【解説】再エネ出力制御回避:市場メカニズムによる混雑管理と送電権取引の可能性:ネットワーク小委員会での議論から

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本会合では、再生可能エネルギーの導入をさらに進めるための制度設計、電源の自立化、地域との共生といった多角的な論点について、政策方針や最新のデータに基づいて議論が行われました。

その中で、特に目を引いたのは、岡本浩オブザーバー(東京電力パワーグリッド株式会社 取締役副社長)の系統混雑による再エネ発電の出力回避を抑制するための、プライシング制度導入についてのご発言です。

ご発言の内容はおおむね以下のとおりです(筆者の解釈を含みますので正確なご発言を是非リンク先のYoutube配信でご覧ください)。

岡本浩オブザーバーのご発言趣旨 注:()は筆者加筆

東電管内でも2026年度からは、再エネ発電の出力制御の必要性が高まっている。

東電管内は揚水発電があることもあり、供給超過による出力制御は発生していないが、系統混雑による再エネ発電の出力制御が今後発生する見込みである。

現在のルールに従って、ノンファームから 入り、FIT・FIPを制御する方向で準備を進めている。今後は、時間帯や地域 ごとの混雑状況に応じて、市場価格に基づいて制御を進める方向も検討すべきではないか。

シンプルに価格シグナルを出すことで、全ての関係者に分かりやすくなる可能性がある。

系統管理側が順番を決めるよりも、(発電者に)(系統容量の範囲内で)市場で(流通網利用の権利を時間別・地域別に自由に)取引して いただいて、その結果、(低価格で応札して落札できなかった)発電所に制御をかけることで、発電側(の創意工夫で)、(系統上にボトルネックが発生している場合、そこを通らずに、地域内で)、上手に使う とか、上手に貯めるという(インセンティブが働き)、 (それにより)イノベーションが生まれるというふうに思っている。

市場メカニズムを活用した出力制御により、(地域内で)余っ てしまいそうなものをうまく活用するって方向に進んでいけるとよいのではないか。

その結果として 、送配電会社は、系統増強の費用を回避できるし、(再エネの地産地消が進み)社会コストの抑制が図られる というように考えていて、あらゆる アプローチでの検討を是非お願いしたい

結果として、それが(発電者や蓄電者の)の早期接続にもつがると思う。

大変イノベイティブなご発言であり、筆者も大いに賛同致します。是非議論を進めていければと思い、以下に説明させていただきます。

出力制御の現行ルール

遠方の発電所から、電気を消費地に送るための送電網ですが、その容量をオーバーしてしまう場合は電気を送ることができず、仕方なく発電所の出力を制限することで調整せざるをえません。

系統混雑が発生した場合、送配電事業者は、需給状況や系統制約を踏まえ、ノンファーム電源から順に出力制御を実施します。これは、系統の安定運用を確保するために、あらかじめ「出力が制御され得る電源」として位置付けられている電源を優先的に調整する仕組みです。ファーム接続電源は、原則としてこの段階では制御対象とはなりません。

このような仕組みにより、系統増強が追いつかない中でも再生可能エネルギーの導入を可能にする一方で、発電事業者側にとっては、出力制御リスクを織り込んだ事業計画が求められる構造となっています。ノンファーム接続は、再エネ導入拡大と系統制約の現実を両立させるための制度であるといえるでしょう。

市場メカニズムにゆだねる手法

「みんなで一律に順番に止める」というのは、それはそれで公平なのですが、一方で、社会全体の経済効用を損なっているのではないかという考えも成り立ちます。

その理由の一つに、発電事業者ごとの「電気をどうしても送りたい度合い」や「経済的価値の差」が、制御の判断に一切反映されていない点にあります。本来、電力を送電混雑区間の先に送る価値が高い事業者は、その対価として高いコストを負担してでも送電を希望するはずです。一方で、送電コストが高くなるのであれば、発電を抑制したり、別の販路を選択したりする事業者も存在します。

そこで考えられるのが、送電網の混雑地点(ボトルネック地点)、言ってみれば江戸時代の関所のような地点で「通行料金」を設定し、その利用を市場メカニズムに委ねる方法です。

例えば関所を通過して電力を送電したい発電事業者が、その通行料金を入札によって競い合う仕組みです。

これにより、経済価値の高い電源ほど高い料金を支払って送電し、相対的に価値の低い電源は送電を見送るという選択が、自然に行われることになります。

この仕組みは、市場を通じて送電容量を最も価値の高い用途に配分するため、全体としての経済効用を最大化する効果が期待されます。

また、副次的な効果として、通行料金が高いのであれば「遠くに送るよりも、混雑区間の手前で電気を買ってくれる需要家を探そう」というインセンティブが生まれます。

その結果、再生可能エネルギーを地域内で発電し、地域内で消費する、いわゆる地産地消型の電力利用が促進されます。

こうした行動変化が広がれば、追加的な系統増強投資の必要性も抑制され、社会的コストの低減につながります。

同時に、本当に価値の高い電源だけが混雑区間を通行できるため、発電事業者にとっても予見性が高く、ストレスの少ない系統利用が可能になるというメリットがあります。

解決すべき3つの課題

しかし、本当に市場メカニズムを導入するとなると沢山の解決すべき課題が出てきます。思いつくところを3つ挙げてみます。

1.FIT制度との整合性をどう確保するか

第一の課題は、現行のFIT制度との整合性です。FIT制度の下では、すべての発電事業者が同一の価格で、同一条件のもと電力を販売するため、発電電力の経済的価値が事業者間で差別化されません。

その結果、送電混雑時においても「どの電力を優先して流すべきか」という経済的なシグナルが働きにくいという問題があります。

しかし今後、FIP制度の拡大や、FIPに依らないコーポレートPPAが普及し、アワリーマッチングの重要性が高まっていけば状況は変わります。時間整合性を強く求める需要家は、より高い価格で電力を購入するインセンティブを持つため、その需要に応える発電事業者は差別化され、結果として高い価値を持つ電力が優先的に送電されることになります。

反対に、安値でしか売れない電力は優先順位が下がり、この点は市場の進展とともに解消されていくと考えられます。

2. 再エネ発電のボラティリティへの対処

第二の課題は、再生可能エネルギー特有の変動性です。特に太陽光発電と風力発電は時間帯ごとに発電量、すなわち流通可能な計画電力量が大きく変動します。さらに、予測精度を高めたとしても、風況や日射の急変などにより計画と実績が乖離することは避けられません。

その結果、通行権を確保したにもかかわらず実際には電力を送れず、需給バランスに影響を及ぼすリスクも想定されます。ただし、この点については、データの高度化やDXの進展、AIによる予測・制御技術の活用によって、克服できない課題ではないと考えられます。

3. 価格に反映されない社会的価値

第三に重要なのが、価格に反映されない社会的価値をどう扱うかという点です。

価格が高い電力が、必ずしも社会的に最も望ましいとは限りません。(外部経済性)

例えば、環境負荷や地域負荷が低く、持続可能性の高い「質の高い再生可能エネルギー」は、仮に安価で取引されたとしても、社会的な功用は高いと評価されるべきです。

反対に、お金にものを言わせて、社会・環境負荷の高いメガソーラーを買電価格は安くして、その分送電料金を高く設定する(関所の通行料金)などの行動を誘発し、「悪貨が良貨を駆逐する」ことにもなりかねません。

こうした価値をどのように制度や市場に組み込むかは、重要な論点となります。

問題はこれだけではなく、「実際にどこに関所を置くのか?」「送配電会社の流通網の適切な投資義務を棚上げしてようのか?」といったように、数え上げればきりのない課題を丁寧に克服する必要があります。

海外の事例

実はこうした市場メカニズムによる混雑管理は、電力自由化で先行する欧米において、既に20年以上の運用実績を持つ制度です。「ボトルネックの利用価値」を価格化し、その変動リスクを回避(ヘッジ)するための仕組みとなっています。そこで、海外の例を俯瞰してみましょう。

1. 米国における「ノーダル価格制(LMP)」と送電権(FTR/CRR)

米国の大規模系統運用機関(ISO/RTO)では、系統内の混雑を地点別の価格差として表現するノーダル価格制(LMP: Locational Marginal Pricing)が主流です。


PJM(ペンシルベニア・ニュージャージー・メリーランド州等)

米国最大の独立系統運用機関であるPJMでは、1999年5月に「点対点(Point-to-Point)」の送電権(FTR: Financial Transmission Rights)オークションの運用が開始されました。

これは、混雑によって発生する地点間の価格差(混雑収入)を受け取る、あるいは支払う権利を売買する仕組みです。

CAISO(カリフォルニア州)

カリフォルニア州の系統運用機関CAISOでも、2009年4月1日の市場移行(MRTU導入)に合わせて、CRR(Congestion Revenue Rights)と呼ばれる同様の枠組みが整備されました。

これらの制度により、発電事業者は「関所」の通行料金にあたる価格変動リスクを市場でヘッジすることが可能となり、同時に「どの地点の系統を増強すべきか」という明確な経済的シグナルが社会に提示されるようになりました。

2. 欧州(EU)における「市場結合」と国境連系線の配分

欧州では、国を跨ぐ「国境連系線」の容量配分において市場メカニズムが徹底されています。

市場結合(MRC: Multi-Regional Coupling)

2014年2月4日から本格的に開始された仕組みで、前日市場において「送電容量」と「電力取引」を同時に最適化(暗黙のオークション)します。これにより、価格の低い国から高い国へ、連系線の容量限界まで自動的に電力が流れるよう配分されます。

共通オークションプラットフォーム(JAO)

長期的な容量確保については、2015年11月に公式ローンチされたJAO(Joint Allocation Office)という共通プラットフォームを通じて行われます。これにより、域内全体で透明性の高い容量配分が実現しています。

一方、EU域内の各国内の混雑については、主に送電運用者が発電機を調整する「リディスパッチ」で対応する形式が主でしたが、近年ではドイツなどでノーダル価格制導入の是非が議論されるなど、より市場に近い形への模索が続いています。

3 制度導入による成果と現状の評価

これらの制度は、以下の点で概ね肯定的に評価されています。

経済的合理性の追求

「高価値の取引(高い価格を払ってでも送電したい主体)」が混雑コストを負担することで、限られた系統容量が最も価値の高い用途に配分されるようになりました。

投資インセンティブの創出

慢性的な混雑地点では価格差(混雑収入)が大きくなるため、送電網の増強や蓄電池の設置に対する民間投資を促すシグナルとして機能しています。

4 運用上の課題

一方で長年の運用を経て、いくつかの重要な課題も浮き彫りになっています。

「物理的権利」から「金融的ヘッジ」への乖離

FTRやCRRは、あくまで混雑費用を相殺するための「金融的権利」であり、物理的に必ず流せることを保証するものではありません。そのため、再エネのように出力が不安定な電源にとって、金融リスクの管理が高度化しすぎる懸念があります。

域内リディスパッチ費用の増大

国境間の取引を優先しすぎた結果、国内の系統内で予期せぬ混雑が発生し、その解消(リディスパッチ)のために送電事業者が支払う費用が巨額に膨らむケースが出ています。

価格メカニズムの限界

複雑な系統の物理現象(電圧維持や慣性力など)や予測誤差、運用上の制約を、市場の「価格」だけで100%正確に表現し切ることは困難であり、市場と物理運用の精緻な連携が常に求められます。

終わりに

欧米の先行事例は、市場メカニズムが万能薬ではないものの、少なくとも「誰が、どの程度の価値のために系統を使うのか」を可視化する上で不可欠なツールであることを示しています。

日本における制度設計においても、これらの「ヘッジ手段の提供」や「物理と金融の調整」といった論点が極めて重要になると考えられます。

筆者が強調したい点は、GHGプロトコル改定で導入が見込まれているアワリーマッチング手法の導入と、日本での電力システム改革での課題はこれまで別々に議論されてきましたが、2つの課題を一気に解決できる可能性があることです。

従って、S+3E(安全性(Safety)を大前提として、安定供給(Energy Security)、経済効率性(Economic Efficiency)、環境適合(Environment)を同時に実現する考え方)の原則に基づき、適切なルール設計について検討していくべき時に来ていると考えます。

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(参考文献)

PJM FTR 運用開始

Australian Energy Market Commission (AEMC) | [米国におけるFTRオークションの歴史的経緯 (aemc.gov.au)](https://www.aemc.gov.au)

CAISO MRTU/CRR 導入

CAISO (California ISO) | [2009年4月市場移行に関する公式文書 (caiso.com)](https://www.caiso.com)

EU 市場結合 (MRC) 開始*| NYISO (New York ISO) / EU関連報告

[2014年2月の欧州市場結合に関するレポート (nyiso.com)](https://www.nyiso.com) |

JAO 公式ローンチ** | JAO (Joint Allocation Office)

[欧州共通オークションプラットフォームの設立 (jao.eu)](https://www.jao.eu) |