インドではアワリーマッチング率70%が最適?英国TransitionZeroがシミュレーション
インドではアワリーマッチング率70%が最適?英国TransitionZeroがシミュレーション
はじめに
英国に拠点を置くスタートアップTransitionZero社 がインドでアワリーマッチング率に関するモデリング・シミュレーションを実施し、その結果を公表しているので、その内容を分析してみます。
同社は、エネルギー転換の意思決定を加速するための、オープンデータ・ソフトウェア・解析インサイト を用いたソリューションを提供しています。とりわけ、UN24/7の創成期からのメンバーとして、リアルタイム(時間単位)で再エネ供給と需要を一致させる「アワリーマッチング」の効果を定量化するシステムを先駆的に開発しています。
筆者も、2025年9月にニューヨークで開催されたUN24/7の年次総会のパネル討議でご一緒し、その後親交を深めさせtいただいています。
なぜインドでアワリーマッチングなのか?
インドは、世界で最も急速に電力需要が増加している国の一つです。
幸い、インドは、日本と異なり、「需要地近くに広大な砂漠を有する」というメガソーラーに最適な地理条件を有しています。
このため、同国のエネルギー経済安全保障の観点からも太陽光発電の一層の導入拡大が国是となっています。
インドでは、人口増加、都市化、製造業の拡大に加え、近年はデータセンターやAI関連需要の増大が顕著であり、電力需要は量的拡大だけでなく、時間的・チリ的なミスマッチが顕在化しています。
このような状況下では、年間ベースでの再生可能エネルギー導入量の議論のみでは、実際の排出削減効果や系統影響を適切に評価することが困難になります。
こうした問題意識を背景に、需要と再エネ電力供給を時間単位で一致させるアワリーマッチングのニーズが高まっています。
シミュレーション結果
TransitionZeroのインド分析では、時間別需要プロファイル、太陽光・風力の発電変動、火力発電の稼働制約、ならびに送電・蓄電といった系統要素を組み合わせた時間解像度の高い需給シミュレーションがなされています。
その結果、再エネ導入が進展した場合においても、特定の時間帯では依然として化石燃料由来電源が限界電源として稼働し続ける構造が明らかになりました。
特にインドでは、昼間の太陽光発電量の増加と、夕方から夜間にかけての需要ピークとの乖離が大きく、時間別分析の重要性が際立っています。
TransitionZeroの分析結果が示す重要な点は、年間ベースでの再エネ100%調達が、必ずしも時間別排出の削減を意味しないという事実です。
下図は、年間ベースでマッチングさせる既存手法とアワリーマッチング率(70%~100%を比較し、インド電力システム全体における費用対効果シミュレーションの結果です。

TransitionZero社サイトより引用
なお、ここでは、C&I需要家が負担する追加的な設備投資(CAPEX)と、系統全体で削減される運用コスト(OPEX)が明確に区別されている点にご留意ください。
アワリーマッチング率が高まるにつれて、需要家側のCAPEXは増加する一方、系統側では火力発電の燃料費削減などによりOPEX削減効果が拡大し、システム全体としての純コストは必ずしも線形に増加しない結果となっています。
アワリーマッチングと電源構成の相関
下図は、インドがNDCに整合的な電力システムへ移行する過程で、2023年から2030年にかけて電源構成がどのように変化するかを示しています。

TransitionZero社サイトより引用
石炭火力の比率が相対的に低下し、太陽光・風力が大幅に増加する一方で、依然として一定規模の火力電源が残存することが読み取れます。
この構成変化は、24/7 CFEの実現可能性を左右する重要な前提条件です。再エネ比率が高まるほど、時間帯ごとの供給過剰・不足が拡大し、蓄電池の活用やデマンドレスポンスの重要性が高まります。
特に夜間や再エネ出力が低下する時間帯において、蓄電池が限界電源を代替できるか否かが、時間別排出量を大きく左右します。これは、IEAが指摘する「電力システムの柔軟性不足が脱炭素の制約となる」という見解と整合的です。
終わりに
TransitionZeroによるインドでのアワリーマッチングの定量分析のモデリング手法は、同様の課題を抱える日本でも大いに参考になります。
是非、同社のレポートについて皆様もご一読いただければ幸いです。