サステナ講座【第2回】従業員の行動変容で排出量を削減する~電力消費の昼タイムシフト【環境省実証】
サステナ講座【第2回】従業員の行動変容で排出量を削減する~電力消費の昼タイムシフト【環境省実証】
はじめに
GHGプロトコル・スコープ2改定(ロケーション基準:LBM)に向けて、TWG(テクニカル・ワーキング・グループ)では、再エネの昼夜間格差を前提にCO2排出排出係数を時間帯別に管理する手法を導入する方向で検討が進められています。
サステナ担当としては、排出量の計算が複雑化するのは頭の痛いところですが、一方で、新しい方法で排出削減を図る好機でもあります。
時間ごとに排出係数が違うのなら、係数が低い昼間の時間帯に電力消費をタイムシフト(需要の昼シフト)できれば、消費量は変えずに排出を減らすことができるのです。
そこで、当社受託の環境省事業で有効性が実証された「行動変容で昼シフトを促す」方法をご紹介させていただきます。
環境省ナッジ実証事業の成果
この実証の結果は、環境省のウエブサイトで公表されていますので、詳しくはこちらをご覧ください。
簡単にご説明すると以下のようになります。

環境省ナッジ事業の結果について ~電力消費昼シフト実証(上げ・下げDRによるピークカット・ピークシフト及びCO2削減)
環境省では、2050年カーボンニュートラル及び2030年度削減目標の実現に向け、脱炭素につながる新しい豊かな暮らしを創る国民運動、「デコ活」を推進しています。
また、環境省では、2017年4月よりナッジ(英語nudge:そっと後押しする)やブースト(英語boost:ぐっと後押しする)を始めとする行動科学の知見を活用してライフスタイルの自発的な変革を創出する新たな政策手法を検証するとともに、産学政官民連携・関係府省等連携のオールジャパンの体制による日本版ナッジ・ユニットBEST(Behavioral Sciences Team)の事務局を務めています。
この度、「デコ活」の一環の取組として実施している「ナッジ×デジタルによる脱炭素型ライフスタイル転換促進事業」で採択された事業者のうち、株式会社サイバー創研及び株式会社電力シェアリングが令和5年度に実施した、(1)上げ・下げDR(デマンドレスポンス)を通じて家庭の電力消費を再生可能エネルギーの比率の高い、晴れた昼間の時間帯へシフト(「昼シフト」)してCO2排出削減を実現することや(2)街中の充電スポットにおける電気自動車(EV)の充電を再生可能エネルギーの比率の高い、晴れた昼間の時間帯へシフト(「昼充電」)することに関する予備的な実証実験の結果についてお知らせします。
■ 詳細
(1)については、節電や昼シフトに関する意識が統計的有意に高まることが実証されました。(2)については、再生可能エネルギーの有効利用とCO2排出削減に資する昼充電の意義を伝え、昼充電の実施に応じた少額の金銭的インセンティブを付与することで、昼シフト・上げDRの効果としての「昼充電実施者の増加率」が統計的有意に高まることが実証されました。
今後は、上記の結果を踏まえて、実施期間や規模、介入内容を見直し、地域毎の再生可能エネルギーの有効活用とCO2排出削減の実現に向けて、エネルギー事業者、EVのユーザー団体や充電サービスに関わる事業者、昼充電に係る団体、複数の地方公共団体等との連携により、令和6年度において社会実装時のビジネスモデルを念頭に更なる実証実験を実施する予定です。
(1)上げ下げDRを通じた家庭の電力消費の昼シフトとCO2排出削減の促進
■ 予備実証実施期間
令和5年11月から12月(1ヶ月間)
■ 実証実験参加世帯及び介入内容
調査会社のモニタ1,200人を無作為に以下の3つのグループのいずれかに割り当てました。
- 比較対象としてナッジを提供せず、電力消費量のデータの提供を求めるグループ(対照群)
- 対照群の内容に加え、スマートフォンのアプリを通じて、過去1年分の電力消費量のデータ等に基づく日々の予測電力消費量(基準値)を示して省エネを依頼するとともに、日々の環境配慮行動(脱炭素アクション)を記録してその実施数やモニタ毎の期間平均炭素強度(CO2排出係数:g-CO2/kWh)に基づいたスコアやランキングを表示するグループ(介入群1)
- 介入群1の内容に加え、日々の予測電力消費量を下回る電力消費量である場合や環境配慮行動のランキングが上位である場合に金銭価値のある少額のポイントを付与するグループ(介入群2)
■ 結果
まず、意識面において、「いつもより節電した」や「いつもは夜に使用している電力を昼間に使うようにした」という質問に対してそれぞれ「おおいに当てはまる」や「ある程度当てはまる」と回答した割合が、いずれの介入群においても対照群と比較して統計的有意に高いことが実証されました(図1・図2)。介入群の間においては、統計的有意差は検出されませんでした。
次に、行動面において、実証実験実施期間中の電力消費量と前年同時期の電力消費量との比較(差の差の検定)により、いずれの介入群においても対照群と比較して昼間の電力使用量率(一日の電力使用量に占める昼間の電力使用量の割合)が増加する傾向が見られましたが、統計的有意差は検出されませんでした。
図1.「いつもより節電した」への回答
図2.「いつもは夜に使用している電力を昼間に使うようにした」への回答
終わりに
強制や義務ではなく、多額な費用をかけずに排出削減を実現するために、従業員の自発的な行動変容を促す施策が注目されるようになっています。
企業としても、環境経営の実践策として従業員の啓発活動になりますし、その取り組みを社会に積極的に発信することで企業価値の向上にもつながります。
当社では、2018年から8年間にわたるこの環境省実証事業で、費用対効果の高い行動変容施策を開発して社会実証を繰り返し行ってまいりました。環境省実証事業が完了する2026年度から、本格的にソリューションを提供する事業を開始いたします。是非お問い合わせください。