【解説】シリーズ長期脱炭素電源オークションとは何か― 20年級の投資回収を支えるkW収入
【解説】シリーズ長期脱炭素電源オークションとは何か― 20年級の投資回収を支えるkW収入
長期脱炭素電源オークションとは何か
― 20年級の投資回収を支える「長期kW収入」の設計図 ―


長期脱炭素電源オークション(以下、長期脱炭素オークション)は、将来の電力供給力(kW)を中長期にわたって確保し、同時に電源の脱炭素化投資を前に進めるための制度です。電力の取引というと、卸市場などでkWh(電力量)を売買するイメージが強いのですが、この制度が主に評価するのはkWhではなく、将来にわたり供給力を用意できること、つまりkWの価値です。

特徴は「長期」であることです。一般の容量市場(メインの容量取引)が原則として数年先の供給力を毎年確保するのに対し、長期脱炭素オークションは、建設期間が長く投資額が大きい電源や、系統の柔軟性に資する設備に対し、より長い期間の固定費回収の見通しを与える設計になっています。制度の全体像は、資源エネルギー庁のガイドラインと、OCCTO(広域機関)が公表する募集要綱・説明資料で整理されています。
資源エネルギー庁:長期脱炭素電源オークションガイドライン(2025年8月27日改定) (エネルギー庁)
OCCTO:長期脱炭素電源オークション概要(応札年度2025) (オクト)
以下では、実務担当者が制度を読み解き、案件の適合性や事業性を判断できるよう、目的、メカニズム、価格と収入の構造、第3回入札(応札年度2025)に向けた重要なルール変更(蓄電池枠の見直し、セル製造国30%制限、6時間要件、洋上風力の扱い)を、必要な数字を入れて整理します。
制度の目的
長期脱炭素オークションの目的は大きく二つです。
第一に、中長期の供給力(kW)確保です。電力は需要と供給を常に一致させる必要があり、将来の需要ピークや需給変動に耐えられるだけの供給力が、計画的に用意されていなければなりません。
第二に、脱炭素投資の促進です。再エネや蓄電池、揚水、地熱、あるいは脱炭素燃料・CCS等を含む電源投資は、投資額が大きく、リードタイムも長くなりがちです。短期の市場収益(kWhのスポット価格や短期相対)だけでは、資金調達や投資判断に必要な長期予見性を作りにくい局面が生じます。そこで、一定の固定費回収を長期にわたり制度的に支えることで、投資を前に進めやすくするのが制度の核です。 (エネルギー庁)
何をオークションするのか
この制度が取引する中心は、供給力(kW)に紐づく長期対価です。落札した事業者は、実需給年度に向けて設備を運開させ、所定の要件を満たす供給力を提供する義務を負います。対価は原則として「円/kW/年」で設計され、設備の固定費(資本費、運転維持費、資本コストなど)を中心に、応札価格に織り込みます。応札価格に入れられるコスト範囲はガイドラインで整理されています。 (経済産業省)
ここで大切なのは、長期脱炭素オークションはkWhの売り先を縛る制度ではない、という点です。発電・放電した電力量は、卸市場や相対、需給調整など他の市場で収益化されます。一方で、制度側は「固定費を長期で支える以上、他市場で得た収益の扱い」を制度設計に組み込み、過度な二重取りにならないよう調整する構造を持ちます。詳細はガイドライン・約款・募集要綱の条項で規定されます。 (エネルギー庁)

落札と価格決定の仕組み(マルチプライス)
長期脱炭素オークションは、応札価格の低いものから順に募集量に達するまで落札するのが基本です。一般に容量市場のメインオークションはシングルプライス(限界価格が全体に適用される)として説明されることが多いのに対し、長期脱炭素オークションは、応札価格がそのまま落札価格となるマルチプライスの考え方で設計されています。 (エネルギー庁)
実務的には、ここが事業者の入札戦略を左右します。限界価格一律ではなく、自分が提示した価格がそのまま収入に直結しうるため、資本費やO&Mの見積り、金利・為替の前提、工期リスク、メーカー見積条件など、モデルの「根拠の強さ」が入札競争力になります。

第3回(応札年度2025)の募集量
全体の募集規模ですが、OCCTOの概要資料では、脱炭素電源の募集量は500万kW(5GW)と整理されています。 (オクト)
そのうえで、主な上限枠(キャップ)が明示されます。第3回では、少なくとも次の枠が確認できます。 (オクト)
- 脱炭素電源(合計) 500万kW
- 脱炭素火力(上限) 50万kW
- 蓄電池・揚水・長期エネルギー貯蔵(上限) 80万kW
- 既設原子力の安全対策投資(上限) 150万kW
さらに、蓄電池・揚水・長期エネルギー貯蔵の80万kW枠は、技術の偏在を抑え、長時間化や多様化を促す意図で細分化されています。特に蓄電池については、次のように0.8GWを0.4GWずつに分ける設計が示されています。 (オクト)
リチウムイオン蓄電池+揚水(新設除く・リプレース等) 合計40万kW
リチウムイオン以外の蓄電池+揚水(新設)+LDES 合計40万kW
また、LNG専焼火力については、別枠の募集として2,929,036kWという具体値が示されています(前回分の扱いを含む整理)。 (オクト)

蓄電池ルールの大きな改訂点
第3回の制度整備で、蓄電池に関する変更は実務影響が大きいので、要点を三つに分けて整理します。
リチウムイオン枠の絞り込み(技術偏在の調整)
第3回では、蓄電池・揚水・LDESの合計枠が80万kWで、そのうちリチウムイオンに関わる上限が40万kWに置かれる設計です。これは、応札が特定技術に集中しやすい局面で、設備ポートフォリオを多様化し、長期の供給力・柔軟性をより安定的に確保するための制度調整として理解できます。 (オクト)
セル製造国・地域の30%制限(サプライチェーン多角化)
蓄電池については、セルの製造国・地域が特定の一国に偏りすぎないよう、落札容量に上限をかける設計が導入されています。募集要綱・意見募集結果資料では、リチウムイオン蓄電池だけでなく、リチウムイオン以外の蓄電池についても、セル製造国・地域ごとに1国・地域あたり30%制限をかける方向が示されています。 (オクト)
このルールは入札戦略に直結します。セル調達先が一国に偏ると、価格競争力が高くても約定処理で不利になり得ます。逆に、調達の多角化や国内製造の位置づけ、複数国セルを使う場合の代表国の扱いなど、事業計画書の設計段階から制度適合を組み込む必要が出てきます。 (オクト)
運転継続時間 連続6時間以上(長時間化の明確化)
蓄電池・揚水・長期エネルギー貯蔵について、連続6時間以上の運転(放電等)が可能であることを求める要件がガイドラインで明確化されています。 (エネルギー庁)
この要件は、短時間の調整力だけでなく、日内の需給ギャップを跨ぐような長めの柔軟性を、制度として重視する方向性を示します。再エネ比率が高まるほど、出力の山谷や夕方以降の立ち上がり、広域連系の制約下での偏在などに対応するには、より長い継続時間が効いてきます。したがって、6時間要件は「設備仕様」「保証条件」「運用(1日1回以上等)」の実装まで含めて事業計画に落とす必要があります。 (エネルギー庁)

洋上風力の扱い:第2・第3ラウンド支援に向けたルール整理
長期脱炭素オークションは電源横断的な制度ですが、洋上風力については、事業環境の変化(資材・為替・金利等)を受け、事業完遂の確度を高める観点から、制度上の整理が進みました。
ポイントは二つです。第一に、一般論としてFIT/FIPの適用期間中は固定費の二重回収を避ける観点から、長期脱炭素オークションへの参加を認めない整理がベースにあります。第二に、再エネ海域利用法の公募案件であっても、ゼロプレミアム案件のように、固定費二重回収の懸念が相対的に小さい類型について、黎明期の事業完遂を支える限定措置として、長期脱炭素オークションの活用を可能とする考え方が示されています。適用は第2・第3ラウンド案件に限定し、次回以降の公募に一般化しない方向も資料で整理されています。 (経済産業省)
実務担当者の視点では、洋上風力は資金調達と工期・サプライチェーンのリスクが大きく、キャッシュフローの安定性が完遂に直結します。長期脱炭素オークションの活用が可能になると、長期の収入の底が見えやすくなり、レンダーや投資家に提示するモデルの耐久性が上がる可能性があります。一方で、公募占用計画の変更や公平性、国民負担との整合をどう担保するかが制度側の論点として並行して整理されています。 (経済産業省)

実務で押さえるべき整理(案件設計・入札・資金調達)
最後に、長期脱炭素オークションを事業運営する実務の要点をまとめてみます。
第一に、枠の数字を前提に、勝負する区分を定めることです。第3回では脱炭素電源5GWの中で、蓄電池・揚水・LDESは0.8GWに整理され、さらに0.4GWずつに分割されています。リチウムイオンで取りに行く場合、枠の細さは戦略に直結します。 (オクト)
第二に、要件適合を「仕様・調達・契約」で固めることです。蓄電池は6時間要件、セル製造国30%制限があり、メーカー見積・セル調達・保証条件・工期を、入札前に制度適合の形にしておく必要があります。 (エネルギー庁)
第三に、収益モデルは「長期kW対価+他市場収益」の二層で設計し、制度側の収益調整(還付等)を織り込んだうえで、DSCRやコベナンツの前提を組むことです。長期kW対価は固定費回収の土台になり得ますが、kWh側の収益(卸・相対・需給調整・非化石等)をどう組み合わせるかで、案件のリスクプロファイルが決まります。 (エネルギー庁)
参考リンク
資源エネルギー庁:長期脱炭素電源オークションガイドライン(2025年8月27日改定)
https://www.enecho.meti.go.jp/category/electricity_and_gas/electric/summary/regulations/choukigl_20250827.pdf (エネルギー庁)
OCCTO:長期脱炭素電源オークション概要(応札年度2025)
https://www.occto.or.jp/assets/market-board/market/files/202507_youryou_gaiyousetsumei_long.pdf (オクト)
OCCTO:募集要綱・約款の意見募集(応札年度2025)
https://www.occto.or.jp/iken/2025_250716_youryoshijo_longax.html (オクト)
OCCTO:意見募集結果(募集要綱関係、セル製造国30%制限等)
https://www.occto.or.jp/assets/iken/2025/files/250903_ikenboshuu_kekka_boshuuyoukou_long.pdf (オクト)
経産省(洋上風力):洋上風力事業を完遂させるための事業環境整備(2025/11/19合同会議資料)
https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/saisei_kano/yojo_furyoku/pdf/041_02_00.pdf (経済産業省)