質の高い再エネ:Scope 供給可能性 【第3回】欧州・米国での議論

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供給可能性(Deliverability)は、Scope 2改定において同時同量(Temporal correlation)と並ぶ中核論点として位置づけられています。

時間の整合性が「いつ」を縛る概念であるのに対し、供給可能性は、再生可能電力の属性が電気的・制度的に需要地点へ「どこまで届け得るか」を問うものです。これは証書の帳簿上の紐づけにとどまらず、電力市場や系統の実態を排出係数算定にどう反映させるかという問題に直結します。

米国での議論

米国では、この供給可能性を実務に落とし込む際の出発点として、Energy Attribute Tracking System(EATS)と呼ばれる再エネ属性追跡制度が重要な役割を果たしています。NEPOOL-GIS、NYGATS、PJM-GATS、M-RETS、WREGISなど、地域ごとに異なるトラッキング制度が存在し、それぞれが発電属性の発行・移転・償却を管理しています。米国環境保護庁(EPA)も公式整理の中で、どの追跡制度がどの地理範囲をカバーしているかが、再エネ属性主張の前提条件であることを明確にしています。したがって、米国におけるDeliverabilityは、まず「どのトラッキング制度の境界内で発行された属性か」という点から議論が始まります。

近年、米国では時間別マッチングへの関心が高まっており、RECトラッキング制度自体も時間粒度の高度化に向けた検討を進めています。これはDeliverabilityを直接定義するものではありませんが、時間別データを扱うためには、発電地点と需要地点の関係をより厳密に把握する必要があり、結果として市場境界や系統制約への意識を高める効果を持っています。専門メディアや制度関係者の整理でも、時間別RECの実装は、単なるデータ拡張ではなく、市場設計や運用ルールの再整理を伴う課題であると指摘されています。

こうした状況の中で、GHG ProtocolのScope 2パブリック・コンサルテーションでは、Deliverabilityが単独の義務要件としてではなく、マーケットベース手法(MBM)で用いる契約・証書の「品質基準」を構成する要素として整理されました。改定案では、deliverable market boundaryの内側にある発電から得られる属性をデフォルトとしつつ、境界の外側からの主張も一律に否定せず、追加的な実証を伴えば認め得る構造が示されています。その実証手段として、隣接市場間の価格差や市場シグナルを用いる可能性が示唆されている点が特徴です。

米国の文脈に当てはめると、Deliverabilityの境界は国境ではなく、①RECトラッキング制度の地理的範囲、②ISO/RTOや卸電力市場の実務上の境界、③州制度をまたぐ取引の扱い、という複数のレイヤーが重なって形成されることになります。ある属性が同一トラッキング制度内であれば原則として供給可能と見なされる一方、制度や市場をまたぐ場合には、混雑や連系制約が価格差として顕在化していないか、といった補助的な指標が重要になると考えられます。

欧州での議論

欧州の最近の動きは示唆に富んでいます。2025年4月28日、欧州送電系統運用者ネットワーク(ENTSO-E)は、電力市場の入札ゾーン(Bidding Zone)見直しに関するスタディを公表しました。同日および翌29日には、ドイツとルクセンブルクが共有している単一価格ゾーンについて、再生可能エネルギーの地域偏在と南北間の系統混雑を背景に、複数ゾーンへの分割を検討すべきだとの内容が報じられました。これは、国境と市場境界が必ずしも一致しないことを前提に、価格ゾーンという形で「実態に即した市場境界」を再定義しようとする議論です。

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この欧州の動きがScope 2ガイダンスに直接反映されるわけではありませんが、GHG ProtocolがDeliverabilityを巡って「同一国」「同一市場」「同一電気的グリッド」といった複数の境界概念を並列に検討している背景を理解する上で、極めて象徴的な事例と言えます。市場境界は固定的なものではなく、系統制約や価格形成の実態に応じて見直され得るという認識が、欧州ではすでに制度議論として顕在化しているためです。

総じて見ると、米国におけるDeliverabilityの実装は、既存のRECトラッキング制度を基礎にしつつ、時間粒度の高度化や市場・系統制約をどう補完的に評価するかが焦点になります。そして、欧州で進む市場境界再編の議論は、Deliverabilityを「国境」ではなく「市場やグリッドの実態」に基づいて捉えるというScope 2改定の方向性を、間接的に裏づける材料として位置づけることができます。