電力小売の新事業戦略【第1回】新Scope2下での炭素会計サービス

· 電力脱炭素,電気小売ビジネス,排出量算定の厳格化,需要家排出係数,昼シフト

電力消費によるCO2排出量の算定ルール(GHG Scope2ガイダンス)が大きく変わろうとしています。㈱電力シェアリングは、8年間の環境省事業で蓄積した知見と、独自の特許技術、海外組織とのネットワークからの最新情報分析を駆使してアドバイザリーサービスを提供しています。

はじめに

企業のCO2排出量算定の「憲法」ともいえるGHGプロトコル Scope2が2027年に改定される見通しです。そのドラフトでは、電力消費の「量」だけでなく、「どこで」「いつ」使われた電力なのかを、より厳密に捉える方向性が示されています。

これは電力小売会社にとって新たな手間が増える頭の痛い出来事となりそうです。

しかし、一方で、これまで十分に活用されてこなかったデータ資産を用いて、新しい付加価値を顧客に提供するチャンスでもあります。

そこで、本連載では、新Scope2改定の下での、電力小売会社の新規事業としての脱炭素サービスの可能性を考えていきたいと思います。

激変する炭素会計ビジネス

現在のScope2基準の下で、電力消費によるCO2排出量の算定は、極めてシンプルなものでした。

環境省がウエブサイトで公開する、電気料金メニューごとの年間の基礎排出係数や調整後排出係数に、年間の電力使用量を掛け合わせればよかったのです。

これは、電力小売会社でなくても可能な定型作業なので、需要家自身、あるいは第三者の炭素会計サービサーの手によって行われている現状にあります。

この作業は年次・平均値を前提とするものであり、炭素会計の専門領域として、電力小売会社が積極的に関与する余地は限られていました。

しかし、その状況が一変する可能性があります。

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深化する顧客のニーズ

新ルールでは、電力が消費された「時間」と「場所」によってCO₂排出量を評価することが求められます。

顧客(電力需要家)の立場に立てば、以下が重要となってきます。

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(需要家のニーズ)

  1. 自社が、どの時間帯に、どの地域で、どの程度電力を消費し、CO2を排出しているのかの現状把握
  2. それが、全国標準・他社に比べて多いのか少ないのか、自社内での事業所別や部門別にばらつきはあるのかといった評価と課題の抽出
  3. その改善に向けて、設備投資を伴わない、例えば省エネ・省CO2に向けた従業員の行動変容手法や、あるいは、蓄電池の導入などの設備投資による排出削減量の予測と、その費用対効果はどうかといった比較考量の上でのソリューションの策定
  4. その策を講じて実行した後の、定量的なフォローアップとPDCA管理

もちろん、この4つのサービスを提供できるのは電力小売会社だけではありません。

例えば、電管協は、第三者へスマートメータデータを準リアルタイムで提供するサービスを提供していて、当社もこれを用いたサービスの社会実証を環境省の委託を受けて実施しています。これはまたの機会にご説明します。

しかし、電力小売会社は、圧倒的に有利な立場にあります。以下ご説明します。

電力小売会社の持つ「4つの宝」

電力会社は、日常業務の中で、他業態では簡単に手に入れられない4つの重要な情報を有しています。これは「4つの宝」といってもよいでしょう。

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①供給地点番号

第一に、供給地点番号です。今までは、排出量の算定に場所のデータはそれほど重要ではありませんでした。

しかし新Scope2では「供給可能性」といって、どのエリアで需要家が電力を消費しているかが決定的な意味を持っています。供給地点番号にはそのカギが内包されています。

②電力消費量のビッグデータ(現在・過去)

第二に、ほぼ1-2時間遅れでパワーグリッドから送られてくる需要家毎の30分単位電力消費量データです。

これに、上記のエリアごとの時間帯排出係数を掛け合わせてCO2排出量が求められます。

それを、例えば検針日のインターバルで足し合わせて、電力消費量や電気料金と共にお客様にフィードバックすれば大きな付加価値を提供できます。

また、最近は、オンラインで時間帯別電力消費量を準リアルタイムで需要家に提供するサービスも珍しくなくなっていますので、1日、1週間別に集計したデータをオンラインで、リアルタイムに示すことも有効でしょう。

さらに、電力消費に対するCO2排出量の効率性を評価するために、期間通算のCO2排出量を電力消費量で割って、その需要家(需要場所)固有の、需要家排出係数を算定し、これを顧客にフィードバックすることで新しい付加価値に繋がります。

需要家排出係数は、自動車のエコドライブにおける燃費のようなものです。

もしある需要家に複数の需要場所があるのなら、需要場所ごとに排出係数を算定して、その比較や経年評価なども可能です。需要家排出係数があれば、これをベンチマーク・KPI(評価指標)として、その需要家が、例えば需要の昼タイムシフトによる削減努力の成果が時系列的に評価できますし、例えば1日ごとにフィードバックすればPDCAを毎日廻すことができるようになります。

エリアごとの時間帯排出係数をどう入手するのかについてすが、残念ながら現時点では、「エリアごとの時間帯係数」は公表されていません。しかし、例えば米国カリフォルニア州では、CAISO(日本のOCCTOに相当)がAPI連携でリアルタイムにその数値を誰にでも無償で提供しています。もし、新Scope2が日本に適用されるとなったら、カリフォルニア同様、公的機関が提供する可能性は大きいと思われます。

また、時間帯排出係数は、既にいくつかの組織が推定値を公表されているようですし、当社も環境省実証でを通じて10電力ごとにデータを整備・構築をしていますので、シミュレーションをご一緒させていただくことも可能です。

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③他需要家との比較データ

電力小売会社は多数の需要家を抱えています。それぞれの需要家の属性と組み合わせて、さまざまな分析や評価が可能となります。

どういった地域・業態・規模の需要家が、どの時間帯に電力を消費して、CO2を排出しているのか需要家排出係数はどうかといったビッグデータを構築できます。これを生成AIなどを用いて、分析・評価します。

そして、それを統計化し、各需要家のランキングを付けたり、経年変化をスコアリングしたりするなどして、それを需要家に準リアルタイムでお知らせすることは容易に可能です。

これは、他業態には容易にできない技法です。

④需要想定(≒将来のCO2排出量想定)

このように、①時間帯ごとの電力消費量、そこから計算される時間帯ごとのCO2排出量、そして、②1日や1か月といった期間を通算した電力消費総量とCO2排出総量、さらに③CO2排出の効率性を評価する需要家排出係数、の3点セットを需要家に提供するのに圧倒的に有利なポジションにいるのが電力小売会社です。

しかし、これだけではありません。電力小売会社が日々作業をされている需要想定、実はこれが宝の山になります。

上記の三点セットは、あくまでも過去の残像にすぎません。重要になるのは、これからどうなるのかということです。

新Scpope2の下で、時間帯別の電力需要を想定をするということは、将来のCO2排出量を予想することと同じ意味を持ちます。

これを電力小売会社は全需要家のマクロベースでは日常業務として行っているのですが、それをミクロベース、需要家毎に予想することも、生成AIなどを用いれば、それほど難しいことではありません。

つまり、需要家に過去の結果をお返しするのではなく、今後の見通しを知らせることも可能となってきます。

まとめ

いかがでしたでしょうか。第一回は、電力小売会社の新規ビジネスの可能性について大きな絵姿をお示ししました。しかし、実際にこれを展開するとなると、精緻な条件整備が必要となってきます。

さらに厄介なのは、まだ新Scope2の完成形が全く定まっていないということです。しかし、この改定が電力ビジネスにもたらす影響は大きいと当社では考えています。その中で、電力小売会社には早めの対応が必要になるといえるでしょう。

次回以降に、新ビジネスの詳細について、引き続き解説させていただきます。