【解説】シリーズ長期脱炭素電源オークション(2)第1・2回の約定結果

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長期脱炭素電源オークション(LTO)の「第1回(応札年度2023年度)」「第2回(応札年度2024年度)」について、募集量・応札量・落札量(約定量)・平均約定単価を、電源種別ごとに解説します。

LTOの実績データを見ると、蓄電池は「応札が突出して厚い=競争が最も起きている電源」でありつつ、制度側の募集上限・区分設計(運転継続時間など)によって、落札(約定)量がコントロールされているのが分かります。

なお、LTOの“価格”は個別電源の約定単価は公開されません(個社情報の特定回避)。ですので、制度全体を「約定総額÷約定総容量」で加重平均の水準(円/kW・年)で読み解きます。

  1. LTOで蓄電池が「主役」になりやすい理由

LTOは、一言でいえば「投資回収の見通しを20年スパンで与える代わりに、他市場収益の約9割を還付する」設計です(固定費回収を主眼)。この構造だと、蓄電池は次の理由で参加しやすく、かつ応札が厚くなりやすいです。

  • 建設リードタイムが短く、案件形成が速い(許認可や工期の不確実性が比較的小さい)
  • エネルギー市場(kWh)、需給調整市場、容量系収入の“スタッキング”に慣れている事業者が多い
  • 系統側のニーズ(調整力・柔軟性)と整合しやすく、制度上も一定の枠が用意されやすい
  • ただし、枠(募集上限)を超えると落札できない=「応札が多いほど勝ち残り競争になる」

この「参加しやすいが勝ち残りは競争」という構造が、結果データにもそのまま表れています。

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  1. 第1回(応札年度:2023年度)

2-1. 募集量・約定量

・脱炭素電源:募集量400万kW、約定総容量401.0万kW
・LNG専焼火力:募集量600万kW(※資料上は複数年度の募集量の扱い注記あり)、約定総容量575.6万kW
(約定総額:脱炭素電源 2,336億円/年、LNG専焼火力 1,766億円/年)
出典:OCCTO 約定結果(応札年度2023年度)約定総容量・約定総額の表より

ここで重要なのは、蓄電池・揚水は「脱炭素電源の中の一部電源種として募集上限がある」点です。第1回は蓄電池・揚水の募集上限が100万kWでしたが、約定したのは合計166.9万kWです(全体の募集充足のために上限超過が起きうる設計があることが示唆されます)。

2-2. 応札量・落札量(電源方式別:万kW表示→括弧内は落札率)

OCCTO公表の「発電方式別の応札容量・落札容量」から、蓄電池は“応札が極端に厚い”ことが見えます。

・揚水:応札83.8 → 落札57.7(69%)
・蓄電池:応札455.9 → 落札109.2(24%)
・水素混焼への改修:応札5.5 → 落札5.5(100%)
・アンモニア混焼への改修:応札77.0 → 落札77.0(100%)
・水素混焼(リプレース):応札6.8 → 落札0(0%)
・バイオマス専焼(新設):応札19.9 → 落札19.9(100%)
・原子力(新設):応札131.6 → 落札131.6(100%)
・LNG専焼火力:応札575.6 → 落札575.6(100%)

この年の“蓄電池らしさ”はここです。

・蓄電池の応札が455.9万kWと突出(他電源より厚い)
・しかし落札は109.2万kWに絞られ、落札率は24%
・つまり「価格の安い順に落ちる競争」が最も強く働いているのが蓄電池だった、と読み取れます

2-3. 平均約定単価

個別電源の約定単価は非公開ですが、全体としては「約定総額÷約定総容量」で平均水準が取れます(円/kW・年)。

・脱炭素電源:2,336億円/年 ÷ 401.0万kW = 約5.8万円/kW・年
・LNG専焼火力:1,766億円/年 ÷ 575.6万kW = 約3.1万円/kW・年
(いずれも概算。端数処理の影響あり)

ここでのポイントは、LTOの収入水準は(少なくとも平均では)脱炭素電源の方が高く、LNG専焼は低いことです。LNGは「将来的な脱炭素化を前提にした“つなぎ”」として制度的に位置づけられているので、投資回収をフルに見込ませる設計ではなく、短中期の供給力確保を補う色が濃い、という整理と整合します(制度説明はOCCTO資料の冒頭整理に沿う)。

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第2回は、蓄電池が“主役であること”は変わりませんが、制度側が「運転継続時間」で募集枠を切ったことが、データ上はっきり見えます(3時間以上6時間未満/6時間以上)。

3-1. 募集量・約定量

・脱炭素電源:募集量500万kW、約定総容量503.0万kW
・LNG専焼火力:募集量2,243,680kW、約定総容量131.5万kW
(約定総額:脱炭素電源 3,464億円/年、LNG専焼火力 456億円/年)

LNG専焼は、応札(=約定)が131.5万kWと、前年(575.6万kW)より大きく減っています。ここは制度変更・募集枠の切り方・案件組成環境(コスト、許認可、需給見通し等)で変動しやすい領域で、年ごとの数字の振れが大きいところです。

3-2. 応札量・落札量(電源方式別:蓄電池の“時間区分”が見える)

OCCTOの方式別図から、蓄電池・揚水は「3~6h」と「6h以上」に分かれて公表されています。

・揚水(3h~6h):応札9.8 → 落札0(0%)
・揚水(6h~):応札75.6 → 落札36.1(48%)
・蓄電池(3h~6h):応札514.0 → 落札96.1(19%)
・蓄電池(6h~):応札181.6 → 落札40.9(23%)
・アンモニア混焼への改修:応札9.5 → 落札9.5(100%)
・既設原子力の安全対策投資:応札434.8 → 落札315.3(73%)
・一般水力(調整式):応札5.2 → 落札5.2(100%)
・LNG専焼火力:応札131.5 → 落札131.5(100%)

蓄電池だけ抜き出すと、次の2点が“実務的に大事”です。

(1) 応札は3~6hの方が圧倒的に厚い(514.0万kW)。しかし落札率は19%とかなり絞られている
(2) 6h以上は応札181.6万kWと相対的に薄いが、落札率は23%で、3~6hよりわずかに高い

つまり、「時間が長い方が勝ちやすい」と単純には言えませんが、制度側が“時間で区切る”と、応札行動が分かれ、落札の競争環境も変わる、ということが結果に表れています。

3-3. 平均約定単価

第2回も同じく、「約定総額÷約定総容量」で平均水準が取れます。

・脱炭素電源:3,464億円/年 ÷ 503.0万kW = 約6.9万円/kW・年
・LNG専焼火力:456億円/年 ÷ 131.5万kW = 約3.5万円/kW・年

第1回→第2回で見ると、

・脱炭素電源の平均水準:5.8 → 6.9万円/kW・年(上昇)
・LNG専焼の平均水準:3.1 → 3.5万円/kW・年(上昇)

と、全体として上がっています。これは「特定電源の価格が上がった」と断定するものではなく(個別単価が非公開なので)、制度全体の約定構成や入札環境を反映した“結果としての平均”です。ただ、少なくとも「脱炭素側の固定費回収ニーズが上振れしている」方向感と整合的な数値にはなっています。

4. 1/2回分を並べて見える「蓄電池の立ち位置」

4-1. 蓄電池・揚水の約定量は、2回とも“相当大きい”

・第1回:蓄電池109.2万kW+揚水57.7万kW=計166.9万kW(約定)
・第2回:蓄電池(3~6h)96.1万kW+蓄電池(6h~)40.9万kW+揚水(6h~)36.1万kW=計173.1万kW(方式別図から読み取り)
 ※約定総容量の表では「蓄電池・揚水」計173.0万kW(端数処理差)

第2回の方が、蓄電池・揚水“合計”の約定量はわずかに増えています。にもかかわらず「応札が厚いのに落札率が低い」という競争状況は継続しています(特に蓄電池)。

4-2. 応札の厚さは、蓄電池が突出(=制度上の“選別枠”になっている)

第1回も第2回も、蓄電池は応札が非常に厚いです。制度設計上、蓄電池は「価格競争が働きやすい電源」になりやすく、結果として“制度が欲しい蓄電池だけが落ちる”構図になりやすい、と実績が示しています。

4-3. 実務の読み替え:蓄電池は「落札できる前提」で事業計画を組むと危ない

この2回の結果だけでも、蓄電池は「応札さえすれば取りやすい制度」ではありません。むしろ、

・応札は集まりやすい(案件は多い)
・落札枠は制度側が持っている(募集上限・時間区分で締める)
・したがって、勝ち筋は “コスト(固定費)前提の入札戦略” と “制度要件(運転継続時間など)への適合” の両輪

になります。第3回以降で制度側が「特定技術への偏り」を抑える方向に設計するほど、ここはさらに重要になります。

参考資料

・OCCTO「容量市場 長期脱炭素電源オークション約定結果(応札年度:2023年度)」(PDF)
OCCTO 約定結果(応札年度2023年度)

・OCCTO「容量市場 長期脱炭素電源オークション約定結果(応札年度:2024年度)」(PDF)
OCCTO 約定結果(応札年度2024年度)・OCCTO 容量市場(制度解説・リンク集)
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