非化石証書とScope2改定【第6回】GHG Protocol Scope 2 TWG、12月会合で自家消費再エネの扱いを議論

酒井直樹

· 質高再エネ,非化石証書とScope2改定,電力脱炭素,自家消費,アワリーマッチング

GHG Protocolは2025年12月10日午後、Scope 2(購入電力等に伴う間接排出)の改訂に向けたTechnical Working Group(TWG)の最新会合を開催しました。

Scope 2は企業の電力調達戦略と開示の根幹をなす基準であり、2015年策定以降の大幅な更新を見据え、技術論点の詰めが進んでいます。

GHGプロトコルスコープ2TWGでの議論内容

オンサイト自家消費の取り扱い

今回の会合では、市場ベース手法の信頼性向上に加え、再エネ自家消費(Behind-the-Meter:BTM)の扱いが重要論点として取り上げられました。

具体的には、屋根置き太陽光やオンサイト発電、コージェネ等で自家消費された再エネをScope 2でどのように算定・開示するか、証書を伴わない場合の二重計上防止、余剰電力の系統送電時の帰属整理などが議論されました。

自家消費は実体的な排出削減効果が高い一方、時間帯・地点の整合性や会計処理の一貫性が課題であり、時間整合(temporal correlation)や地理的整合(deliverability)の考え方をどう適用するかが焦点となりました。

また、再エネ証書を用いない物理的な自家消費と、PPAや証書を併用するケースの報告ルールの切り分け、蓄電池併設時の充放電の帰属、余剰売電時のScope 2とScope 3の境界も整理対象とされました。これらは、年次100%達成の“見かけ”と実効的削減の乖離を是正する狙いがあります。

TWGで整理された自家消費類型

TWGで整理された自家消費類型は以下の通りです。

1. 系統連系型(逆潮流なし:Grid-connected BTM, no export)

この類型は、オンサイトで発電した電力を自施設で消費し、系統への売電は行わないケースです。電力フローは一方向であり、発電された電力は自家消費(Behind-the-Meter:BTM)に限定され、電力市場や他需要家には流れません。

例として、物流倉庫の敷地内に10〜20MW級の太陽光発電システムを設置し、発電電力を倉庫負荷に直接供給するモデルが挙げられます。Scope 2排出量の算定では、実際の発電と消費が一致するため物理トレーサビリティを確保しやすく、外部グリッドとの接続はあっても電力フローは完全に内向きです。余剰電力は売電せず、系統へのエクスポートは発生しません。

2. 系統連系型(逆潮流あり:Grid-connected BTM, with export)

このケースでは、電力が双方向に流れるグリッド連系型となります。敷地内の再生可能エネルギー発電の一部を系統へ売電し、残りを自家消費します。例えば、20MW規模のデータセンターに太陽光発電設備を設置し、日中のピーク時間帯に約5MWを系統へ売電するケースです。

Scope 2算定では、自家消費分と売電分の切り分けが重要となり、市場ベース手法と物理ベース手法の整合、売電に対応する証書の帰属、時間帯別マッチングの適用可否などが論点となります。純粋なBTMとは異なり、Scope 2排出量の調整が必要となります。

3. 系統連系+蓄電池

この類型は、グリッド連系、自家発電、蓄電池を統合したマイクログリッド構成です。平常時は系統と連系運転を行い、停電時には系統から切り離して孤立運転(アイランディング)が可能です。

大規模データセンターに10MW/40MWh規模の蓄電池と15MWの太陽光発電を導入し、系統遮断時でも一定時間の運転を継続するケースが想定されます。Scope 2算定では、系統電力と自家電力を時系列で明確に区分し、時間および場所のマッチングをどう評価するかが中心的な論点となります。

4. オフグリッド

オフグリッドは、系統からの電力の輸入も輸出も行わない完全な独立系統です。物理的に送配電網に接続せず、オンサイト発電のみに依存します。

例として、30MW級のガス発電機を備えたオフグリッド型データセンターがあり、すべての電力需要を自前の発電設備で賄います。この場合、Scope 2の概念自体が適用されず、排出はScope 1として整理される可能性があります。再エネ証書やPPAは利用できず、発電効率や燃料由来のCO2排出係数の把握が中心となります。

5. オフグリッド・ハイブリッドマイクログリッド

この類型は、オフグリッド環境下で太陽光、ガス発電、蓄電池を組み合わせたハイブリッドシステムです。系統とは接続せず、輸入も輸出も行いません。

例えば、15MWの太陽光発電、20MW級のガス発電、30MWhの蓄電池を備えたオフグリッド型データセンターが想定されます。物理トレーサビリティは明確ですが、需要ピーク時の燃料使用割合や余剰電力の処理がScope 1排出量に大きく影響します。ガス発電機の負荷追従性能や部分負荷効率、CO2排出係数が評価の鍵となります。

6. オフグリッド+必要に応じた逆潮流

この類型は、オフグリッド設備として太陽光、ガス発電、蓄電池を備えながら、必要に応じて系統へ売電も行う最も複雑なケースです。

例えば、15MWの太陽光発電と40MWhの蓄電池を備え、昼間の余剰電力を約5MW程度系統へエクスポートする構成が考えられます。Scope 2算定では、オフグリッド運用と系統売電の電力フローを厳密に分離し、時間および地理的マッチングを踏まえた市場ベース調整を行う必要があります。電力計測の精度や証書管理、余剰電力の帰属ルールが重要な検討対象となります。

TWGでの議論の内容

本セッションでは、上記の自家発電・消費(ビハインド・ザ・メーター(BTM)発電)の類型に即して、企業の電力需要のうち、どの部分が系統由来のEAC(エネルギー属性証書)とマッチング可能なのかが議論されました。

議論の中心となったのは、系統に接続されているBTM発電について、系統へ電力を輸出している場合と、オンサイトでのみ消費している場合とで、異なる取り扱いを設けるべきかどうかという点です。

施設が一度でも系統に接続されていれば、その施設は系統の一部であり、発電電力が系統へ輸出されたのか、オンサイトで消費されたのかを明確に区別すること自体が難しいのではないか、という問題意識が共有されました。

特に、複数のテナントが入居し、かつ複数のBTM技術が併存するような施設では、電力フローの切り分けは必ずしも明確ではないと指摘されました。

一方で、オンサイト発電が個別にメータリングされているかどうかによって、取り扱いを判断すべきであるとの考えも示されました。また、オンサイト発電所から電力を購入する契約を結んでいる企業が、その事実によって系統由来のEACを利用できなくなるのかどうかは、MBMの実務設計において極めて重要な論点であるとの認識が示され、この点を慎重に検討すべきだという意見が支持を集めました。

さらに、系統接続されたBTM発電は、多くのロケーションベース排出係数算定手法において既に考慮されている点が指摘されました。

需要家は自らの負荷にどの電源が供給されているかを選択できない以上、系統接続されたBTM発電についてEACの使用を排除することは、提案の考え方と整合しないという見解も示されました。

この場合、BTM発電由来のEACを販売し、かつ系統に接続されている企業は、残余ミックス排出係数を使用することが求められる、という整理になります。この解釈は現行ガイダンスで最も一般的とされつつも、依然としてグレーゾーンであり、明確化が必要であるという認識が共有されました。

あわせて、現行のScope 2ガイダンス表6.1の解釈として、専用線を通じて購入された電力は、系統由来のEACとマッチングできないという見方も示され、一定の支持を得ました

これに関連して、「専用線による供給」とは何を指すのかについても議論が行われました。

専用線とは、フロント・オブ・ザ・メーターの発電プロジェクトが施設に対して一本の送電線のみを有するケースを指し、日常的に系統と電力をやり取りしているBTM資産は含まれないとする解釈が示されました。

一方で、専用線とは系統に接続されておらず、電力の混合が一切生じない状態を指すとする考えや、負荷に供給されるあらゆる電力量を専用線と捉えるべきだとする異なる解釈も提示され、見解は一致していません。

こうした議論を踏まえ、発電が専用線またはBTMであり、かつ系統へ電力を輸出していない場合には、報告企業は系統供給EACを用いて当該排出量をカバーすべきではないという立場も支持を集めました。また、マーケットベース方式を「合理的に供給可能であること(plausible deliverability)」という概念を中心に再構成するのであれば、常識的な判断を適用すべきではないかとの問題提起もなされました。

その際、ロケーションベース方式において超ローカルな排出係数を用いることで、より高い透明性を確保できる可能性がある点も指摘されました。

さらに、現行ガイダンスではBTM発電由来のEACの販売が可能であるものの、より保守的に販売可能範囲を限定することで、グリーンウォッシングを回避し、企業が長期的に化石燃料に依存する責任を明確にできるとの意見が示されました。

これに対し、BTM由来EACの販売を認め続けると、排出量の組み替えが生じ、結果としてBTMのガス火力発電所について誰も責任を負わなくなるとの懸念も表明されました。最終的には、GHG Protocolとして、ガス火力発電所の建設による影響を緩和するインセンティブを付与する条件を追加できるのかどうか、という根本的な問題提起へと議論が及びました。

日本の現状に当てはめてみると

日本の現行制度に当てはめて考えると、オンサイト自家発電は地球温暖化対策推進法の枠組みで自家消費として整理され、削減効果に応じてJクレジットが創出される仕組みとなっています。

一方、系統を介して供給される電力については、エネルギー供給構造高度化法に基づく非化石価値取引や、非化石証書の活用が前提となり、制度的に異なるレイヤーで扱われています。

現状では、自家消費と系統電力が明確に分断された制度設計となっており、オンサイト発電が系統と接続されるケースにおける排出削減価値の帰属や、証書との関係性については整理が十分とは言えません。

今後は、BTM発電やマイクログリッドの普及を見据え、温対法、Jクレジット制度、非化石価値取引の接続性や整合性を検討する必要性が出てくるかもしれません。

AMIの進捗状況

会合ではさらに、Actions & Market Instruments(AMI)の進捗も共有され、再エネ調達の行動的インパクトをどう補足指標として扱うかが検討されました。最終ガイダンスは段階的に公開・意見募集を経て、2027年頃の確定が見込まれています。

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TWGでの議論内容

本セッションではまず、AMI事務局のリードを務めるRalf Pfitzner氏が自己紹介を行いました。

続いて事務局から、AMI標準の策定計画(AMI Standard Development Plan)の全体像が説明され、現在の進捗は計画どおりであることが確認されました。

あわせて、AMIフェーズ1ホワイトペーパーおよびISB(Independent Standards Board)によるレビューのスケジュールが示され、最新版のホワイトペーパーは先週時点でISBに提出済みであることが説明されました。

また、Scope 2のロケーションベース方式およびマーケットベース方式の更新は、AMI TWGの所掌範囲には含まれないことが改めて明確にされました。

事務局からは、今後の検討課題として、ホワイトペーパーのバージョン3で更新される可能性のあるオープントピックが提示されました。その中で、電力セクターにおける結果帰結的影響、すなわちコンセクエンシャルな影響については、AMI TWGが取り扱うことが明示されました。

誘発排出:Induced emissionsと回避排出:Avoided emissions

続いて、行動のGHG影響(GHG impacts of actions)ステートメントにおいて、誘発排出(induced emissions)と回避排出(avoided emissions)の双方を含めるべきかどうか、特に電力セクターへの影響を含めるべきかについて議論が行われました。

行動によって自社のScope 1排出量を削減するために発電を抑制することが、結果として系統全体の排出量を増加させるという逆インセンティブを生み得るとの懸念が示されました。

また、企業の行動によって新たなガス火力発電所が建設された場合、その発電所からの排出量を当該企業が報告すべきかどうか、報告する場合にはどのステートメントに含めるべきかという問いが提起されました。

さらに、誘発排出を示す指標に対する需要は非常に大きいとの認識が示され、蓄電池に関するシステムレベルの排出量を、誘発排出を定量化せずに評価することは困難であるとの指摘もなされました。

パブリックコンサルテーション期間中に収集された、誘発排出と回避排出の双方を含めることを支持する意見が、事務局によって考慮されるのかどうかについても質問が出されました。一方で、ISBからのフィードバックの解釈としては、誘発排出を含めることへの支持は得られていないとの見解も示されました。

科学的整合性を維持するためには、企業の行動によって新たに排出が生じる場合、その排出は少なくともいずれかの報告ステートメントにおいて計上されるべきである、との意見も強調されました。

これに対し事務局は、誘発排出をどのように、またどこまで定量化するかは極めて重要な論点であり、AMIワーキンググループにおいてさらに詳細に検討すべきであると述べました。あわせて、行動のGHG影響ステートメントにおいて報告され得る誘発排出は、企業の物理的インベントリ、例えば購入した財・サービスに関する排出量にも含まれる可能性が高いことが指摘されました。

特に、エネルギー貯蔵に関連する誘発排出については、電力セクター特有の論点であり、追加的な議論が必要であるとされました。

さらに事務局からは、誘発排出に関するISBからのフィードバックについて説明が行われました。ISBは、現時点では誘発排出を評価し、コンサルテーションで問いを立てることは適切ではないと判断したものの、将来的にさらなる検討を行う余地はあるとの見解を示していることが共有されました。

また、ISBからは、セクター横断的に適用可能なフレームワークを構築すべきであるとの勧告があり、誘発排出の会計および報告のあり方については、今後AMI TWGで引き続き検討されることが確認されました。

回避排出を文脈とした目標設定についても議論が行われ、コンセクエンシャル会計に関する適切な前提や説明が与えられなければ、企業がこれらの指標を物理的インベントリや契約ベースの排出量と誤って比較し、帰属型会計と結果帰結型会計を混同する恐れがあるとの指摘がなされました。

企業への管理強化の可能性

最後に、企業が行動の影響ステートメントを活用するための実効的なツールは何かという点について議論が行われました。

既存のプロジェクトプロトコルは存在するものの、実務で広く使われていない現状を踏まえ、企業向けに追加的な構造やインセンティブを設ける必要性が示されました。

排出削減プロジェクトへの予算配分を正当化するためには、目標の存在が不可欠であるとの認識も共有されました。これに対し事務局は、目標設定機関との密接な連携を行っていることを説明し、目標フレームワークの策定はそれらの機関の所掌事項であると補足しました。

事務局からはあわせて、AMIフェーズ1ホワイトペーパーに含まれる内容として、目的と目標、主要用語と定義、報告原則、報告構造、ならびに各ステートメントごとの会計および報告仕様が整理されました。さらに、ホワイトペーパーのバージョン1.1と2.0の主な違いとして、ステートメントの数が5から4に変更された点が、重要な改訂点として説明されました。

今後の進め方

事務局からは、パブリック・コンサルテーション期間の締切が延長されたことを受け、2026年のTWGミーティングスケジュールに変更が生じるとの説明がありました。

具体的には、当初予定されていた1月29日および2月12日のミーティングはキャンセルされることが示されました。

あわせて、2026年のミーティング頻度については、これまでの2週間に1回という高頻度の開催から、より間隔を空けた開催形式へ移行する可能性が高いことが共有されました。その中には、3日間程度の対面ワークショップの開催も含まれており、実施される場合には第2四半期中にワシントンDCにあるWRIオフィスでの開催が想定されています。

次回のTWGミーティングについては、3月12日を予定しています。

出典

GHG Protocol:Scope 2 TWG 進捗アップデート
https://ghgprotocol.org/blog/scope-2-technical-working-group-progress-update