【解説】世界で加速する電気料金高騰の構造的要因と各国の苦悩

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グローバル・トレンドと電気料金を押し上げる主要因

データセンターとAIによる電力需要の爆発的増大

デジタル化の進展により、世界の電力需要の構造が激変しています。特に生成AIの普及に伴うデータセンターの新設・拡張は、これまでの予測を遥かに上回るペースで電力を消費しています。データセンターは24時間365日、大量の電力を安定して必要とするため、既存の供給能力を圧迫し、結果として卸電力価格を押し上げる直接的な要因となっています。

再生可能エネルギー導入拡大に伴う系統投資のコスト転嫁

オーストラリアで特に深刻なのですが、再生可能エネルギーへのシフトに伴い、系統投資が増加していて、そのコストは、多くの国で、託送料金などの形で最終的な電気代に上乗せされています。再エネ自体の発電コストが下がっても、システム全体のコストが上昇するという統合コストの課題が表面化しています。

歴史的インフレによる設備維持と建設費の高騰

パンデミック以降のインフレは、人件費、原材料費の大幅な上昇を招きました。電力インフラは極めて資本集約的な産業であり、古い設備の維持管理費や、新規の脱炭素電源の建設コストが当初の計画を大幅に上回っています。これが各国の公共料金改定において、価格引き上げの強力な根拠となっています。

2035年目標に向けた炭素価格の影響

2035年までの温室効果ガス大幅削減という野心的な目標を掲げる国々では、炭素税や排出量取引制度によるコストが実質的に電力価格に内包されています。

化石燃料からの脱却を急ぐ中で、安価なベースロード電源が早期に引退し、需給バランスが不安定化することで価格のボラティリティが拡大していることも、高止まりの一因となっています。

各国・地域別の詳細動向

次に、世界各国の電力事情を詳しく見ていていきましょう。それぞれの国が抱える固有の課題と、共通の苦悩が見えてきます。

オーストラリアにおける再エネ転換の産みの苦しみ

オーストラリア政府統計局(ABS)の最新データが示す通り、2025年第3四半期までの1年間で電気料金は23.6パーセントという驚異的な上昇を記録しました。オーストラリアは世界でも有数の太陽光導入国ですが、その広大な国土ゆえに、再エネ電源と需要地を結ぶ送電網の整備コストが、消費者物価指数を押し上げる最大の要因となっています。2035年の目標達成を急ぐ中で、老朽化した石炭火力の閉鎖と新系統の整備が時間差を生み、供給不安が価格高騰に拍車をかけています。

米国におけるデータセンター需要と電力網の老朽化問題

一方、米国では、地域によって事情は異なりますが、全体として電気代は上昇傾向にあります。特にバージニア州などデータセンターが密集するエリアでは、需要増に対応するための設備投資が急務となっています。米国電力網の多くは建設から50年以上が経過しており、再エネ接続のための近代化には今後数十年で数兆ドルの投資が必要とされています。インフレによる資材高騰が直撃しており、連邦エネルギー規制委員会も、コスト配分に関する制度設計に苦慮しています。

(参考リンク:https://www.eia.gov/outlooks/steo/)

英国におけるガス依存からの脱却と市場改革の難しさ

英国は2030年までのクリーン電力化を掲げていますが、欧州の中でも電気料金が最も高い国の一つです。北海の風力発電を強力に推進しているものの、依然として卸電力価格が天然ガス価格に左右される市場構造が残っており、地政学リスクの影響を強く受けています。また、洋上風力の接続にかかる膨大なインフラ費用が賦課金として国民負担になっており、家計への圧迫が大きな政治問題化しています。

(参考リンク:https://www.ofgem.gov.uk/energy-price-cap)

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欧州連合におけるドイツとフランスの苦境

ドイツは脱原発と再エネ拡大を並行して進めていますが、安価なロシア産ガスを失った後、バックアップ電源の確保コストが増大しています。一方のフランスは、原子力発電の比率が高いものの、老朽化した原子炉のメンテナンス費用や、次世代原発の建設費高騰に直面しています。EU全体としては電力市場設計の改革により、再エネの低コストを直接消費者に還元する仕組みを模索していますが、送電網増強のコスト分担を巡る国家間の調整が続いています。

アジアにおける経済成長と脱炭素の両立への挑戦

東南アジアやインドでは、データセンター需要に加えて冷房需要の増大が著しく、電力インフラへの投資が追いついていません。

ベトナムやタイでは、外資誘致のために電気代を安く抑える政策をとってきましたが、燃料高騰とインフラ投資負担により、国営電力会社の財務が悪化しました。

その修正として、近年段階的な値上げを余儀なくされています。アジア圏においても、インフレによる輸入資材の高騰が、新規電源開発の足かせとなっています。

最後に

世界的なトレンドを見れば、2035年に向けて電気料金は下がる理由よりも、高止まり、あるいは上昇する構造的要因の方が勝っています。

私たちは安価なエネルギーを前提とした社会モデルを卒業し、付加価値の高いエネルギーを効率的に使いこなす社会への転換を急ぐ必要があるといえるでしょう。