【シリーズ】長期脱炭素電源オークション(3) 蓄電池事業者から見た長期脱炭素電源オークション(LTO)の実像— 時間区分・90%還付・第3回ルール変更が事業性に与える影響
【シリーズ】長期脱炭素電源オークション(3) 蓄電池事業者から見た長期脱炭素電源オークション(LTO)の実像— 時間区分・90%還付・第3回ルール変更が事業性に与える影響


はじめに:
LTOは「蓄電池に有利」なのか、それとも「選別装置」なのか
長期脱炭素電源オークション(LTO)は、制度の表層だけを見ると、
- 20年間の固定収入が得られる
- kW価値が正面から評価される
- 再エネ+蓄電池時代の主役向け制度
のように映ります。
しかし、第1回・第2回の約定結果を事業者の視点で振り返ると、
LTOは「蓄電池を広く救済する制度」というよりも、「蓄電池を厳しく選別する制度」に向かっていることが見えてきます。
以下では、その理由を3つの軸で解説します。

落札量の「時間区分」は、何を選別しているのか
― 3–6時間 vs 6時間以上の“本当の意味” ―
1. 第2回で初めて明確化された「時間区分」
第2回LTOでは、蓄電池が以下の2区分で整理されました。
- 3時間以上6時間未満
- 6時間以上
これは単なる技術分類ではありません。
「系統が欲しい“役割”の違い」を制度に埋め込んだ設計です。

2. 応札・落札データが示す現実
第2回の実績を簡略化すると:
ここで重要なのは、落札率の差が小さいことではありません。
重要なのは:
3–6hは「大量に作れるが、真っ先に切られる」
6h以上は「作れる人が限られ、枠が確保されやすい」
という構造的な違いです。

3. 投資回収の観点での決定的差
3–6時間電池
- CAPEX:相対的に低い
- 技術成熟:高い
- 案件組成:容易
- 競合:非常に多い
👉 価格競争が極端に激しい
結果として、
- LTOの落札単価は「固定費ギリギリ」
- 少しでもコストが高いと即脱落
6時間以上電池
- CAPEX:明確に高い
- 技術成熟:途上
- 案件組成:難易度高
- 競合:限定的
👉 制度的に“残される余地”がある
ここでのポイントは、
LTOは「コストの安い電池」を選んでいるのではなく、
「系統価値を長時間出せる電池」を選び始めている
という点です。

4. 事業戦略
3–6h電池
- LTOは「勝てたらラッキー」
- 基本戦略は“LTO非前提”
- 6h以上電池
- LTOは「事業計画の中核」
- 初期からLTO前提で設計すべき
90%還付は、マーチャント収益をどう薄めるのか
― 「二毛作」は本当に可能なのか ―
1. 90%還付の本質
LTOでは、落札電源が:
- 卸市場(kWh)
- 需給調整市場
- 非化石価値市場
などで得た収益の原則90%を還付します。
2. 数字で見る「収益の薄まり方」
仮に、ある蓄電池が:
- 年間マーチャント収益:10億円
- 卸 arbitrage:6億円
- 調整力:4億円
を得たとします。
LTO落札後は:
- 事業者に残る:1億円
- OCCTOへ還付:9億円
👉 マーチャント収益は「オプション的副収入」になる

3. では、なぜ事業者はLTOに応札すべきなのか?
それは以下の視点です。
「収益の上振れ」を捨てて、
「倒産確率を極小化する」ため
LTOは、
- IRR最大化の制度ではない
- 資金調達可能性(バンクアビリティ)を最大化する制度
です。
4. LTO×マーチャントの正しい整理
👉 保険付き固定収入と理解すべきです。

(c) 第3回で枠が動くと、入札戦略はどう変わるか
― 勝ち筋はどこに移動するのか ―
1. 第3回で起きた(起きている)変化の方向性
第3回では、明確に次の思想が読み取れます。
- リチウムイオン電池の偏重是正
- 長時間・多様技術への誘導
- 「応札しやすい電池」から「必要な電池」へ
これは、制度が第2フェーズに入ったことを意味します。

想定される戦略分岐
戦略A:低コスト3–6h × 数撃ち
- 応札多数
- 価格競争激化
- 落札確率:低
- 向いている事業者:ポートフォリオ型・体力あり
戦略B:6h以上 × LTO特化設計
- 応札数限定
- 技術・調達力が鍵
- 落札確率:中〜高
- 向いている事業者:インフラ型・長期保有
戦略C:LTO非依存 × マーチャント特化
- kWh・調整力集中
- LTOは使わない
- 市場リスク大
- 向いている事業者:トレーディング強者
第3回以降の“本当の分水嶺”
LTOは「全ての蓄電池の受け皿」ではなく、
「日本の電力システムが必要とする蓄電池」を
徐々に絞り込む装置になっている
という点です。

まとめ:蓄電池事業者がLTOをどう位置づけるべきか
以上をまとめてみます。
- LTOは収益最大化の制度ではない
- LTOは“生き残り確率”を最大化する制度
- 時間区分は技術選別ではなく、役割選別
- 90%還付は罰ではなく、保険料
- 第3回以降、制度は「本当に必要な電池」だけを残しに行く
したがって、
「LTOに勝てる電池」を作るのか、
「LTOに依らない電池」を作るのかを、
事業者は最初に決めなければならない――これが、
第1回・第2回の数字が突きつけている現実です。