証事業を繰り返してまいりました。
(環境省サイト:外部リンク)

2026年3月をもって環境省実証事業が満了し、2026年4月からは、社会実装フェーズとなります。8年間の実証で培ったノウハウと当社特許技術を用いたソリューションを、各企業の皆様に本格的に提供してまいります。
期間限定の格安でのアドバイザリーサービス・プランもありますので、どうぞお問い合わせください。
また、公的セクター・研究機関には無償でのアドバイザリー・サービスを提供させていただいています。
ご相談は随時受け付けております。ただし当社ポリシーによりお応えできない場合があることを予めご了承ください。
終わりに
最後は宣伝になってしまい、大変恐縮です。
企業・小売電気事業者の皆様におかれましては、実際の導入に際しては、現在の各種法規制との整合性を確保することが何よりも重要です。
その法規制も、GHGプロトコルの改定を受けて、今後見直される可能性があります。次回は、法規制との整合性について解説させていただきます。
