【解説】シリーズ容量市場(2):第1回・第2回の約定結果を「電源種別×数字」で整理

· 容量市場,電力ニュースの深堀り
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容量市場の価格形成

容量市場のメインオークションは、

  • 調達量の考え方:全国一体
  • 価格の成立:エリア別

という二層構造になっています。

日本全体として必要な供給力(kW)を満たすことが前提ですが、
実際の約定価格は、

  • 北海道
  • 東北
  • 東京
  • 中部
  • 北陸
  • 関西
  • 中国
  • 四国
  • 九州

という 一般送配電事業者エリアごと に成立します。

これは、連系線制約や系統混雑を踏まえ、
「特定エリアで供給力が不足する事態」を避けるための設計です。

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3. 対象実需給年度2027年度向け(2023年度実施)の約定結果

3-1. 全体像(全国)

  • 約定総容量:167,447,465 kW(約1.67億kW)
  • 約定総額(経過措置控除後):約1.31兆円

この水準は、日本の最大電力需要(ピーク需要)を上回る供給力を
制度的に確保していることを示しています。

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3-2. エリア別の約定価格と容量

  • 北海道:13,287円/kW(約519万kW)
  • 東北:9,044円/kW(約1,773万kW)
  • 東京:9,555円/kW(約5,542万kW)
  • 中部:7,823円/kW(約2,323万kW)
  • 北陸:7,638円/kW(約457万kW)
  • 関西:7,638円/kW(約2,886万kW)
  • 中国:7,638円/kW(約838万kW)
  • 四国:7,638円/kW(約786万kW)
  • 九州:11,457円/kW(約1,620万kW)

ここで注目すべき点は、

  • 東京・九州・北海道が相対的に高い価格
  • 北陸・関西・中国・四国が同一水準

という価格構造です。

これは、
需要規模・電源構成・連系線制約の組み合わせが
価格に反映されている結果といえます。

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4. 対象実需給年度2028年度向け(2024年度実施)の約定結果

4-1. 全体像(全国)

  • 約定総容量:166,213,742 kW(約1.66億kW)
  • 約定総額(経過措置控除後):約1.85兆円

容量(kW)自体は前年とほぼ同水準ですが、
総額は大きく増加しています。

これは、後述する エリア別価格の上昇が主因です。

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4-2. エリア別の約定価格と容量

  • 東北:14,812円/kW(約1,653万kW)
  • 東京:14,812円/kW(約5,405万kW)
  • 中部:10,280円/kW(約2,360万kW)
  • 北陸:8,785円/kW(約456万kW)
  • 関西:8,785円/kW(約2,750万kW)
  • 中国:8,785円/kW(約973万kW)
  • 四国:8,785円/kW(約750万kW)
  • 九州:13,177円/kW(約1,745万kW)

2027年度向けと比較すると、

  • 東京・東北が約1.5万円/kW水準まで上昇
  • その他エリアも全体に底上げ

という変化が確認できます。

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5. 電源種別の構成と容量市場の性格

容量市場のメインオークションでは、
特定の電源種が優遇・冷遇される設計にはなっていません。

評価されるのは、あくまで

  • 実需給年度において
  • 必要なときに
  • 確実に供給できる能力(kW)

です。

その結果として、落札構成は以下のような傾向を持ちます。

火力(LNG・石炭)

  • 最大の落札主体
  • 特に既設LNG火力が中核
  • 容量市場収入は 維持・退出防止のための補完収入

原子力

  • 稼働有無にかかわらず「供給力」として評価
  • 安全対策投資・維持費の補完的役割

水力・揚水・蓄電池

  • 放電・発電可能時間や運用要件を満たせば評価対象
  • 調整力としての価値は、需給調整市場で別途顕在化

再エネ(太陽光・風力)

  • 期待容量が小さく、容量市場での比重は限定的
  • 主戦場はkWh市場・非化石価値・時間価値

6. 容量市場の価格水準が意味するもの

容量市場の価格は、おおむね

  • 年あたり1万円台前半~中盤(円/kW)

で推移しています。

これは以下の意図があることが推定されます。

  • 新設電源の投資回収をフルに支える → しない
  • 既設電源の退出を防ぐ → する

つまり容量市場は、

「投資誘発市場」ではなく
 「供給力維持市場」

として設計されています。

この点が、長期脱炭素電源オークション(LTO)との
最も本質的な違いです。

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7. 容量市場に参加する事業者が注意すべき点と戦略

7-1. 注意すべき点

  1. 容量市場収入は“主収入”にならない
    卸市場・相対契約・需給調整市場との組み合わせが前提。
  2. 供給力未達リスクが実在する
    実需給年度にkWを出せなければ、
    精算・ペナルティの対象となる。
  3. エリア価格の差が収益に直結する
    同じ電源でも立地エリアで収入が大きく変わる。

7-2. 基本的な戦略

  • 容量市場は
    「退出を遅らせる保険」として位置づける
  • 本業の収益(kWh・調整力)と
    二階建てで最適化する
  • 将来の価格上昇を前提にしすぎない
    (価格は政策・需給で変動)

8. まとめ

容量市場(メインオークション)は、

  • 電力自由化の副作用として生じた
    供給力不足リスクを制度的に補う市場
  • kWh市場では評価されない
    「信頼性」を社会全体で調達する仕組み

です。

直近の対象実需給年度2027・2028の結果は、

  • kW規模は安定
  • 価格は上昇傾向
  • エリア差が明確化

という特徴を示しており、
容量市場が 日本の電力システムの基盤市場として定着しつつある
ことを裏付けています。

参考リンク(本文中で参照)